第一三話 蜻蛉(あきつ)の強襲上陸
今回はちょっと短めです
本当はもっと書き込みたいとこはあったんですが、盛り込み過ぎになりそうなのでやめました
どっか別のタイミングで書きたいな…できるかどうかは別にして
ブオオオォォ……
無数の水柱の中を、モーター音と共に何隻もの小型艇が陸地に向かって突き進む。
そしてそれを援護する砲火が、後方に構えた艦隊から陸地に向かって放たれる。
ハワイ真珠湾への大規模な上陸作戦が実施されているのである。
先制空襲を成功させた第一航空機動艦隊(南雲艦隊)は、一足遅れてハワイ沖に到着した陸軍上陸船団と合流。
山本艦隊と小沢艦隊が米太平洋艦隊と交戦している中、上陸作戦のタイミングを見計らっていたのであった。
上陸船団は、上陸用舟艇母船5隻を基幹とする大規模上陸部隊。
上陸用舟艇母船とは、現代で言うところの揚陸艦のような役割を担う船である。
この時編成された上陸用舟艇母船は、輸送船のような外見の『神州丸』『熊野丸』『瑞雲丸』と、まるで空母のような外見の『あきつ丸』『にぎつ丸』。
どれも上陸用舟艇を20隻以上搭載可能な新鋭船であった。
また、上陸用舟艇は陸軍技術工廠――陸技廠が開発した"大発動艇"が採用された。
この大発動艇は発動機が搭載された自走艇であり、それまで使用されていたカッターボートとはまるで違う代物であった。
まず、動力が人力でないため安定したスピードが出る。
更に艇首から道坂を展開することが可能であった為、人員の迅速な乗下船と一部小型車両の搭載が可能である。
これらの船舶と完全武装の上陸部隊、総勢15000人が陸軍上陸船団の構成であった。
米軍にとってハワイ諸島は太平洋戦略上最も重要な拠点と言えるだろう。
その為、米軍はハワイ諸島の残存勢力をかき集めて日本軍の上陸作戦に抵抗した。
しかし先刻の大空襲によりハワイ諸島の航空基地は壊滅したため、航空支援は殆ど無し。
更に上陸船団に先駆けて飛来した攻撃隊の第三波空襲により砲台陣地も大半が破壊されてしまっていた。
真珠湾に残っていた警備艇や哨戒艇も、一個艦隊が相手では歯が立たない。
それ故、米軍は日本軍上陸船団に易々と真珠湾への侵入を許してしまったのである。
『第四、第六大隊が上陸に成功!』
『第四八陸戦隊、内部への突入を開始します!』
「了解。このまま速やかに確実に作戦を遂行して」
山下咲陸軍少将は、あきつ丸の艦橋にて上陸部隊の指揮を執っていた。
続々と入ってくる、上陸成功の報せ。
しかし、山下には複雑な心境があった。
かつて共和国時代の陸軍は、国内の治安維持や災害救助が主な任務であった。
山下もそれに憧れ、陸軍兵学校に入った。
しかし中国とソビエトに侵攻することが決まり、大陸での広範囲戦闘の訓練を仕込まれたのである。
だが、作戦は更に変わり今は諸島、群島の制圧作戦と来ている。
「幾ら敵の戦力を大幅に削ったからといって、経験の足りていない上陸部隊では被害は…」
――少なくない。
作戦を指揮する者として、被害が少なくないことを分かっていながら部下達に「やれ」と命令するのは辛い。
それに、自分は"護る"為に陸軍に入ったのではなかったのか。
作戦指揮能力を認められたのは嬉しいが、こんな攻め込む為の作戦を指揮したかった訳じゃない。
だが―――
「やるしか、ない…か」
「なんだと!?パールハーバーが!?」
ルーズベルトは耳を疑った。
「大規模な空襲を受け、更に上陸作戦が敢行されているようです…」
「どういうことだ…事前の監視活動から、奇襲はシンガポール方面が濃厚なのではなかったのか!?」
「それが、パールハーバーを攻撃しているのは見たことの無い新造艦で編成された艦隊だそうです…」
「新造艦……だと……っ」
全くの計算違いだ。
日本に忍び込ませた工作員からの情報では、共和国海軍時代に運用されていた主力艦はその90%が南西方面に出撃していた。
その為、米軍参謀部は「日本軍の最初の目標はシンガポールの英軍かフィリピンの米軍だろう」と考えていたのである。
しかし知らない戦力がいつの間にか動いており、難攻不落の海洋要塞とまで言われたハワイ諸島を易々と攻撃していたのだ。
「直ちに増援を送れ!太平洋艦隊は何をしているんだ!?」
「大統領閣下。我が合州国海軍の太平洋艦隊は、壊滅しました」
「な…っ!?」
「太平洋艦隊の主力艦は、もはや空母二隻しか残っておりません」
「嘘だ…質の悪い冗談だ!!」
「閣下、事実であります。そして、ハワイ陥落も時間の問題です」
「何が…何が起きていると言うんだ…」
上陸作戦は被害を出しながらも順調に進んだ。
上陸開始から3時間後には真珠湾基地の殆どの制圧は完了し、6時間後にはハワイ諸島の占領に成功したのである。
山下は真珠湾基地制圧と同時に島民に対し、勝利宣言と戦闘の終了を宣告した。
市街に逃げ込んだ兵も追撃することはなく、また希望する者は軍人民間人問わず拿捕した輸送船によって米本国へと送り出した。
結果、市街への被害は殆ど出さずに占領したのである。
更に敢えて標的から外した燃料基地に貯蓄されていた50万バレルにもなる石油の獲得、格納庫内に残されていた米軍の戦闘機等の兵装の鹵獲にも成功したのであった。
「…そうか、成功したか」
山本は戦艦長門の艦橋で報告を聞いていた。
窓の外を眺める山本の視線の先には、陸奥に曳航されるメリーランドが見える。
「ええ。更に真珠湾にて大破着底した三隻の戦艦も、引き揚げて修理するそうです」
「ほう、そうなのか」
「我々は資源が乏しいですからね。なんでも利用できるものは利用しなくては」
「そうだな。燃料基地を攻撃しなかったのもその為だからな」
「設備の修復、改修の為の工作班達も横須賀を出発したようです」
「早いな。もう出発したのか」
「明石型工作艦も5隻派遣するようです」
「そうか。大本営も張り切っているな」
山本は深く息を吸い、そしてゆっくり吐いた。
「……始まってしまった、な」
「長官…?」
後悔が無いと言えば、嘘になる。
もともと山本は反開戦派であった。
国力に劣る日本は米国と本気で戦えば確実に負ける。
たとえ一つ一つの戦闘に勝利しても、更にその上の次元で負けてしまうだろう、と。
「我々は、"負けぬ為"の戦いをするのだ。勝つ為ではない」
「…はい。我々が目指すのは敵の殲滅ではなく、あくまで早期の講和成立。そういう訳ですね」
「その通りだ。ハワイを取ったのも、領土拡張の為ではない。交渉の手札とする為…少しでも講和を近付ける為だ」
やっぱり、軍人だからといって皆戦争がしたいなんてことは無いと思うんですよね
色んな考えや色んな立場から描けたらいいなぁ、と思います




