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俺のスマホはこんにゃく  作者: ななほしとろろ
chapter3 エゾムラサキ
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52

 浴室からはいまだシャワーの音が聞こえる。


 ピーカブーで構える陸。

 桃木は腕を組みながら立ち、視線だけを動かしなにかを探しているような目。

 クニツルはテーブルの上で跳ねている。まるで喜んでいるかのように。


「小娘! 俺様をこやつの額につけてくれ!」


 陸は視線を桃木からそらさないまま言葉を返す。


「なんでよ。憑依でもする気?」

「違う。空坊との約束なのだ! そして、ルティたんのためなのだ! いいから早くしろ小娘」


「よくわからないけど。まあいいわ。空ニィとの約束なんでしょ?」

「そうだ」


 陸はじりじりとテーブルの元にいき、手を差し伸べる。

 クニツルは陸の手に飛び乗った。


「で、あんたをあいつにつけたらどうなるの? この状況をなんとかできるわけ?」

「安心せい。悪いようにはならん。小娘もこやつを追い出したいのだろう?」


「当たり前でしょ」

「ふむ」


 そのとき浴室から空が出てきた。ボクサーパンツ一丁で肩にタオルをかけている。

 空は桃木を見て半歩下がった。


 桃木は空の姿にくぎ付けになる。目からはピンク色のハートが飛び出しているように見える。


「いまだ小娘!」

「わかってるっ!」


 陸は右手にクニツルを握り、一気に詰め寄る。

 金髪のツインテールが飛行機雲のように陸の軌道を描く。

 そしてぺッチーンと大きな音が鳴った。


 桃木の額にはクニツルが押し付けられている。

 数秒後、桃木は目がハートのまま倒れる。クニツルは額に貼りついたまま。

 そしてクニツルがぼんやりと発光する。脈を打つように発光しては消えと繰り返す。


 空は陸に尋ねる。そして成り行きを説明された。


 空は取り合えず着替えを済ませて、桃木をソファに運んだ。


「クニツルはなにをしているんだ……」

「さあ。憑依ではないって言ってたけど?」


 二人は見守るしかなかった。


 インターホンが鳴る。

 陸は警戒するようにインターホンの画面を見る。

 映っていたのは平野と小松。


「空ニィ。二人がきたからリクは先に学校行くね。こんなところ見られるのもあれだし」

「そうだな。こっちは俺に任せろ」


「うん」


 陸は家を出た。


 10分ほどしてクニツルがプルリと動いた。


「――ぐっ。さすがにきつい。もう少しいじりたかったのだが力が足りん」

「クニツル!」


「空坊か。――約束は果たしたぞ。だから、俺様はガチャを引くぞ。ルティたんが出るまでやるからな……」


 クニツルはそう言って、桃木の額からつるりと落ちた。

 そして憑依のときと同じように無反応になる。


 すると桃木が目を覚ました。

 ゆっくりと起き上がり、手で目をこすっている。


「ふぁー。よく寝たなぁ」


 桃木は座ったまま可愛らしく背伸びをした。その際に小さなヘソがちらりと覗く。

 空と目があう。


「――!? だだだだれ!? ってかここはどこなの!?」


 声色は不良桃木でもなく、屋上に追いかけてきたときとも違う。作戦時の乙女桃木の声色。

 

「え。誰って?」 

「まさか杏が誘拐されたとか!?」


 空は首をかしげた。

 桃木の発言がおかしいからだ。なぜ自分のことを誰というのか。


 空は試しに眼鏡を外してみた。


「これでも俺のことが分かりませんか?」


 空はぼやけた視界で桃木の黒い髪が横に揺れたのが分かった。

 眼鏡をかけなおす。


「――桃木先輩は自分でこの家に来たんですよ? 覚えていないんですか?」

「杏が自分で!? なんで?」


 空は考える。

 ――クニツルは一体なにをした。桃木先輩はなぜ俺のことを覚えていない。ここに自分で来たことも覚えていないようだし。


「先輩。とりあえず学校に行きましょう。このままだと遅刻しちゃいますし」


 桃木はぷくりと頬を膨らませた。


「学校なんて行きたくない! お家にも帰りたくない! ここにいる!」

「はあ? ここにいるって……ここは先輩の知らない家なんじゃないんですか?」


「だって学校行ったってつまんないもん!」

「だめです! 学校に行きますよ!」


 空は桃木の手を引く。


「やだやだ! ここにいる! お留守番してる! いい子にしてる! いかないいかない!」


 空はため息をついた。そして後頭部を掻く。


「わかりました。ここにいてください。ただ、絶対に家から出ないでくださいね」


 桃木はパアっと笑顔になる。


「それと他の部屋に入ったりするのもダメですよ! このリビングにいてください。テレビとかは勝手に見てもいいですし、冷蔵庫の物も好きにしていいです。わかりましたか?」

「うん! 杏わかった! いい子にしてる!」


****


 学校に着いた空。

 六班メンバーは全員登校してきている。


 席に着いた空は、川谷に話しかけようとした。

 しかし、川谷はすぐに席を立ち、どこかへ行ってしまった。


 この様子を見ていた小清水が後ろから声をかける。


「なに。お前ら倦怠期?」

「待て。まず俺と川谷さんはそういう関係じゃない」


「まあまあ、そういじけるなよ」


 小清水は空の肩をポンと叩く。


 空は納得のいかない表情。はぁと息を吐き小清水の方を向く。


「この際春君でもいいや」

「この際ってなんだよ」


 空は続ける。


「今日桃木先輩が家に来たんだ」

「はあ!?」


 小清水の大きなリアクションで湊と竹田も椅子を引きずって近寄ってくる。


 空は三人に今日のことを説明した。



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