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1羽 天使の仕事

「忙しい、忙しい」

 地上で戦乱などが起きるから、魂の回収が間に合わないのだ。

 その魂を死神に渡し、どの魂を天界に持ち帰るか、選別までやらなければならない。

 面倒だとは思わないが、手が足りない。

 魂を詰め込んだ籠も、もう満杯。でもまだ回収しなければいけない魂が浮かんでいる。


 今回の戦争で、1万人以上が死んだ。

 大軍同士の激突だった。侵略側と、防衛側の連合軍。

 空から見ているだけでも気分の悪くなるものだった。

 私の姿は生きている者には見えない。そういう力を持ったアンクレットを装着しているからだ。


「よう、ファラーナ。お勤めご苦労さん」

 私に声をかけてきたのは、ヴィオランダーという名の死神。

 何度も顔を合わせている。

 陰気なオーラを纏っているが、美しい顔立ちとスラリとしたスタイルは、美男子という部類に入るだろう。

「お仕事は順調?」

「いや、事前情報だと、今回の戦争で魔将軍と呼ばれた男の寿命が尽きる予定だったんだが、ソイツの魂が見つからねぇ」

 ヴィオランダーは肩をすくめて苦笑いした。

「ああ、魔将軍ね。やっと死んだの? これで戦争も減るかしらね」

「さあな。減ってくれりゃあ、少しは仕事が楽になっていいんだがな。今回の戦も決着がついたとは言えねぇ終わり方だしな……」

 大勢の死者を出した割には損害は同程度で、そのまま膠着状態に陥り、両軍とも一時退却というものだった。

 まだ次があるだろうが、主軸と言われた魔将軍が死んだのなら、流れも変わるかもしれない。人界には干渉してはいけないが、仕事上そういった事情には詳しくなる。


「で、魔将軍の魂はどんなの?」

「恐らく漆黒に近い色をしていると思うんだがな」

 私が集めるのは、罪を殆ど抱えていない純白に近い色の魂。

 籠の中には白い魂が山のように入っている。

「見かけたら、教えるよ」

「ああ、頼む」

 そう言って、死神と別れ、私は一旦天界に戻る事にした。

 籠の中を整理したかったからだ。


 天界に戻った私は、魂を選別所に持ち込んだ。

「おやまた大量ですね」

 選別所の下級天使、ミラネルおばさんだ。いつも窓口にはこのひとが居る。

「大規模な戦争があったから……」

「ってことは、まだまだあるって事ですか?」

 ミラネルおばさんはため息をついた。

 これから待っている仕事の多さを想像したのだろう。

「私の他にも行ってるからね。まだまだ来るよ…」

「本当に人間ってのは……」

 その先をミラネルおばさんは口にしなかった。

「じゃあ、また行ってきます」

 私はそう言って、また地上へ戻った。


 次に私が魂を回収して戻って来た時には、天界は大騒ぎになっていた。

 私を見るなり、衛士達が慌てて駆けつけてきて、急いで私を拘束する。

「何? どういうこと?」

 私には何が起きたか理解ができない。

「天使長がお待ちだ、そこで聞け!」

 衛士達はそう言って何も教えてくれない。

 そのまま私は、天使長の待つ神殿へ連れて行かれた。


 衛士達は天使長の居る部屋に私を置くと、さっさと出て行ってしまった。

 私は跪き、天使長を見上げた。

「天使長様、何事ですか? 私が何をしたというのです?」

 そう、私は何もした覚えがない。ただ、魂を回収して帰ってきただけ。

「ファラーナ、お前の回収してきた魂の中に、魔将軍ベルデリンドの魂が混じっておった」

「え! 私は罪の軽い白い魂しか回収しておりません!」

「お前は忘れたか、時に偽装する魂が居ると。触った瞬間に気付かなかったのか?」

 そう言われて、ハッとなった。

 確かに、一回だけ妙な違和感を感じる魂が有った。ただ、真っ白だったので、気にも留めずに籠に放り込んだ覚えがある。

「確かに、一個だけ違和感を感じました。ですが、それは純白でした」

 嘘を言うつもりは無い。それが天使の決まりだから。

「恐らくそれだ。選別所でも同じような事を言っておった」

 天使長は大きくため息をついた。

「一度天界に持ち込んでしまった魂は、簡単に地上に持ち出す事はできん。だが、あの穢れた魂を天界に置く事も出来ぬ」

 天使長の言葉が止まる。次に何を言われるのか、どんなお叱りが待っているのか分からない。息が詰まって苦しくなった。

 怖くて天使長の顔を見ることができない。私は頭を下げた。

「……お前はそれなりに優秀な天使であった。だが、過ちは過ち……。お前をベルデリンドの魂と共に、地上に堕とす。それが唯一の手段だ」

 意を決したように言う天使長に、私は何の言葉を発する事もできなかった。


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