表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の曙  作者: Admiral-56
20/21

第一九話 新米士官

ところで、"鎌鼬"って異名どうなんですかね?


自分で付けるとカッコいいのかカッコわるいのかよく分からないですね

「…という訳でな、君にはそこに就いて貰うことになった」


「は、はい」


「ふふふ…しかし、君は運がいいな」


「運…ですか?」


「ああ。あの男はなかなか面白いぞ?」


「は、はぁ…?」


「君は知っているか?"黄海の鎌鼬(かまいたち)"を」


「最初の頃の、秋津洲海軍と中華海軍の間で起きた黄海海戦の時のことですよね…?」


「そうだ。そして彼は、その鎌鼬の指揮官だったんだよ」


「そうなのですか…!」


「興味が湧いてきただろう?しっかりと、彼に"教えを乞う"といい」


キキッ


「到着しましたよ」


運転手が小走りで回り込み、後部座席の扉を開ける。


そこから降りてきたのは、栗色のボブカットの若い女性。


しかしその服装は紺色の布地に金刺繍が施された詰め襟の制服である。


「…ここが、横須賀…」


女性は煉瓦作りの建物を見上げ、更に周囲の風景を見渡すとポツリと呟いた。










峰崎は峰崎から渡された資料及び、ハワイ攻略戦とフィリピン攻略戦の詳報を眺めていた。


その机の上には、多量の書類が広げられている。


新たな作戦の草案。


新型艦の建造計画。


新兵装の開発状況。


その内容は様々である。


「計画の初期段階は上手くいっている…このまま太平洋での勢力圏を拡げて行くことが出来れば…」


峰崎は高野から戦況報告書等の様々な書類を受け取った後、若松町の下宿に戻っていた。


下宿とは言っても実際は寮の様なものであり、下宿という形である程度の階級を持つ者達に部屋を貸しているのだ。


赤煉瓦で造られた立派な建物は築50年とかなり古いものであるが、基礎がしっかりしていることと、度々補修が行われているため良い状態で保たれている。


彼は本国にいる間はここで寝泊まりしている。





と、突然戸を叩く音があった。


コンコン


「?どうぞ、入ってください」


「邪魔するぞ」


そう言い、入ってきた人物を見るなり峰崎は椅子から立ち上がり、姿勢を正した。


「お久しぶりです、山本長官」


「おう、久しぶりだな。なんだ、ここは貴様の自室だろう?公の場ではないのだからそんなに背筋を伸ばすな」


「とは言っても、やはり長官が突然入って来れば誰でも驚きます」


「ははは、そういうもんか。あと『長官』は止めてくれ。貴様と俺の仲だろうが」


「失礼しました、山本さん。…ところで、山本さんはいつお戻りに…?」


「貴様が真珠湾を発った直後だ。途中2回程洋上給油をして九七式大艇で先回りさせてもらったよ」


「なるほど、そうでしたか」


山本は椅子に腰掛けると、机に広げられた書類に目を向けた。


「ほう…?勉強熱心なことだな」


「えぇ、山本さんが普段仰っているように"常に戦場に在る"心持ちでなくては」


「貴様のそういうところは変わっとらんなぁ。まぁそうでなくては特殊部隊の司令官になど指名はせんがな」


「その節は有り難うございます」


二人の間の空気は、上司と部下と言うよりも旧友同士のそれに近いだろうか。


峰崎の言葉遣いこそ目上の者に対するものだが、その態度は堂々としたものだ。


「ところで、突然山本さんが直々にお越しとは…どうされたのですか?」


峰崎は部屋の隅に置かれた小さな冷蔵庫から麦茶の入ったポットを取り出し、湯呑みに注いで山本の前に置いた。


「あぁ、実は貴様に話があってな。まずは何も言わずコイツを見てくれ」


そう言うと、山本は鞄の中から一つの封筒を取り出した。


厳重に封が施されたその封筒には何も書かれていない。


「…」


峰崎は何も言わず、封筒の中身を取り出す。


黒い厚紙のファインダー。司令書だ。


「…これは」


峰崎はその内容を目にし、思わず呟いてしまった。


「黒鉄部隊を、黒鉄"艦隊"に…?新たな艦隊を新編成するということですか?」


「そうだ。そして貴様にはその新編艦隊の司令長官になってもらう」


「…!なんと…」


「またそれに伴い、貴様は昇進だ。海軍大将にな」


「大将ですか!?それは余りにも唐突過ぎませんか」


「仕方が無いだろう?事実上の主力艦隊の司令長官なんだ。こうでもしなければ格好が付かん。それに今はクーデターで上層部が一新されたことで、上の人材が足りん。階級がどうであれ優秀な人材は昇進して就くべき役職に就けなければならん」


「…なるほど。それは、一理ありますが…」


山本は出された麦茶を一口飲んだ。


「ちなみに今回のハワイ攻略戦は帝国海軍総出での大作戦であったが、今後は戦線維持や占領地の守備もあり、そう簡単には動けなくなる。また聯合艦隊も本国の守備で動かせなくなるそうだ」


「…それは」


「あぁ、分かっている。全く、主力を易々と前線に出せないことは分かるが、これでは宝の持ち腐れというものだ」


「聯合艦隊は帝国海軍のシンボルともなりますからね…特に旗艦である長門は今後戦場に出る機会は殆ど無いかもしれませんね」


「残念な話だ。…まぁ航空戦の時代に変わっていくかもしれない今、戦艦は廃れていくものかもしれんが…」


山本は大きく溜め息をつく。


しかし直ぐに視線を上げ、再び話し出した。


「すまんすまん、話が逸れてしまったな。まぁそういうことでな、自由に動かせない肩書きの主力艦隊とは別に、戦闘の主軸となる"事実上の主力艦隊"を作ろうという発想なのだよ」


