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短編集  作者: アッサムてー
1/3

隙間時間の暇潰し ~彼女はきっと、それを待っていた。だから、期待した。~

 隙間時間にあたしは手紙を書く。

 放課後、誰もいない、教室。

 そこにある、自分の座席でシャーペンを走らせる。


 答えが出ないから。

 ずっと、答えが出ないままだったから。

 いや、誰が読んでも良いのだ。


 よくある話だ。

 家庭内不和で、両親が、両親と祖父が毎日毎日、飽きもせずに大喧嘩をする。

 あたしは、それが大嫌いだった。

 それも、夕食の時間にするのだ。

 ソシャゲやオンラインゲームの日課。

 もしくは、夏休みに強制的にやらされるラジオ体操。

 そうと思えてしまうくらい、とにかく毎日なのだ。

 まるで、義務かのごとく、本当に毎日毎日飽きずに家族は怒鳴り合いの喧嘩をしている。

 内容は、父の酒を祖父が飲んだだとか、嫁にきた母の義実家に対する不満だとか。

 祖父母の両親に対する不満だとか。


 でも、こんな話はよくあることだ。


 田んぼと畑だらけの田舎では、よくあること。

 少なくとも、あたしの友人知人の家でも毎日、あるいは毎週土日になると喧嘩が絶えないらしい。

 怒鳴り合いは、とてもストレスだ。

 それを、あたしは日記ではなく手紙に書く。


 日記でも別に良いのだろうけれど、何となくだ。

 そう、なんとなく。

 SNSで呟いて垂れ流しても良いんだけれど、それだと否定されるから。

 インターネットという場所は、不特定多数の人と繋がるにはとても便利だ。

 でも、心が弱ってる時に。

 意見なんて求めていない時に。

 ネットの世界ですら、マウントを取られるのはとても疲れるから。

 だから、手紙という手段をあたしは選んだ。

 それに、どうせこれは暇潰しなのだ。

 隙間の時間に、自分に与えられた座席で行う暇潰し。


 「なぁ、お前誰に手紙書いてるの?」


 また来た。

 あたしは、ジト目でいつの間にか目の前の席にーー誰の座席かは知らないーー座っていた同級生のクラスメイトを見た。


 「昨日も書いてたよな?」


 「別に」


 「今どき、ラブレターとか?」


 「ちがう、ただの愚痴」


 「へえ、愚痴の手紙?

 日記じゃなくて?」


 「別に良いでしょ」


 「まさかとは思うけど、遺書とかじゃないよな?」


 「言ったでしょ、愚痴だって」


 「それなら良いんだ」


 ふと、あたしは時計を見た。

 携帯端末と、教室に設置されている時計。

 その両方で時間を確認する。


 そろそろ学校も閉まる。

 帰らなければ。

 そう思うと、とても気が滅入った。


 「なぁ、告白していい?」


 「ここは教会じゃないよ」


 「はは、ロマンチックだな」


 「そう?」


 「そっちの告白じゃなくて」


 「じゃあ、なんの告白?」


 「お付き合いしてください。ずっと貴女が好きでした」


 棒読みだった。

 棒読みの、告白だった。


 「ロマンチックな方が好み?」


 告白したあと、困った顔で同級生の男子は言った。

 そして、何かを考える素振りを見せて言い直した。


 「俺の心を奪った貴女。

 今度は貴女の心を奪わせてください」


 棒読みは相変わらずだったが、少しだけ照れを含ませていた。


 「あたしを盗む、泥棒さんになってくれますか?」


 一方、あたしは少しだけ期待を込めてそう聞いた。

 漫画や、アニメや、映画や、小説のような。

 創作物の世界のようなセリフのやり取り。


 自分の世界を、自分の今いる世界を、あたしは逃げることは出来ないから。

 逃げようと思えば逃げられるのだろう。

 でも、勇気が無いから。

 まだ、子供だから。

 せめて、家族の罵り合う声が届かない場所に盗み出してほしかった。


 「せめて、怪盗って言ってほしいな」


 同級生の彼は、苦笑で返した。






 

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