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俺のスマホはこんにゃく  作者: ななほしとろろ
chapter1 出会い
16/79

15

 空、川谷、陸の三人は海山家にいる。


 空はリビングの椅子にぐるぐる巻きに縛られている。

 どうしてこうなった。と二人の姿を見つめる。


 その二人はエプロンを(まと)い、キッチンで料理をしている。


「おいオカッパブぅス! そこリク使うからどいて!」

「ぺたんこ茄子になにを言われても痛くもかゆくもない、け、ど、ね!」


「んなーにをー!」

「それ。焦げてるよ」


「うぎゃー!」


 空は思った。

 キッチンを汚さないでくれ。と。



 時間を遡って大通り公園。


 じゃがバターを食べる空と川谷。

 それを見つめる陸が噴水を挟んだ反対のベンチにいた。


 陸は信じられない光景に内なるオーラを抑えきれずにいる。

 ――空ニィに友達がいるはずがないのに。しかも(メス)ぅ。リクがお腹空かせて家で健気に待っているのに。こんな(メス)ぅと二人っきりで芋なんか食いやがって。

 リクも一緒に芋食べたいのにぃ。


 空は川谷のつぶやきで、陸の存在を確認した。

 川谷はのんきなことを言っているが、陸の恐怖を知っている空は違う。


 陸は立ち上がり、一歩、また一歩と真っすぐに進む。

 もちろん間にある噴水の中を通ってだ。

 定時になると大きく吹き上がる噴水に少しビクついたりもしたが、一歩、また一歩。


 そして二人の前に立ちはだかる。


 おぞましい光景だった。

 ぽたぽたと水を滴らせ黒いオーラが出ている怪物ツインテール。

 顔は表現するなら『邪』。これ以外のなにでもない。

 もちろん周りにはハトが(たか)っている。


 空は高く飛び上がった。夕方の陽が大きく影を作る。

 ハトの群れは一斉に飛び立つ。

 空は空中で膝を曲げ正座の体勢になる。頭が膝につくほど折られた腰。脇の角度は90度。両手は額の前。手の形は左右の親指と人差し指をつけ三角形。

 その態勢のまま美しく着地。


 そのとき、一人の外国人観光客が声を上げる。


「オー。ジャパニーズジャンピング、ド、ゲ、ザ! ワァオ!」

 

 そう言いながらスマートフォンで写真を撮る。


「陸すまん! 急いで帰って夕飯の準備をする!」


 両手を腰につけた態勢の陸は口を開く。


「空ニィは別にいいの。用があるのはそこの芋食ってる(メス)ぅよ!」


 陸はビシッと指をさす。その勢いで濡れている服から水しぶきが散る。

 川谷は動じない。最後のじゃがバターひと欠片を口に入れた。

 そしてつまようじを発泡スチロールのトレーに突き立てる。


「私に用? なに?」

「リクの空ニィを返して!」


「別に取った覚えはないけどなー」

「ぐぬ。――空ニィは忙しいの! リクのご飯作らないといけないし。だから連れまわすのはやめて!」


 空は土下座のまま様子をうかがう。


「私連れまわしたのかな? 海山さん。あなた妹なら逆にご飯作ってあげたらいいんじゃないかな? お兄ちゃんは高校に入って委員会も入って。忙しくなることも多いと思うよ」

「ぐぬぬ。リクだって委員会入ってるもん! リクだって忙しいもん!」


「そう。忙しいんだ。……だったら明日からは私が海山君のご飯作ってあげようかな」

「――なっ!?」


 陸は驚愕の表情になる。

 ――この(メス)ぅは強い。空ニィならわがままで折れてくれるのに、この(メス)ぅは折れない。殺って白黒つけないといけない。


「なら勝負よ!」


 陸はピーカブースタイルになる。


「ダメ。暴力はいけないと思うの。だから正々堂々勝負しましょう。どちらがおいしい料理を作れるか。勝った方が海山君にご飯を作る権利を得る。どう? それとも逃げる?」

「ぐぬう……。いいわ! その勝負乗った! 覚悟しなさいオカッパブぅス!」



 そして今に至るわけである。

 依然キッチンは戦場と化している。


 空はこの勝負の行方を知っている。

 陸は料理ができない。トーストを焼けば四角い炭を召喚する。そんなレベル。

 当然勝つのは川谷だろう。手さばきからも一目瞭然。動きに全く無駄がない。

 いつも料理をしている空が赤子に見えてしまう程である。

 一方隣には本当の赤子レベルがいるが。

 

 そして空の前に料理が運ばれた。


 空の左側の料理。

 一つはサバの味噌煮。

 黄金に輝く味噌ダレを纏ったサバ。サバ自身も負けじと輝きを放っている。

 上には一緒に煮込まれていたショウガのきざみ。ご飯が進みそうな一品。

 もう一つは卵焼き。

 焦げがなく鮮やかな黄色。見るからにふっくらと仕上げられているのが分かる。

 こちらの料理は川谷のものだ。


 右側の料理はというと。

 空にはなにか分からなかった。

 見た目は、泥の溜まった川底から取り出したこぶし大の真っ黒な石ころ。

 陸が使っていた材料から察するにハンバーグかと思われる。

 そしてさらに驚きなのが。この料理を出した陸が自信の表情でドヤっていることだ。

 つけ合わせのサラダなどは一切ない。皿の上に石が乗っているだけである。


 縄から解放されることのない空。

 すかさず陸はナイフとフォークを使い、石を切り分ける。


「はい空ニィ。あーん」

 

 空は考える。

 ――このダークマターを食べなくても良い方法はないか。まったく身動きの取れない態勢。

 陸の顔は――殺戮者そのものじゃないか。逃げようものなら右手のナイフが飛んでくるだろう。

 

 空は腹をくくるしかないのだ。


 ダークマターはゆっくりと、ゆっくりと空の口に入る。


「――!!!?」


 辛み。苦味。酸味。そして固い。旨味など皆無。

 胃は拒絶する。今までに聞いたことのない音が喉で鳴る。

 しかし、飲み込まなければ待っているのは死。


 空は胃に謝罪しながら必死に飲み込む。

 しかし、すかさずフォークに刺さった第二波がやってくる。


「まて! 待って! うまい! うまいから。待ってくれ」 


 空は生きるために必死である。

 誰がこの札幌の住宅街で生死の決断をしていると想像できるだろう。


 しかし、空は陸の不器用な優しさを知っている。

 絶対に料理なんてしない陸が、兄の為に料理をしたのだ。裏切ることなんてできなかった。

 

「ホント!? おいしい? やったー。これでリクの勝ちね」

「海山さん。まだ私の料理を食べてもらっていない。勝負はこれからだよ」



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