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俺のスマホはこんにゃく  作者: ななほしとろろ
chapter3 エゾムラサキ
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 陸、平野、小松が歩くポプラ通り。

 それを教室から見ている空。


 空は心の底から安堵していた。

 陸のいじめが解消され。さらには友達もできたからだ。


 教室には続々とクラスメイトが入ってくる。その中には川谷もいた。

 川谷は空に声をかける。


「海山君おはよ」

「――ああ。おはよう」


 川谷は空が見ている外の三人に気づく。


「あ。きちんと仲直りできたんだね。よかったぁ」

「うん」


 ほっこりしている二人の元に、騒がしく駆け寄る竹田。


「海山君! 自分はもう限界です! このままでは彼女にフラれてしまいます! 助けてください!」


 二人はあっけらかんとする。

 竹田は続ける。


「とりあえずこれを見てください!」


 竹田はポケットからスマホを取り出した。

 そしてメールアプリを起動させ、受信ボックスを表示させた。竹田はスクロールしていく。


 その画面を見ていた二人は言葉を失った。


 スクロールにより流れていく画面。その送信元に表示されている名前全てが『桃木杏』からのものだったからだ。

 それは途切れることがなく続く。


「数分おきに着信の通知がくるんです……」


 二人は言葉がでない。


 竹田は適当にひとつのメールを開いた。


『次はいつ会えるのかな? 言われたとおりに髪黒くしてもらったよ。海山陸にも謝ったよ。』


 次にきたメールも開く。受信時間は1分後。


『メール見てくれてないのかな? 杏すごく寂しいな。』


 竹田は作戦のために自らのアドレスで桃木杏と連絡を取っていた。

 屋上に呼び出すまでのやり取りや、旧物置への誘導など。


 竹田は身震いしながら受信ボックスに戻し、最新のメールを開いた。受信時間は今から1分前。


『やっと見つけたよ。君一年生だったんだね!』


 三人は固まった。顔面蒼白。恐怖から顔を上げることができない。竹田のスマホから目を離すことができない。


 教室内の誰かが声を上げた。


「え? 三年生?」


 三人がもっと耳にしたくなかった言葉。


 そのとき空の後ろから声がした。


「みぃーつけたぁぁ」


「「「ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」」」


 三人は声の主を確認せず一目散に教室を飛び出して走った。


 廊下を走りながら川谷は空に訊く。


「なんで海山君がイケメン君だってわかったんだろ!? いま眼鏡かけてるよね!?」

「かけてる! なんでだ!?」

「自分はもうやることはやりました! 後は任せましたよ海山君!」


 竹田は忍者のようにトイレに隠れた。


「え!? 辞典君!」

「海山君。私も離脱するわ! ごめんね!」


 川谷はそう告げるとスーッと姿が薄くなっていく。


「ちょ!? 二人とも!?」


 空は走るしかなかった。


 しばらく校内を逃げ回り、空は屋上に身を隠す。


 ポケットからクニツルを取り出し、ぺちぺちと何度も叩く。


「クニツル! クニツル! 頼む、起きてくれ! クニツル!」


 しかしクニツルは無反応。

 湊に乗り移ったことによる後遺症。28日からクニツルは機能していない。


「なんでだよ! もう二日以上経ってるのに――クニツル!」


 そのとき、がちゃりと屋上の扉が開かれた。


 空は息を飲む。


 桃木がのそりのそりと扉をくぐった。


「なんで杏から逃げるのぉ? 杏は君のこと大好きなのにぃ。好きで好きで好きでたまらないのにぃ」


 あざといながらも不気味な口調。声は上ずりヤンキー感は皆無。

 髪は見事な真っ黒。ふわっとしたウェーブが風に揺れる。


 作戦時の桃木とは雰囲気も違う。

 空の顔を見ただけで恥じらっていた作戦時。今は欲望に満ちた目。どろりと溶けてしまった飴のような瞼。


 空はすくんでしまい動けない。柵を背にしてなんとか立っている。


 桃木は舌なめずりをしながら歩み寄る。ゆっくり。ゆっくりと。


 空との距離は10メートル。


 空はどうすればいいのかわからない。


 そのとき、空の手に握られている希望のこんにゃくが声を上げた。


「あー寝た寝た。――まずいな。ここは学校か? 声を出してしまった」


 空は待っていましたとばかりにクニツルに頼み込む。


「クニツル! 助けてくれ!」

「んあ? なにがだ?」


 空がクニツルをプルンプルンと揺らす。


「桃木先輩が迫ってくるんだ! なんでか俺の正体もバレてるし」

「はて?」


 距離は8メートル。


 空はクニツルに成り行きを説明する。アナウンサーが行う練習並みの早口で説明する。この間10秒である。


 距離は5メートル。


「理解した。なんとかしてやることも容易い。ただ、相応の代償を貰うぞ?」

「――代償? なにが欲しいんだ!?」


「課金がしたいのだ! ルティたんの新カードが次のイベントで実装される。要はガチャ代だ」

「……スマホゲームの話か?」


「さよう」

「…………」


 桃木はついに空の目の前にくる。


「さっきからなにを喋ってるのぉ? もしかして杏のことだったりぃ? 嬉しいなぁ」


「クニツル、分かった! 課金は許そう。だからなんとかしてくれ」

「本当か! 空坊! おぬしは本当に良い(あるじ)だ。――よし、それでは俺様をやつの額につけろ」


「な!? まさか乗り移るのか?」

「違う。いいから早くせい!」


 空が覚悟を決め、クニツルを桃木につけようと構えたそのとき、屋上の扉が開く音がした。


「あなたたち! もう朝のホームルームが始まりますよ! こんなところでなにをしているのですか!」


 女性の声である。

 桃木と空は声の方向を同時に向いた。


 空は彼女の顔を見ると胸を押さえて目を見開いた。



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