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15羽 人間世界の基準と天使

 朝を迎えると、私は身支度を整える。

 あまり寝ていない気もするが、眠いという気もしない。

 上着を羽織り、防寒対策を整えると、靴を履き、最後に剣を下げるベルトを装着する。私の心は既に決まっているので、今更じたばたする必要も無い。

 部屋を出ると、すれ違う人たちに礼を言い、別れの挨拶に頭を下げる。短い付き合いだったとは言え、優しく接してくれたこの砦の人達との別れは少々寂しい。この人達と再び会うことがあるのだろうかと思いつつ、笑顔を崩さない。人間の常識は分からないが、私はそれが別れる時の礼儀だと思っている。


 カレルドに置いていかれないよう、自分から部屋を訪ねる。

「嬢ちゃん、カレルドなら厩舎にいるぜ」

 オヤジさんと呼ばれている年配の騎士が親切に教えてくれた。

「有難うございます。また戻って来るか分かりませんが、とりあえずお別れです。色々と有難うございました」

 オヤジさんは私に寄って来る若い者達を追い払ってくれたり、私に気付かれないようにしながら時々様子を見に来てくれていた。気付いてましたけどね。

「可愛い花が無くなると、またこの砦も辛気臭くなるな。元気でやれよ!」

 照れ臭そうに笑いながら、オヤジさんは去っていった。

 そして私は気付いた。カレルドは厩舎にいると言った。馬の所にいるという事はもう出掛ける気でいるに違いない。

 私は慌てて砦の階段を駆け下りると、表に出る。こんな時に翼が使えたなら、すぐに飛び降りる事ができたのに、と封印された事を恨めしく思う。

 ブツブツと恨み言をつぶやきながら厩舎に駆け込むと、そこには馬の世話をするカレルドの姿が有った。

「良かったぁ、まだ居たぁーっ」

 私はそのまま地面にへたり込んだ。

「なんだよ、そんなに慌てて」

「だって、ひとりで行っちゃったかと思ったんですよ!」

「あとで呼びに行くつもりでいたさ。これから遠路移動しなきゃいけないんだから、馬にもちゃんと食べさせて、世話をしておかないといけないだろ?」

 笑顔で子供をなだめるように言うので、私は口を尖らせて拗ねてみせる。

「分かってますけどね」

 言いつつも、好きな人が近くに居て笑っているという、一見平凡なように見える時間こそが大切だと分かるようになった分だけ、私は大人になったのだろうか。


 天使としての仕事をするためだけに、生き死にだけに焦点を当て、私は人間界を見てきた。だから誰かを大切に想ったり、愛したりする人間の機微に関する部分については、何も見てこなかった。だから私の有り様が、人間達にとって違和感の無い物なのか、その心の動きが人間と同じなのか、分からない。

 ただひとつ分かる事は、この人の前では笑顔で居たい、この人の笑顔が見ていたい、という胸にある想いだけだった。


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