「なるほど…それで、厳密にはどの艦隊にも組み込まれていない黒鉄部隊を」


「そういうことだ。尚黒鉄艦隊を構成する艦は、半分が聯合艦隊や他の艦隊から選出され、残りは新造艦が配備される」


「して、旗艦はいったい…?」


「フフフ…新鋭戦艦が旗艦になる予定だ。それも虎の子のな」


「っ!!まさか!!」


峰崎には何か思い当たるものがあるのか、思わず声を張り上げた。


しかし山本はスッと手を掲げ、それを制した。


「おっと、それ以上は言うなよ?実は一人お前に会わせたい人物がそろそろ来るはずなんだ。聞こえる可能性もなきにしもあらずだ」


「自分に会わせたい人物…ですか?」


「あぁ、そろそろ指定した時間だが…」




コンコン




「良いタイミングだ。入れ」


山本がそう言うと、扉がゆっくりと開き一人の女性が入ってきた。


栗色のボブカットの若い女性だ。


肩の階級章は、彼女が海軍大尉であることを示している。


女性は姿勢を正すと、ぎこちない動作で敬礼をした。


「お初にお目に掛かります!じ、自分は葦原(あしはら)海凪(みなぎ)大尉であります!」


「そこでいいから腰掛けたまえ」


山本の指示を受け、葦原はおずおずと椅子に腰掛けた。


「山本さん、彼女は…?」


「彼女は葦原海凪。一昨日大尉になったばかりでな、理由はまぁ貴様と同じだ」


「なるほど…それで、何故自分に?」


「彼女は君の下に就くことになった。立場としては副司令だが、まぁ所謂見習いみたいなものだ」


「もしや、人材育成の話でしょうか」


「話が早くて助かる。今は現場の人材が足りていないからな。実際に現場に出し、直接学んで貰おうというわけだ」


峰崎が葦原に視線を向けると、葦原はピッタリと脚を閉じ両手を拳にして両膝に乗せていた。


緊張するのも無理は無いだろう。


なにせ小さな一室で対面している二人は、聯合艦隊司令長官と、新たな艦隊司令長官となる人物だ。


「まあそういうわけでな。今後はなるべく行動を共にして貰いたい。黒鉄艦隊が編成されるのはもう少し先となるが、今のうちに信頼関係を築いておいて欲しいのだよ」


「なるほど…」


峰崎は葦原に視線を向ける。


しかし葦原はどう反応すれば良いのか分からなかったのか、数秒アタフタした後に俯いて黙り込んでしまった。








「…葦原といったな?」


「は、はい」


山本は峰崎に葦原の経歴書だけを渡すと「後はお若い2人に任せよう」と言ってさっさと帰ってしまった。


その為、部屋には微妙な空気が漂っていた。


「君は…ほう…出身は江田島の海軍兵学校か。…士官養成課程では無かったようだな?」


葦原の経歴書を見ながら問い掛ける峰崎。


葦原が入ってきてから表情を変えていない。


まるで面接の様な光景だ。


「はい、もともとは砲術科を志願していまして…」


経歴書によれば、葦原は峰崎や高野の様に、士官を養成する為の学校を出た訳では無い。


