表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

それは本当に私だったのですか?そして……

作者: 十夜海

ーー昔々に体験した夏の病院での出来事……。


暑い夏になると思い出す。

あの日のあの夜……私は本当に私だったのですか?



ーーーーーーーーーー



私は、小学3年の夏……入院した。

というのも春先に鼠径ヘルニアが悪化していたのが顕著になったからだ。


「コレはもう自然には塞がらないから、手術だねえ。」


別に痛くないし……出来るなら入院はしたくないなあ。と思う私を無視して、母とお医者さんの間で話はまとまっていく。

曰く、急ぐ必要はないが絶対に手術は必要。

曰く、傷跡は出来るし……冬だと休みも短くて年末年始はいるから夏休みが無難だろうと。

今はそこまで入院しないが昔はヘルニアや盲腸は一週間ほどの入院が必要だった。

抜糸したら退院だった。

夏のたのしみは、始まる前に終わったのだった。



そして、夏休み。

私は宿題をほぼ終わらせた。

何故って?手術した後には夏休みがあまりないからですよ。

まあ、もともといつも7月中に終わらせるのが自分のスタイルなんですけどもね?

だって、最後に四苦八苦は嫌いなんだもの。


で、とうとう入院日ですよ。

入院して次の日が手術。

私、入院初めてなんだけど……病院嫌いなんだ。特にこの病院……。一応、一番近い総合病院で、自宅からは歩いても30分ほど。

大抵はバスで来ます。

母は車運転できませんでしたからっ。

荷物もって、入院。

はあ、やだなあ。


完全看護だから母も面会時間終了と共に帰ります。

この病院は小児科病棟はない。

入院時、小学生未満のみ付き添いが認められているのだけど。

私は小3である。つまり、付き添いは認められない。

母は、明日手術前には来ると言って帰った。

二人部屋だけど……一人。

消灯前にトイレも済ます。

この部屋にトイレはないから、廊下から数メートル歩かねばならない。

夜中にはゼーーーーーーッたいに行きたくない!

本当に絶対に!

今なら、自分で自分にフラグを立てるな!と言ってやりたいのでよ。


案の定、夜中にふと目がさめる。いつもなら覚めないのに。朝まで寝てるのに。

でも、夜中に目が覚めると何故か……催すものですよね?

何故なんだろうね!本当に!


もちろん、消灯後……廊下は非常灯でホンワリ明るいが……逆にそれが恐怖を誘う。

トイレだって真っ暗で。

くらい穴があいてるようにしか見えない。

ナースステーションはさらに遠いし……小3にもなって、看護婦(今は看護師さんですけどね)さんをよんで一緒に行ってもらうには恥ずかしい。

どこか痛いわけでもないのに、ナースコールなんて……できないよー。

ビーと微かな音がして、遠くでパタパタと人が動く気配がする。

必死そうなバタつき。きっと、誰かがナースコールしたのだろう。

呼ばなくてよかった。


よし、と頑張って気合いを入れてトイレに向かう。

明かりをつけて、用を足して手を洗う。ふと、目の端にだれかが見えた?気がした。


「え?」


と思うが何もいない。

はっきり言って怖い。何がって、このトイレが!

急いで、トイレから出て電気を消した。

ボソリと中から声が聞こえた気がしたが……いや、誰も入ってきてないはず。

だって、トイレは三つしかなくてどのドアも開いていたし。

普通、入っていたトイレで明かりが消えたら悲鳴があがるよね?

それはそれで怖いけど!


私は自分の部屋へ慌てて帰って、布団を被ったのだった。

ドアの前でパタパタと人が歩く音なんてしてない、してないんだからっ!

この病院は、何かがない限りは扉は閉めない。カーテンを閉めるだけだ。

だから、カーテンは見たくない。

だって、わかる。

何かがいるんだ。

き、きっと看護婦さんが見回りにきたんだ。きっとそう。

私は静かに目を閉じて眠る努力をするのだった。

奇妙な足音を聞きながら。


パタパタ……ペタベチャペタベチャ……タタタタ……パタパタ……。




翌朝、私は手術に。

痛い注射を肩に二本。

背中に麻酔を……はっきり言ってものすごい痛い!痛い!


手術が無事終わり……局部麻酔なので腸をいじられる感覚があったけどね。

嫌な体験だ。その上、寝不足で少しうとうとできたので手術時間は短く感じたが。

そのあとの痛みは泣きたくなるくらいだったけど。

私の痛みがある程度引くとと言っても、痛いけど。

母は、自宅に帰った。

そのすぐあとに緊急でとなりのベッドにお姉さんが入ってきた。

手術してすぐだそうだ。

盲腸ですでに破裂寸前だったのだと後で聞いた。


子供ながらに大変だなあと思った。


夜遅く……消灯後。

部屋は暗く非常灯のみがほんわりと明るい。

私は眠れなかった。

手術の後の痛みもかなり強いのもあるが、隣のベッドでウンウンと苦しそうに呻いているお姉さんがいるのだもん。気になってアンド痛みで眠れない!

まだ、ろくに話てはいないけど、たぶん高校生くらいのお姉さんだった。


「……大丈夫?」

「うん、だいじょ……ぶ。ごめんね。う…るさ……くて。」

「んーん。麻酔切れたら痛いもん。私は叫んで怒られたよ。……今も痛いから眠れない。」

「そっか……私は痛いより……寒い。」


たしかに夏だし、冷房は聞いてるけど。

少し暑いくらいだよ?

