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修行が進んで……フィーナ姉と行こう……に

僕は経絡が詰まりまくっている。

久坂さんの記憶では経絡というのは人間の体を動かす三大要素、氣、血、水―――氣は生命エネルギー、血は血液、水は体液の事―――を滞りなく循環させるための通り道で経絡が詰まっていると病気になったりする。僕はこの経絡が詰まりにに詰まっていてこの三要素がほとんど循環していない。これを何とかしなければ僕が普通に生活する事はまず不可能だった。これを何とかするにはやはり修行を進めるしかなかった。武息、文息という呼吸法により氣を強化、意識でもって氣を体の中を動かす。丹田から始まって下半身、背中、頭上、胸、そして丹田に戻すという風に気を循環させていく。各箇所でいったん止め、呼吸法でもって氣を強めていく。そうしないと体に循環させている時氣が消えてしまうためだ。約一ヵ月ほどかけて僕は氣を一周させた。このように氣を体に循環させる行法を小周天こしゅうてんという。これが出来るようになってから僕の体は劇的という程ではないが変化した。


まだよたよたと頼りない足取りだが杖を使わず歩けるようになったのだ。経絡のつまりが取れ、氣、血、水の循環がよくなったためだろう。僕は小周天の効果に驚きつつも訓練を繰り返し、更に一ヵ月後には普通に歩く事が出来るようになった。これなら遠出も出来るかもしれない。だから僕はかねてから考えていた事をフィーナ姉に話してみた。


とある日の朝―――

朝食を食べ終えた僕はフィーナ姉にお礼を述べる。


「ご馳走さま、フィーナ姉」


「お粗末さまだよ、カイル君」


「何じゃ、カイルそれだけか。いつも作ってもらっているのだからもっと謝意を述べんか!!」


僕の頭上にふわりと浮いているアルジュナさんが僕を注意する。


「語彙が少なくて言葉が思いつかないんです。すみません」


「何じゃ、情けないのう。例えばこう言えばよかろう……」


アルジュナさんが色々と謝意の例を挙げていく。僕は苦笑しながらアルジュナさんの言葉を拝聴する。

アルジュナさんが石像から出てきたあの日から僕らと一緒にご飯を食べるようになった。九セーチ(センチ)の小さい体でありながら僕らと同じ量のご飯を食べる。自分の体より大きいご飯がどこに入っているのかと聞いてみたら品を作りながら「女子にそんなこと聞く出ない」と言われ笑ったら叩かれた。アルジュナさん、突っ込みが激しいよ。


「アルジュナ様、そこまでにして下さい」


食器をかたずけながらフィーナ姉はアルジュナさんに注意する。


「しかしのう……」


「カイル君には歯の浮くようなセリフは似合いません。ありがとう、ご馳走様、フィーナ姉愛してる、その言葉で何十年戦えるか……」


「最後の方は聞いた事がないのう……カイル、最後の一言言ってみてはくれんか? それだけでパワーアップするぞ」


「止めて下さい! 誰かに言わされて言った言葉じゃ嬉しくありません! カイル君の本心からの言葉じゃないと……でも一度くらいは言って欲しいかな!?」


頬を赤く染めチラチラとこちらを見るカイル姉。いつの間にか僕の肩に止まったアルジュナさんが耳元で小声でこういった。


(言えっ! 言わぬか!!)


僕か苦笑して頬を掻く。


「ええと……それは言えないんだけど、イタッ」


アルジュナさんに耳を引っ張られた。


「アルジュナさん、見た目より力が強いから、耳にちぎれるから」


「ジャカマしいわ、バカモンが!! 愛してるくらい簡単じゃろうが、ホレ、言わぬか、ア・イ・シ・テ・ル!!」


「……いいんです……いいんですよ、アルジュナ様」


フィな姉が笑顔を見せるがその笑顔が何かもの寂しい。頭上の耳がたれ下がっている。食器をもって流し台の方に向かうがその背中少し丸まっていて寂しげだ。いつも元気そうに揺れている尻尾も思いっきり垂れ下がっている。


「……何とかせぬか、カイル」


目に見えて落ち込んでいるフィーナ姉を見ているのは僕も辛い。そこで僕は元々計画していた事を口に出してみる。


「ねえ、フィーナ姉」


「何かな、カイル君」


フィーナ姉はこっちを見ず、食器を洗いながら聞いている。


「僕、最近体の調子がいいんだ。そこで少し遠出してみてもいいと思うんだ。だからフィーナ姉の都合がいい日があったらピクニックに行ってみない?」


「ピクニックかあ……いいねえ」


フィーナ姉が呑気にそう言って言葉の意味を咀嚼し理解すると、尻尾が背筋がピーンと立った。カタカタと震えながらこちらをゆっくりと振り向くフィーナ姉。笑いたいような泣きたいような複雑な表情をしている。


「そう、ピクニック。今までフィーナ姉と一緒に出掛けて事なんてなかったし、フィーナ姉がよかったら何だけど……」


フィーナ姉が洗っていた食器を流し台に置くと超スピードで僕の隣に座る。そして僕の手を取る。


「いいよ、行こう! ピクニック!! カイル君の為ならお姉ちゃん予定空けるよ!! あったとしても速攻でかたずける!! 嬉しいよ、嬉しいよお姉ちゃんっ!!」


(フィーナ姉凄く興奮している。このパターンはもしかして……)


フィーナ姉が僕の顔をぺろりと舐めた。驚いて椅子からずり落ちる。フィーナ姉は僕に馬乗りになりさらに僕の顔を舐める。このまま食べられてしまいそうな勢いだった。

フィーナ姉の後頭部の位置に浮いていたアルジュナさんが僕の目に入る。僕はアルジュナさんに助けて欲しいと目で訴えるがアルジュナさんは満面の笑みで親指を立てるだけだった。


(助けてよ……)


満足して離れたフィーナ姉と対照的にうつろな目の僕。


(早く逆に押し倒すぐらいになりたい……)



僕もフィーナ姉も特には予定がない。次の日にピクニックに行く事に決めた。次の日が余程楽しみなのだろうか、フィーナ姉の尻尾は一日中ブンブンと振られていた。









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