フィーナ姉、暴走気味だよ、新たに野望を抱く。
その日の夜になっても僕の体調は戻らかった。だから僕は自分の部屋のベットで横になっている。する事もないしもう少し久坂さんの記憶を検索しようと思う。特に仙道関係の事はもっと詳しく知りたい、意識を集中した時、不意にドアがノックされた。いつもだったらドアをノックしないでいきなり入ってくるのに珍しいなと思いながら声をかける。
「開いてるよ、フィーナ姉」
ドアが開きフィーナ姉とアルジュナさんが入ってきた。アルジュナさんはフィーナ姉の肩に座り、僕の部屋をきょろきょろと眺めている。アルジュナさんの体が発光しており僕の部屋を明るくしてくれる。
(ランタンいらずで便利ですねアルジュナさん)
「カイル君、起きてる?」
「うん、起きてる」
「夕飯持ってきたけど食べれるかな?」
フィーナ姉の手にはトレイがありそこには僕が昼に注文したキノコのバター焼き、それに焼き魚、野菜と厚切りのハムを調味料で味付けしたスープ、パンが2個が乗っていた。おいしそうな匂いに僕のお腹かクゥッと鳴る。僕は恥ずかしくて顔が赤くなる。フィーナ姉はそんな僕を見て何と見えないという表情になる。
「……カイル君、カワイイ」
僕はもっと恥ずかしくなり毛布で顔を隠す。
「フィーナ姉からかってる?」
「からかってないよ! カイル君のこの表情何かに取っておきたいくらいだよ! アルジュナ様精霊の力で何とか出来ません?」
アルジュナさんは無言でフィーナ姉を手刀で叩く。
「アイダァッ!!」
オワッ、フィーナ姉の頭が大きく揺れた。小さくても流石は神様、見た目以上の腕力の持ち主だ。
「アルジュナ様何するんです。トレイを落としそうになったじゃないですか!!」
「精霊の力を下らんことに使えるか、脳みそお花畑娘が!!」
「何を言ってるんですか、私の頭のなかはカイル君一色です」
鼻息荒げに言うフィーナ姉をアルジュナさんは残念そうな顔で見る。
「堂々という事か、このバカモンが……どうしてこんな残念な娘になってしまったんじゃ? カイルよ、教えてはくれんか?」
「フィーナ姉の奇行は今日に始まった事じゃないんで……」
「いつもこうなのか?」
僕は頷く。僕とアルジュナさんに妙な共感が生まれ同時にため息をつく。
「奇行はひどいよ、カイル君。私の行動はカイル君への愛情ゆえだよ」
(胸を張るのはいいけどトレイが落ちるよ、フィーナ姉。どこかに置こうよ)
「私の行動原理は置いとくとして夕飯食べれそう?」
「体に力が入らないだけでお腹はすいてるから」
「そっか、じゃあ体を起こしてあげるからちょっと待ってね」
フィーナ姉はベットの傍のサイドテーブルにトレイを置くと、毛布をまくり、僕の背中の下に腕を通し、上半身を軽々と持ち上げる。
(フィーナ姉って案外力があるんだよね……いや、僕が軽いだけか?)
僕はトレイを股の上に置き、パンを手に取ろうとして落としてしまう。手がプルプル震えてうまくつかめない。
「まだ、体力が戻ってないみたいだね……」
フィーナ姉がいいことを思いついたとでも言うよにニヤリと笑う。僕はあっ何かヤバいなと思いアルジュナさんに目で訴えるがアルジュナさんはキョトンとしている。マズい、マズいよこれはと心の中で悲鳴を上げる僕。
僕の股の上にあるトレイをサイドテーブルに戻すとフィーナ姉はスプーンを手に取り、キノコのバター焼きを掬い取り僕の口の前に持ってくるとこう言った。
「アーン」
僕の顔は引きつった。
「フィーナ姉、恥ずかしいよ……アルジュナさんも見てるし」
助けを求めてアルジュナさんの方を見ると右手で目を覆い隠している。
「ワシ、見とらんぞ」
「ええっ!?」
(アルジュナさんの裏切者ぉぉぉ、あの共感は気のせいだったの!?)
