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2羽 堕ちた天使

 翌朝。天使長の言葉通り、私は魔将軍の魂を持たされ、地上に落とされる事になった。

 魂は小さな箱に封印され、腰の袋に入れられている。姿を隠すアンクレットは外され、力を封じるブレスレットを装着させられた。

「何か言う事はあるか?」

 刑の執行官が、私を見る。

「何も」

 今更、何を言う事があるだろうか。

 泣き叫べば許してくれるのか?

(時折、誰かが様子を見に行くことになっている。腰の袋には魂とは別に、金貨も入っているから当面の心配はないはずだ。皆が減刑を求めているから、いすれ戻る事もできるはずだ)

 執行官は誰にも聞こえぬよう、小さな声で私に教えてくれた。その小さな優しさに、少し涙が滲んだ。

「それでは、さらばだ」

 執行官の言葉と同時に、私の立っていた床板が外された。


 私は地上へ落下する。

 翼を使えば、飛べるはず。

 私は翼を広げたが、思うように翼が動かない。ブレスレットのせいだ。必死で動かすが、落下速度を弱めるのが精一杯だった。

「うごけーっ!!」

 それでも諦めずに安全な場所に着地しようとあがく。


 その苦労が多少実ったか、地上への激突は回避できた。とは言っても、見事に着地、というものではなく、大きな木をクッションに何度も枝を折りながら、大きな怪我も無く地上に落ちるという、天使らしさのかけらもない無様なものだったが。

「いたたたたた……」

 天使だけに、体が丈夫に出来ているとはいえ、さすがに無傷というわけにはいかなかった。骨折とまではいかないが、体中擦り傷とアザだらけ。

「天より賜わりし優しき命の力よ、ここに顕現せよ大いなる癒し(キュアシリアス)

 本来なら使えるはずの治癒の魔法を唱えてみる。

 効果は発動し、ほんの少し傷が消えた。

「あはは、効果もこんなもんか」

 泣きたいのを通り越して、笑うしかなかった。


 森の中に落ちたが、落下中近くに見えたのは小さな砦だけ。民家らしいものは遠かった。

 翼の使えない私は、方向も分からずただ歩くしかなかった。

「ヴィオランダー! ヴィオランダー!」

 戦場から離れた地だということは分かっているが、死神の名を呼ぶ。魔将軍の魂を回収してもらわなくてはならない。

 天使としての力を失った私の声が、彼に届くとも思えない。魂の存在を感知して迎えに来てくれるのを待つか、それとも戦場まで届けるか。

 どの道、先は長い。


 一瞬、木が動き、何かの気配がした。

 獣か、人か、怪物か。

 私は身構えたが、手に武器は無い。

 武器?

 何の為に?

 身を守るため?

 天使が地上で人を殺せば、二度と天界には戻れない。今とて戻れるかどうかも分からないが、それは可能性を摘み取る行為に等しい。

 私は翼を隠し、手を上げて、抵抗する気のない事を示した。力を失った今の私には見えないが、おそらく今は仲間たちが見守っていてくれるはずだと信じて。


 私の存在を警戒するように人影は現れた

「なんだ…、女ひとり……か…?」

 鎧を身に纏った男は、私を見るなり安堵したような表情を見せた。


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