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俺のスマホはこんにゃく  作者: ななほしとろろ
chapter3 エゾムラサキ
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 A組の教室。放課後。


 小清水は悲しかった。

 一緒に帰ろうと湊を誘うが断られ。

 竹田はさっさと彼女とどこかへいき。

 川谷は先日から学校が終わるとすぐに帰る。


 そして。


「海山ぁー! お前だけは。お前だけはー」

「春君ごめん。俺今日大事な用事があるんだ」


 空の顔はとてもとても爽やかだった。

 小清水は涙する。


「なんでだよぉ。最近みんな付き合いわりぃーよー。この前まであんなに一緒にいたのによぉ!」

「ごめん。急いでるんだ」


「冷たいよぉ……」

「じゃ。また明日」


 空はスキップしながら教室を出ていく。


 取り残された小清水。

 次はD組の教室へ向かう。平野、小松、陸のところへ向かうためだ。


 D組の入り口から覗くと、その三人の姿があった。取り込み中のようだ。


「陸さん! 今日という今日は絶対にパフェですわ!」

「いやだぁ! リクはクレープがいい!」


 小松は苦笑いをしながら仲裁をする。


「二人とも落ち着いてよぉ! ここは間をとってたこ焼きにしよう!」


「嫌ですわ!」

「たこ焼きは甘くないじゃん!」


 小清水は無言で踵をかえした。



 一方。空は生徒玄関をでる。

 スキップで空が向かっているのはポプラ通りのベンチ。

 