「こぼして服汚されたら私の仕事が増えちゃうんだよ。助けると思って……ほら、アーン、アーーンッ」
僕は諦める事にした。
(これは介護、介護なんだからガマン、ガマンだ、僕……)
僕は覚悟を決める。口を開けスプーンを受け入れる。だが、口の中には何の感触もなかった。口に入る寸前フィーナ姉がスプーンを引いたのだ。何だ、そういうイタズラかと安心していたらフィーナ姉が思いもよらない行動をとった。フィーナ姉はキノコのバター焼きを口に含み、咀嚼。そして僕の顔を両手で挟む。
「フィ、フィーナ姉……?」
口にキノコのバター焼きを含んでいる為喋る事が出来ないフィーナ姉はもの凄くいい笑顔をしていた。フィーナ姉の顔が僕の顔に近づいてくる。
(まさか、フィーナ姉!?)
僕の脳裏には次の起こる事が予想される。逃げようとするが体に力が入らずされるがままにされる。フィーナ姉の唇が僕の唇に触れる。そして咀嚼されたキノコのバター焼きが流し込まれた。目を白黒しながらも僕はキノコのバター焼きを飲み込んだ。口に流し込まれたキノコのバター焼き、美味しいんだけど刺激が強すぎる。
「何で口移しで食べさせるの、フィーナ姉!?」
「何でって、今、カイル君は咀嚼する体力もないかなあと思って」
「僕、大丈夫だから普通に食べさせてよ!!」
「そんな事言われても……デスヨネ、アルジュナ様?」
「エッ、ワシか?」
いきなり話を振られ慌てるアルジュナさん。子犬の様な目で助けを訴える僕といい笑顔のフィーナ姉を交互に見るアルジュナさん。悩みに悩みアルジュナさんはそっぽを向いてこう言った。
「体力が落ちている時は消化の良いものを食べるとよいぞある程度咀嚼された者なら消化もよかろう……」
「アルジュナ様もこういってるし……次は何を食べたい……」
「も、もう結構。食欲無いから」
「ダァァメ、完食してもらうよ、カイル君」
僕は声にならない悲鳴を上げた。
何度もフィーナ姉に口移しをされ僕の頭はピンク色に染まり何も考えられなくなった。呆けたような表情の僕をフィーナ姉がトロトロに蕩けた表情でこう言った。
「カイル君……ゴ・チ・ソ・ウ・サ・マ……」
口の周りを舌でペロリと舐めるしぐさがまた艶めかしい。
「オーイ、カイル……生きておるか?」
アルジュナさんが僕の顔の脇に降り、ぺちぺちと頬を叩くが僕は答えられなかった。
「まあ、何じゃ……強く生きろよ」
アルジュナさんが言い訳がましい慰めを口にするとフィーナ姉の肩に戻る。
「お主は何やっとるんじゃ? こんな事をしていてはカイルに嫌われるぞ」
「そんなことはありませんよ。カイル君も私の事を好いてくれてますから」
「そうは言ってもカイルみたいな大人しい男子は押されれば逃げるぞ。距離が離れれば逃げられてしまう。獲物を捕まえるには追いかけるだけではなく……」
「フムフム……」
フィーナ姉はアルジュナさんの僕を落とす為のアドバイスを聞きながら僕の部屋から出て行った。
数時間後、頭からピンク色が抜けて僕の頭はようやく思考する事が出来るようになっていた。フィーナ姉に何度も口づけされるという暴挙を思い出し僕は身悶えした。
「フィーナ姉強引すぎるよ……何回も何回も僕の唇を奪って……クッソー! 僕はフィーナ姉の弱点知っているんだぞ! するのはともかくされるのは苦手だというのは知っているんだよ、いつか逆に何度もキスして僕みたいに何も考えられない様にしてやるからその時は覚悟しろよ、フィーナ姉!!」
僕からフィーナ姉にキスしてやるという野望を抱く。その為にも健康にならなくては…… 横になった状態で仙道の修行が出来ないか、久坂さんの記憶から検索する事にした。