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21羽 天使は戦争の足音を聞く

 旅の二日目は何事も無く、順調だった。というよりは、獣や盗賊どころか、誰ともすれ違うことが無いという状況で、どこか別の世界に飛んできたのではないかとさえ思えた。

 あちこちから鳥の鳴き声が聞こえてきて、気持ちを落ち着けてくれたりもしたが、あまりの二人だけの時間の長さに、会話も遂には途切れてしまった。そもそも出会って間も無い間柄であり、私自身も身の上や過去の話を出来る訳でもない。当然と言えば当然だった。

 それでも間をもたせようと思案をしつつ話をするも、どこか上の空のカレルドは短く曖昧な返事に終始していた。

「カレルド、聞いてる?」

 我慢の限界に達し、私は腰に回した手を外して、カレルドの首を絞めた。

「あ、わ……悪かった……」

 その言葉を聞いて、私は手を緩める。

「周囲の様子を見ながら、色々と考えていたんだ。戦争の影響がないかとか、それらしい行軍の跡が無いかとか……」

「……で?」

「人とすれ違わないのは、その兆候かもしれないけど、他にはそれらしい痕跡は無いな」

 私は手をカレルドの腰に戻す。

「できれば、後ろの女の子の様子も伺ってくださいな」

 頬を膨らませて抗議するが、ハイハイとつれない返事が返ってくる。

「大体、戦争だったとして、もし敵と遭遇したらどうなると思ってるの?」

「んー、即時に攻撃される。人数が多ければ死ぬな」

「で、友軍だったら?」

「休暇召し上げで、即時編入だろうなぁ」

 ペシっ!

 のほほんと答えるカレルドの頭を、平手で叩く。

「痛いなぁ」

「なんでそれが分かってるのに、いつまでもそんな格好してるの? 休暇でもその鎧を着てなきゃ駄目な規則でも有るの?」

「……ああ、確かに」

 納得したように答えると後ろを振り返って笑う。屈託の無い笑顔に私の胸は鼓動を早める。

「はい、危ないから前見て!」

 右手でカレルドの顔を前に向けると、その背中に頭を付ける。

「何だよ、後ろの様子も伺えって言ったの君だろ?」

「……う……。……で、どうだった?」

「後ろの女の子は怒ってました」

 困ったように答えると、カレルドは空を見上げた。

「……馬鹿」

 私はボソリと呟いた。カレルドがその言葉に反応しなかったので、声が聞こえていたのかどうかは私には分からない。けれど、その後はカレルドからも少し話題を出すようになったので、少し安心した。


 その日の夕方、大分暗くなってから、ようやく目的の街に辿り着いた。

 街に入ったが、活気が無い。気のせいなどではなく、明らかに人々の表情が暗い。酒場などが多く並ぶ通りも、人影はまばらで店にも活気が無い。

「みんな不安に怯える顔をしてるね……」

 カレルドは私に言われるがまま、鎧を脱いで袋に詰めて馬に担がせている。鎧を着たまま、街に入ったとしたらどのような対応をされただろうか。

 恐れられて追い出されたか、守護者が来たと歓迎されたか。いずれにしても心地よいものではなかっただろう。

「そうだな……。明日どうなるかも分からないといった感じだな」

「そういう時って、街から逃げ出したりしないの?」

 天使として生活してきた自分には、その心の拠り所が分からない。いや、人間の考え方がわかっていないのかもしれない。

「行く宛てが有ればいいさ。けれど、みんなここで生きてきた。生活基盤を移す事も怖いのさ。逃げた先でも安全とは言えないしな」

 そんなものなのかと、うつむく私をそっと抱き寄せると、カレルドは優しく私の頭を撫でた。


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