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陸、平野、小松が歩くポプラ通り。
それを教室から見ている空。
空は心の底から安堵していた。
陸のいじめが解消され。さらには友達もできたからだ。
教室には続々とクラスメイトが入ってくる。その中には川谷もいた。
川谷は空に声をかける。
「海山君おはよ」
「――ああ。おはよう」
川谷は空が見ている外の三人に気づく。
「あ。きちんと仲直りできたんだね。よかったぁ」
「うん」
ほっこりしている二人の元に、騒がしく駆け寄る竹田。
「海山君! 自分はもう限界です! このままでは彼女にフラれてしまいます! 助けてください!」
二人はあっけらかんとする。
竹田は続ける。
「とりあえずこれを見てください!」
竹田はポケットからスマホを取り出した。
そしてメールアプリを起動させ、受信ボックスを表示させた。竹田はスクロールしていく。
その画面を見ていた二人は言葉を失った。
スクロールにより流れていく画面。その送信元に表示されている名前全てが『桃木杏』からのものだったからだ。
それは途切れることがなく続く。
「数分おきに着信の通知がくるんです……」
二人は言葉がでない。
竹田は適当にひとつのメールを開いた。
『次はいつ会えるのかな? 言われたとおりに髪黒くしてもらったよ。海山陸にも謝ったよ。』
次にきたメールも開く。受信時間は1分後。
『メール見てくれてないのかな? 杏すごく寂しいな。』
竹田は作戦のために自らのアドレスで桃木杏と連絡を取っていた。
屋上に呼び出すまでのやり取りや、旧物置への誘導など。
竹田は身震いしながら受信ボックスに戻し、最新のメールを開いた。受信時間は今から1分前。
『やっと見つけたよ。君一年生だったんだね!』
三人は固まった。顔面蒼白。恐怖から顔を上げることができない。竹田のスマホから目を離すことができない。
教室内の誰かが声を上げた。
「え? 三年生?」
三人がもっと耳にしたくなかった言葉。
そのとき空の後ろから声がした。
「みぃーつけたぁぁ」
「「「ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」」」
三人は声の主を確認せず一目散に教室を飛び出して走った。
廊下を走りながら川谷は空に訊く。
「なんで海山君がイケメン君だってわかったんだろ!? いま眼鏡かけてるよね!?」
「かけてる! なんでだ!?」
「自分はもうやることはやりました! 後は任せましたよ海山君!」
竹田は忍者のようにトイレに隠れた。
「え!? 辞典君!」
「海山君。私も離脱するわ! ごめんね!」
川谷はそう告げるとスーッと姿が薄くなっていく。
「ちょ!? 二人とも!?」
空は走るしかなかった。
しばらく校内を逃げ回り、空は屋上に身を隠す。
ポケットからクニツルを取り出し、ぺちぺちと何度も叩く。
「クニツル! クニツル! 頼む、起きてくれ! クニツル!」
しかしクニツルは無反応。
湊に乗り移ったことによる後遺症。28日からクニツルは機能していない。
「なんでだよ! もう二日以上経ってるのに――クニツル!」
そのとき、がちゃりと屋上の扉が開かれた。
空は息を飲む。
桃木がのそりのそりと扉をくぐった。
「なんで杏から逃げるのぉ? 杏は君のこと大好きなのにぃ。好きで好きで好きでたまらないのにぃ」
あざといながらも不気味な口調。声は上ずりヤンキー感は皆無。
髪は見事な真っ黒。ふわっとしたウェーブが風に揺れる。
作戦時の桃木とは雰囲気も違う。
空の顔を見ただけで恥じらっていた作戦時。今は欲望に満ちた目。どろりと溶けてしまった飴のような瞼。
空はすくんでしまい動けない。柵を背にしてなんとか立っている。
桃木は舌なめずりをしながら歩み寄る。ゆっくり。ゆっくりと。
空との距離は10メートル。
空はどうすればいいのかわからない。
そのとき、空の手に握られている希望のこんにゃくが声を上げた。
「あー寝た寝た。――まずいな。ここは学校か? 声を出してしまった」
空は待っていましたとばかりにクニツルに頼み込む。
「クニツル! 助けてくれ!」
「んあ? なにがだ?」
空がクニツルをプルンプルンと揺らす。
「桃木先輩が迫ってくるんだ! なんでか俺の正体もバレてるし」
「はて?」
距離は8メートル。
空はクニツルに成り行きを説明する。アナウンサーが行う練習並みの早口で説明する。この間10秒である。
距離は5メートル。
「理解した。なんとかしてやることも容易い。ただ、相応の代償を貰うぞ?」
「――代償? なにが欲しいんだ!?」
「課金がしたいのだ! ルティたんの新カードが次のイベントで実装される。要はガチャ代だ」
「……スマホゲームの話か?」
「さよう」
「…………」
桃木はついに空の目の前にくる。
「さっきからなにを喋ってるのぉ? もしかして杏のことだったりぃ? 嬉しいなぁ」
「クニツル、分かった! 課金は許そう。だからなんとかしてくれ」
「本当か! 空坊! おぬしは本当に良い主だ。――よし、それでは俺様をやつの額につけろ」
「な!? まさか乗り移るのか?」
「違う。いいから早くせい!」
空が覚悟を決め、クニツルを桃木につけようと構えたそのとき、屋上の扉が開く音がした。
「あなたたち! もう朝のホームルームが始まりますよ! こんなところでなにをしているのですか!」
女性の声である。
桃木と空は声の方向を同時に向いた。
空は彼女の顔を見ると胸を押さえて目を見開いた。




