ピクニックにて、穏やかな時間、秘密道具を出す
次の日の朝、僕とフィーナ姉は離れから裏手の山に入り三十分ほど歩いた場所にある原っぱに向かう。ワルトハイム家で管理しており魔物がおらずピクニックをするにはいい場所だ。まあ、魔物より怖いものがいるかもしれないんだけど。
「カイル君、大丈夫? 疲れたらちゃんと言うんだよ。お姉ちゃんがおぶってあげるから」
「大丈夫だよ、フィーナ姉……」
「そうじゃぞ、フィーナ。すぐに助けたんではカイルの立つ瀬がない。じゃがカイルも無理をするでないぞ。お主が倒れたらピクニックとやらの意味が無いからの」
「分かってますよ、アルジュナ様」
僕は呼吸を整えながら言う。まだまだ体力は尽きない。体が出来てきている証拠だ。もうそろそろ武術関係の訓練も加味してもいいかもしれない。
所でアルジュナさん、この神|(?)は依り代にしている石像から遠く離れる事が出来ない。だから、遠い場所に移動する時は、石像を持ち歩かなければならない。紐に繋がれた犬みたいだと考えたら、その思考を読まれ、精霊を呼び出されそうになった。余計な事は考えない様にしよう。
鬱蒼と茂る木々が途切れ、目的の原っぱに出る。一面に花畑が広がっており、中央に巨大に樹が一本鎮座していた。この原っぱの主だと言わんばかりの大きさだ。フィーナ姉がフルフルと震えたかと思ったら荷物を放り出し突然走り出した。凄まじい速さであっという間に豆粒くらいの大きさにある。
「こら、もっと優しく置かんか!!」
アルジュナさんが怒鳴るがフィーナ姉は聞いていない。アルジュナさんが言うにはこの世界にいる為の依り代としている石像が壊れたらこの世界にいる事が出来なくなるらしい。そしてその石像は荷物の中にあるのだから怒りたくもなるだろう。
「フィーナ姉……ワンコの本能丸出しだな」
「済まぬのう、カイルよ」
すまなそうに僕の肩を叩くアルジュナさん。
「いいんです。あんなに活発に走り回るフィーナ姉始めてみました。僕のせいで好きな事が出来なかったんじゃないかと思ったら、これくらい……」
「そうかの、フィーナはわりかし好きな事やっとると思うが、特にお主の世話は?」
「そうですかね?」
「本気で言っとるのならお主の目は節穴じゃぞ」
「手厳しいよ、アルジュナさん……フィーナ姉しばらく戻ってこなさそうだな。あの樹の根元に荷物を持っていきましょう」
僕はフィーナ姉が放り出した荷物を持とうとするがアルジュナさんに止められた。
「それぐらいはワシが持ってやる。カイルはあまり無理をするな」
そう言うとアルジュナさんがフィーナ姉が放り出したバケットと敷物に軽く触れる。すると荷物がフワリと浮かび上がった。
「オーイ、フィーナよ!! ワシらはあの樹の根元に行っとるからのう!!」
アルジュナさん大声にフィーナ姉が手を振って応える。
「ほれ、行くぞカイル」
フヨフヨと浮かびながら先導するアルジュナさんに僕は心の中で誤った。
(神様|(?)なんて考えてゴメンナサイ)
僕とアルジュナさんは巨木の根元に敷物を引きバケットと水筒、僕の履物で四隅を止め、風で飛ばないようにする。敷物の上で僕はゴロンと横にある。狭い部屋ではなく広々とした空間で横にあるというのは開放感があって気持ちがいい。草や大地の土のにおい、柔らかな風、心地がいい木漏れ日、全てが心地いい。
「カ~イ~ル~ク~ン!!」
フィーナ姉が全力疾走で僕に向かって走ってくる。あの速さでぶつかられたらマズい。逃げようと立ち上がったらそうはさせぬとフィーナ姉が跳躍した。フィーナ姉のダイブに僕は恐怖した。
(シヌゥゥッ!!)
僕は思わず目を閉じる。次に来るであろう衝撃に身を固くするが衝撃はいつまでも来なかった。僕は薄目を開けるとフィーナ姉が見えない壁の様なものに張り付き、ズリズリと地面に落ち、顔面を押さえもだえ苦しんでいた。
「久々に全力出せて嬉しいのは分かるが少しは落ち着かんか。あの速さでぶつかられたら大怪我じゃ済まんぞ」
僕の前に浮いているアルジュナさんが魔法で見えない壁を形成してフィーナ姉のダイブから僕を守てくれた様だ。
(アルジュナさん、お手柄だよ!)
僕はアルジュナさんに向かって親指を立てると誇らしげにウムと頷いた。
ようやく顔の痛みが治まり、起き上がったフィーナ姉は泣きそうな顔で僕に誤った。
「ゴメンね、カイル君……」
顔を強打し真っ赤になっているフィーナ姉を見て僕は思わず笑てしまった。そんな僕を見てフィーナ姉は別の理由で顔を赤くする。
「ヒドいよ、カイル君!」
「ゴメン、ゴメンよフィーナ姉」
僕の背中をポカポカ叩くフィーナ姉。今度は力がこもっておらす叩かれてもいたくない。
「何じゃろうなあ、このアマアマな空間は? ムズ痒くてたまらん。ワシここにいていいのか?」
「アルジュナ様が留守番は嫌じゃッて言ってついてきたんじゃないですか」
アルジュナさんはぐうの音も出ない。やっぱり神様|(?)だなと思いながらも二人の間に入る。
「まあまあ、二人とも。荷物を置く場所を作ったはいいけどお昼にはまだ早いし、のんびりしててもいいけど遊びませんか?」
「遊ぶ?」
「遊ぶじゃと?」
フィーナ姉とアルジュナさんが同時に首を傾げる。息がぴったり合っているのに感心しながら僕はあるものを取り出した。
「何じゃそれは?」
「これはですねえ」
僕はそれを掲げ声を作りながらこう言った。
「フ~リ~ス~ピィ~」