 そのベンチには一人の生徒が座っていた。椿沢である。

 空は椿沢が視界に入ると、顔がフニャリととろける。


「つぅーばきざわすぅあーん! 天使さまぁ!」


 椿沢は声で気づく。


「――ぐっ。空さん。普通にしてください!」


 空はシャキンと立ち、敬礼をした。


「はい!」


 椿沢はため息をついた。


「それも普通ではありません。普段通りにしてください。――ではいきましょうか」

「はい!」


 二人は校門を並んで出ていく。


 屋上の一件以来、この二人は連絡を取り合っていた。

 空が渡した小さな包み紙は手紙になっていて、文の最後に空の連絡先が書いてあったのだ。

 椿沢はこれにメールを飛ばしていた。


 空は願ってもないことだった。

 顔の見えない天使だった人からのメール。崇拝している方からのメール。


 道を歩く二人。この道は海山家へ続く道。


「あの。いきなりお家にお邪魔してもよいのでしょうか?」

「大丈夫です。親はいないし。それに夕食の準備しないと怒るやつもいるので」


「妹さんですか?」

「はい」


 二人で歩く静かな時間。

 空は少し前を歩き、斜め後ろをついていく椿沢。


「あの――」

「はい?」


「あの手紙の内容は――その。真剣に受け止めてもよいのでしょうか?」


 空は振り返る。

 分厚い眼鏡が西日で反射する。椿沢には見えていないが、空はまぶしさから目を細めた。


「もちろんです」


 空はまた前を向く。

 このときの空は気づいていなかった。椿沢の口角がかすかに上がったことを。


「それなら夕飯はわたしが作ってもよいでしょうか?」

「椿沢さんが!? ――もちろん。俺は嬉しいです」


「嬉しいだなんて。それではお二人の好き嫌いを聞いておきましょう」

「俺は好き嫌いはないです。ただ、陸は結構多いですね――」


****


 時刻は夜7時。

 陸は勝ち取ったクレープのクリームを頬につけたまま帰宅した。


 玄関に入ると異変に気づく。靴だ。空の以外にもうひとつの靴。


 陸は川谷がこれなくなったことをとても残念にしていた。

 しかし、今玄関にあるのは女性サイズの靴だ。


 陸は慌てるように靴を脱ぎリビングに入る。


 冷蔵庫を開けているエプロン姿の女性。

 髪は黒くボブスタイル。


 陸は確信した。


「花菜ちゃ――!?」


 冷蔵庫を閉め振り返ったその女性は川谷ではなかった。


「だれ!!?? 泥棒!! なわけないか」


 泥棒呼ばわりされた女性は陸に気づき挨拶をした。


「はじめまして。わたしは椿沢涼子。あなたが妹の陸さんね。よろしくおねがいします」

「――あだ、だ。よ、よろしく」


 陸は半歩下がりながら挨拶をかえした。


「もう少しで夕飯ができます。待っていてくださいね」

「えーっと……う、うん」


 陸は自宅だというのに落ち着かない様子で部屋着に着替える。


「ところで空ニィは?」

「空さんなら部屋にいると思いますよ」


「そ、そう」


 陸は空のこの行いに疑問を感じていた。

 ――空ニィってこんなチャラかったっけ? 花菜ちゃんがこれなくなったら違う女連れてくるとか。最近は友達もできて変わってきたのかな?

 まあリクは料理当番が変わっただけで別に気にしないけど。気にしないけど。気にしない!


 陸は眉を下げながら自室に戻った。


 20分ほどで空と陸はリビングに呼ばれた。


 三人で料理を囲む。


 料理は鶏肉のソテー。レタスとヤングコーンのサラダ。コンソメスープ。マッシュポテト。

 とても美味しそうである。


 いただきますをし三人とも口に料理を運ぶ。


 椿沢は美味しそうに食べている。

 空はピクリと眉を動かし止まる、しかし数秒後すぐに口を動かした。

 陸は。


「――んぐ!???」

 

 鶏肉が刺さったフォークを口の中にいれたまま固まった。

 ――不味い。不味すぎる。なんで洗剤みたいな味がするの!?


 陸は気合で飲み込んだ。

 次はコンソメスープ。口の中に広がる洗剤臭を流し込みたいのだ。

 器を持ち、直接口をつける。


「――む!?」

 

 再度固まる。

 ――なにこれ。昆布臭い!? コンソメスープだよね!?


 陸はバレないように、含んだ液体を器に戻す。


 唯一食べることができたのはサラダのみ。

 

「きょ、今日はなんかお腹が空いてないみたい。ははは。リクもう寝るね」


 陸はその場を逃げ出した。

 部屋に戻りパーカーを羽織り、音を立てないように家を飛び出した。



 陸が着いたのは橘食堂。

 開けにくい扉もヒョイと簡単に開け中に入る。


「あんらー。陸ちゃんいらっしゃい。珍しいねぇ今日はひとりかい?」


 橘食堂のおばちゃんが声をかけた。


「う、うん。大至急幕の内定食を!!」

「はいはい。よっぽどお腹が空いてるんだねー」


 少しして定食が陸の前に運ばれてくる。


 陸はすぐさま卵焼きを口にした。

 頬がとろけて柔らかい笑顔になる。ゴマのきいた俵ご飯も放り込む。


 そんな陸を孫のように見つめるおばちゃん。


「おいしいかい?」

「うん!」


 客は陸だけである。

 BGMもなく、箸の音だけが響く。


「おばちゃんの孫も卵焼きが好きでねぇ。陸ちゃんみたいに頬張って食べるんだよ」

「たちばあって孫いたんだ」


 陸は小さいころからおばちゃんを『たちばあ』と呼んでいる。おじさんは『たちじい』である。


「そりゃいるよー。今年高校に入ったから、陸ちゃんと同い年だねぇ」

「そうなんだー」


 陸は興味がないのか、適当な返事である。


「人見知りだから友達できたか心配だよ」

「リクも最近友達できたからきっと大丈夫だよ!」


 おじさんが立ち上がりのれんを店の中にしまう。


「あらー、もうそんな時間かい。陸ちゃんはゆっくり食べてていいからね」

「うん」


 おばちゃんも立ち上がり店じまいの準備を始めた。



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