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俺のスマホはこんにゃく  作者: ななほしとろろ
chapter3 エゾムラサキ
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 自由広場の横。芝生の上で空は目が覚めた。

 わずかに痛む左頬に触れながら体を起こす。


「空ニィ気がついた?」

「いてててて」


 平野と小松の姿はない。陸はたこ焼きと焼きそばの入ったプラスチック容器を持っている。


「なんでクニツル持ち歩いてないのさ? こーゆーときの冷やす物なくて困るじゃん」

「いや待て。まず冷やすような事態はそうそう起こらない」


「月に二回は起こってるような気ぃするけど?」

「…………」


 空は過去を思い出す。否定する言葉が出なかった。だだ、冷やすことになる原因は陸の拳である。


「クニツルはあれからずっと無反応のままだし……。平野さんと小松さんは?」

「時間が遅くなってきたからって帰ったよ。クニツルが動かなくなって――四日は経ってるよね」


 陸は指を折りながら答えた。


 空は自由広場の真ん中にある時計を見た。

 夜の8時を回っている。


「帰るか」

「うん」


****


 空は寝る支度を済ませ、布団にもぐっている。


 空は明日学校で謝らなければと考えを巡らせる。

 まずは椿沢に対して誤解を解かなければいけない。

 そして平野。彼女にしてしまった行為もわざとではないとはいえ、謝らなければいけない。

 さらに六班メンバーにも。誘いを断ってしまったこと。

 祭りはまだ二日残っている。今度は自分から誘おう。と。


 空はあの感触を思い出す。柔らかい感触。

 しかし、その邪念を払うように首を振る。


 部屋の中に充満しているラベンダーの香り。

 安眠効果を期待して今日もアロマ加湿器を稼働させている。


 謝罪。邪念。謝罪。邪念。

 空は脳内で戦っていた。平野の大きな乳の感触を思い出さないように。

 小清水に謝るシーンを想像する。次に湊。しかしどうしても湊の胸に視線が向かう。

 空は首を振る。湊はあきらめ竹田。これは成功する。

 次は川谷。


 空は目を開けた。

 体を起こしあぐらを組む。顎に手を当てて考える。いや、思い出す。

 しかし思い出せない。


 なにを思い出せないのか。


「川谷さんの顔ってどんな顔だったっけ……」


 空は今までの思い出を辿るように思い返す。しかし、川谷の顔には白いモヤがかかったように思い出せない。

 シルエットが似ていると小清水に言われたせいか、無理にモヤを払おうとすると椿沢の顔が出てくる。


「…………」


 消しゴムのこと。図書委員でのこと。ピッピマートで買い物したこと。


「…………いや。川谷って誰だっけ? そんな人いたっけ?」


 空の中から川谷という存在が薄くなり。消えた瞬間だった。


 再度横になり、空は目を閉じた。



 次の日。朝。


 陸は目を覚ました。

 学校の支度を済ませツインテールもバッチリ。


 しかし、肝心の朝ごはんがない。空がまだ起きてこないのだ。


 陸は珍しいと思いながら空の部屋へ向おうとしたとき。インターホンが鳴った。


 平野と小松が来たのだ。


 陸は二人をリビングに待たせ、空の部屋へ向かった。


 中に入ると、布団に潜ったままの空。顔まで布団をかぶっている。


「空ニィ! いつまで寝てんの! 朝だよ朝!」


 いつもならすぐにパキンと起きる空だが、まったくの無反応。


「空ニィ!!」


 陸はおかしいと思いながら馬乗りになる。

 布団の上から両肩を掴むように揺さぶる。


「空ニィ!! 朝!!」


 そのとき布団がめくれて空の顔が出る。青白くなった空の顔が。

  

「空……ニィ?」


 陸は空の顔に触れた。

 体温という温かさはなく、冷たくなった顔。


「……え……なに? 空ニィ? なにこれ? ドッキリ? どっかに隠しカメラでも仕掛けてんの? ねえ! 空ニィ!!」


 空はうんともすんとも言わない。

 ただただ陸に揺さぶられ続ける。


 リビングにいる平野と小松は異変を感じていた。

 二階から聞こえてくる陸の叫び。


「清香ちゃん……なんか様子が変じゃない?」

「たしかに騒がしいですわね」


「見にいこうよぉ」

「ええ」


 二人は階段を上がる。

 だんだん大きくなってくる陸の叫び。


 二人はただ事ではないと感じ、階段を駆け上がった。そして、部屋に入る。


「空ニィ!! 空ニィ!! 返事して!! お願いだから!! 起きて!! 空ニィ!!」


 涙を流しながら空を揺さぶる陸の姿。


「陸さん!? 一体どうしたというのです!?」


 平野が問うも、陸の耳には入っていない。

 小松は恐る恐る近づき、手で口を押さえた。


「き、き、清香ちゃん!! 救急車!! 救急車呼んで!! 早く!!」

「え!?」


 平野は状況を理解した。


「わ、わかりましたわ!」


 平野は階段を駆け下りる。携帯電話はリビングにある鞄の中。


 そして、リビングに入ろうとしたとき。平野の視界になにかが入った。

 確認するため、なにかがいた(・・・・・・)玄関を再度見る。


「あ、あなたは!? 副会長!?」


 玄関に立っていたのは椿沢。

 目からは光が失われ、不気味に笑っている。体は左右に揺れ、靴のまま玄関を上がってくる。


 平野は不思議に思ったがそれどころではない。救急車を呼ばなければいけないのだ。


 リビングで鞄をあさり携帯を取り出した。

 そのとき、平野は携帯を持つ手を掴まれる。


 掴んでいたのは椿沢。


「な、なにをするのですか! 一刻を争うかもしれないのですわ! 離してくださいますか!!」


 椿沢は不気味な笑顔のまま口を開く。


「その必要はありません。やっと、やっと手に入れたのですから」

「はあ!?」


 平野は強引に振りほどき電話をかけた。


「ふふふ。無駄なことを。……まあいいでしょう」


 椿沢はそう言い残し、家から出ていった。



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