夜は冷房を弱めるから。


「ナースコールする?」

「んー、大丈夫。」


そのあとは、少し楽になったのかお姉さんは静かになった。

私もようやく眠気が……。




朝になって、お姉さんは寒気は治ったみたいだった。


「ねえ、昨夜のこと覚えてる?」

「んーと、お姉さんと会話したこと?」

「ううん、そのあとのこと。」

「え?その後?」

「……覚えてないんだ。」

「うん?なんかした?」

「昨日手術したんだよね?」

「そうだよ。」

「痛いんだよね?」

「うん。今もちょっと動くと、ううん動かなくてもすんごく痛い。」

「……だよね。私も動きたくないくらい痛いもの。」


お姉さんは真っ青な顔で、昨日の夜のことを教えてくれた。


「あり得ないことなんだけど。

昨日、あなた、その高い柵のベッドを乗り越えて、私のベッドに入ってきてね?

『おねえちゃん、あそぼ。』って言ったの。

で、私は痛みとか吐き気で無理って言うと、

ずーっと喋っていたんだ。それが。あなたの喋り方じゃない気もして、なんか寒気が増したの。

1時間くらいかなあ……話したあとね?

『おねえちゃん、つまんない。』って、また柵を登って超えて行った。

……私もその後は、寝ちゃったから夢だと思ってもいいよ?

だって、無理だよね?」

「……えー?まさかだよ。」

「だよね。うん、きっと夢だよね。」


でも、毎朝になるとお姉さんは、私に言う。


『昨晩のことを覚えているか?』


私はやはり覚えておらず……。なぜかわからないけど背中が寒くなった。


曰く、このベッドの柵をスルスルと乗り越えてお姉さんのベッドに入ってくるらしい。

曰く、一時間話し続ける終わる。

曰く、また柵をスルスルと乗り越えて戻る。


普通に考えたら夢遊病みたいだなと思った。某名作アニメの女の子みたいと。

でも、私、台がないとベッドにも入れないんだけど。

柵は真ん中が開閉できるので、そこを開けて踏み台を使って上がり下りする。

無理である。

それを私もお姉さんも私の母にも看護婦さんにも言えないでいた。

まあ、母には仕事で来ない日もあったからだが。

でもなぜだか、ココで話すことはなんとなくしてはいけない気がしたのだ。

昼間はお姉さんと仲良くなり、楽しい昼間はあっという間にすぎた。

お姉さんの家族には一度もあっていない。

仕事が忙しいらしい。


そして、そうこうするうちに退院の日が。

お姉さんはあと1日入院みたいだ。

母も仕事があるので、退院に時間をかけられないので、午前中に挨拶をすませる。


「お姉さん、仲良くしてくれてありがと。おかげで寂しくなかった。」

「ふふ、私も。また、いつか会えるといいな。ううん、きっと……いつか会えると思うよ。」

「うん。そうだね。」


実際に小3と高1だと言うお姉さんと会える機会は、ないが……小学生の私にはまた会えるかもなんて思いがあった。

今、考えたらなんの根拠もないのだけどね?


母が迎えに来る頃、ちょうどお姉さんは看護婦さんに呼ばれて行った。

たぶん、退院前の診察かな?私も昨日あったし。あの看護婦さんは初めて見たけど。

お姉さんが戻る前に母が来て、私は退院した。

うちに帰ってホッする。

やっぱり、うちはいい。

たまに『あり得ないもの』が見えて怖いけどね……。

でも、家にはいつも飼い猫がいたので……一人にはならない。一人の夜は怖いから。


「そうそう、夜は一人だったけど、大丈夫だった?」

「大丈夫だよ。でも、お姉さんがいたから。」

「え?」

「同じ部屋にいたじゃん、お姉さん。」

「何言ってるの?あなたは。」

「何って、盲腸?でおんなじ部屋に入院してた高校生だよ。」

「部屋は一人だけよ?」

「嘘だあ、いたじゃん。私、仲良くなったよ。」

「別の部屋の子じゃないの?」

「ちがうよ、いたじゃん。だって。」


あれ?お姉さんの名前知らない。

……名前の札付いてた?

え?あれ……。


「もう、変な子ねえ。じゃ、お母さんは仕事に行ってくるわね。」

「う…ん。」


まって……。本当に?

私、お姉さんと?いたよね?


……この後、お姉さんと会うことはなかった。ただ、隣の老人ホームに母の知り合いが居て、よくお見舞いに行っていた時に、当時担当してくれた看護婦さんがいて……私の同部屋のお姉さんのことを聞いた。

やはり、私は最初から最後まで一人部屋だったと。


ただ、一度だけ見てしまったそうです。

私が柵を乗り越えて自分のベッドに戻り眠るのを。随分と運動神経いいんだな?と思ったそうです。

柵を開けずになんで乗り越えたか、わからないけど……その時、私は声に出していたそうだ。

『おやすみ、また明日ね。』と。










ーーーーーーーーーーーーー


あのお姉さんが本当にいたのか?

柵を乗り越えて行った私は本当に私だったのか……。



そして、かなり経った頃に知り合いのおばさんから、その病院の噂を聞きました。


ーー学校でお腹が痛いと言えず倒れた高校生が、救急車で運ばれたけれども……間に合わず亡くなったと。




今となっては本当かどうかもわからない……。

その噂が本当かも、本当だとしてその『お姉さん』なのかもわかりませんが。

でも、確かに病院には『誰か』がいるのです。

たぶんきっと……。


いつか、その『お姉さん』と会えるのかどうかは……。

それはきっと…………。










ーー怖い話は好きだけど、怖い体験は出来るなら気のせいで逃げたい私です。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