しかし兵学校を出ているということは下っ端の下っ端という訳でもなく、恐らく本来なら砲術要員…射撃手だとか、そういう道に進む筈だったのだろう。


「…なるほどな、君も山本さんに目をつけられた訳か」


峰崎はここで初めて表情を和らげた。


「私も君と同じだよ。本来は下っ端の下っ端…士官なんて程遠い水兵だった私を、山本さんが目を付けてくれてね」


「な、なるほど」


初めて峰崎の表情が和らぐのを確認し、葦原もそれにつられて顔が綻ぶ。


「さて…突然のことではあるが、先程も山本さんが話したように、君は私の下に副司令として就くわけだな」


「はい!よろしくお願いします!」


やっと緊張が解けて来たのか、威勢の良い声。


「そしてこれまた突然のことだが、着任して早々に我々は出撃しなくてはならない」


そのことは山本から聞かされていなかったのか、折角威勢の良い声出せたというのに葦原は目を丸くして固まった。


無理もない。


何せ、研修らしいものも無いまま早速戦場に放り込まれる訳だ。


正直に言えば峰崎は心の中で「こんなずさんな養成方法で大丈夫なのか」と考えてはいたが、一応は上の命令であるし、"習うより慣れろ"の思考も分からなくは無い。


しかし…


(…彼女の初陣は、ブリタニア東洋艦隊主力との一騎打ちとなる訳か…10年掛けずに海軍大将となる自分の運命もなかなかだとは思うが、彼女の運命はそれ以上のものだな…)


「しかし君は…運が悪いな…」


「えっ…?」


「君は初陣で、ブリタニア東洋艦隊の主力と戦うことになる」


「えっ!?」


「今度の作戦では、詳細は未だ未定だが恐らく我々黒鉄部隊はブリタニアの新鋭戦艦を基軸とする精鋭艦隊を相手取ることになる。だから気を引き締めてくれ」


幾ら戦時下とはいえ、初陣から最大規模の戦闘になるとは誰が思うだろう。


恐らく、普通は戦争が長引き熟練の兵達が倒れ、人員が足りなくなった時こそ有り得る状況ではないだろうか。


現に、峰崎としては気を引き締めて貰おうと思ったのであるが、目の前の新米士官は顔を真っ青にして固まっている。


虚ろな目は何処を見ているのだろう。


頭の中では既に寿命を終えるカウントダウンが始まっているのかもしれない。


(山本さんが寄越したということは、きっと彼女にも才能というか、何か光るものがあるのだろうが…)


「………大丈夫なんだろうか」


初めて感じる不安感に、思わず呟く峰崎であった。






ようやくヒロイン(?)の登場です


本当はもっと遅くなる予定だったんですけど、勝手に自分で限界になって強引に捩じ込みました


正直キャラを立たせられるか心配です…影薄にならないと良いけど…


あと、ちゃんと計算してないので飛行艇でハワイからどれくらい時間掛かるのか分かんないです。ガバガバですねw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