寝たまま修行、どうしてこうなった?
僕は横になったまま、久坂さんの記憶を検索する。膨大な記憶を検索していると激しい頭痛に襲われるため、少しずつ少しずつ検索していく。何とか十一才の頃までの記憶を検索し終え思った事は、この人ほど不屈の闘志という言葉を体現した人はいないという事だ。久坂さんは僕と同じように体が弱く更に最悪な事態に陥る。病気の事はよく分からないが、ハ才の頃に不治の病に侵され余命一年と宣告されてしまう。八才にもなれば人の生死は理解で出来る。それなのに久坂さんは一年後に確実に訪れる自分の死に真っ向から抵抗した。なりたい自分になってから死ぬ、その信念に従いガムシャラに体を動かし、逆に動けなくなてしまったのは気の毒でしかなかった。
病院のベットの中で体がゆっくりと衰えていく恐怖と無念さで涙を流す久坂さんの元をある人物が訪れる。その人は「そんな方法じゃ体を壊すだけだ、別の方法を示してやろう」、そう言ってその人は久坂さんに仙道を教えてくれた。その人が久坂さんの仙道と武術の師匠、真神京一郎だった。久坂さんは真神さんの教えに従い修行をすることで一年後も生き続ける。更に仙道の修行を続けて二年、体が普通に動くようななった為、形意拳の修行も初めて三年と寿命を延ばし、とうとう不治の病を克服した。僕よりも五才も年下の頃に死の運命に直面し、それを克服した。どうしてそんな強い意志を持って戦う事が出来たのか僕には分からない。だが、僕は久坂さんを尊敬する。僕はこの人になりたい、この人のように強くなりたいと強く思う。だから僕はこの人を支えたに二つの柱、仙道と形意拳の知識を借りる。まあ、今は仙道しか実践できないんだけど……。
仙道の修行の第一歩は周囲の物、そして人の氣を感じる事だった。次に行うのは自分の体の特定の個所に氣を集中、強めてから体の中に流し循環させ氣を強めて行く事だった。今の僕に出来るのは氣を特定の個所に集中するところまでだろう。もどかしいがそれでも一歩だ、頑張って行う。
まず、氣を集中する特定の個所だが、僕は丹田という個所に集中してみる事にする。僕のおへその三セーチ(センチ)ぐらいの所を中に三から七セーチ(センチ)ぐらい入った所だ。僕は丹田に意識を集中する。仙道では意識的に吸う時にお腹を膨らませる腹式呼吸を行う。さらに細かい指摘はあるようだが今回は腹式呼吸のみで行うようにする。
吸う時にお腹を膨らませ吐く時にお腹をへこます。これを繰り返し意識を丹田に集中する。氣が集まりだすと丹田の個所に独特の感じが出てくるのだけど何も感じない。主な感じは熱感や圧力感と言ったもののようだけど……。見えない物も見るという集中の方法が僕には難しいのかもしれない。
(僕なりの意識が集中出来る方法か……あるかも……でもそれだと別の物が別の個所に集まるんじゃ……)
そう思いながらも僕は実行してみる事にする。丹田の位置である事を考える、そんなイメージで集中するのである。丹田の位置で考える事、それは……。
(……フィーナ姉、最初は使用人とご主人さまという関係だった。僕がこんな体だがら甘えて、ふてくされて色々当たったのに僕に甲斐甲斐しく世話をしてくれて。最初は使用人だからと思ったけどそれだけではない真摯さがあった。どうしてそんなに優しくしてくれるのか聞いた時、フィーナ姉は笑いながら言ってくれた。自分には弟がいたと。その弟はもう死んでしまったけど万物は巡るもの、その弟は前とは違った形で現れてくれる。それが今のカイル様だと。私はあなたを弟と、家族だと思っていると言ってくれた。本当の家族に嫌われている僕にとって家族と呼んでくれる人がいるのは本当に嬉しかった。その日から僕は遠慮がちにフィーナ姉さん、今は遠慮が無くなってフィーナ姉と呼ぶようになった。フィーナ姉もカイル様からカイル君と呼ぶようになった)
懐かしい事を思い出し顔がにやけてしまう。
(いけない、いけない。これってやっぱり雑念かな)
失敗かなと思っていると丹田の位置に妙な圧力感が発生していた。集中を切らせば消えてしまう弱いものだが確かにそれはあった。
「やった、成功だ」
小さな声で呟くがその途端、圧力感が消えてしまう。
「氣の感覚を継続させるのが難しいな。それでも確か発生させる事が出来た。こんな僕でも作り出す事が出来た力だ。フィーナ姉のお陰かな、ありがとう」
僕はイメージのフィーナ姉にお礼を言い、再び丹田の位置でフィーナ姉の事を考える。
(フィーナ姉の事なら何時間でも考えられる自信がある。本人の前では決して言わないけど……)
人にはいい所もあれば当然悪い所もある。当然フィーナ姉にもそういう所もあり僕はそういう事も考えてしまった。
(フィーナ姉、最近おかしいよ。事ある事に僕に抱き着いて来るし、そういう時に押し付けられた体が色々柔らかくて気持ちがいい、特に胸が! それにいい匂いがするし、ペロペロ舐めてくるし、何かイヤらしい気分になってくるし……今日なんか口移しと称して何どもキスをしてくるし……最近押しが強すぎて怖いよ。フィーナ姉って獣人だけど実はサキュバスの血も引いてるじゃないだろうか。このままだと僕色々奪われちゃう。それはだめ、奪われるより奪う方になりたいし……)
僕の頭の中がピンク色に染まっていく。そして別の場所に別の物が集まり布を押し上げ突起していくのに気が付いて僕はがっくり来る。もしかしたらと思いそれとなくその部分に手を持っていき氣を探ってみると強い氣が集中しているのが分かった。
「氣を一点に集中したいけどそこにあつめてどうするの……真面目に修行していたはずなのに……」
僕は何とも情けない気分になった。