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VSアルフレッドさん、敗北。

「何ですぐに僕だと分かったんですか?」


僕は疑問を口にした。顔は黒い布で隠している。僕みたいな体格の人間は少なからずいるはずだし、僕だと分かる材料にはならない。その問いにアルフレッドさんは自慢げに答えてくれた。


「簡単な事です。私はあなたの事を監視するよう命じられています。その為あなたの足運び、体のこなしなどが分かります。それにその構え、そのような構えを取る剣術、武術、私は知りません。そしてその構えを取る体術を使うのは私が知る限り一人しかいません」


「アルフレッドさんが知らないだけで異国では当然にある武術かもしれませんよ」


「その可能性もありますが……声を聞かれてはもう言い逃れは出来ませんよ」


僕は思わず手で顔を押さえる。


幼いころから何かと世話を焼いてくれているアルフレッドさんなら僕の声を聞き分ける事が出来る。もう言い逃れは出来ない。


「見事な推理です。アルフレッドさん」


僕は白状し顔に巻いた布を引きはがした。


「推理というほどの物ではございません。カイル様……それでこんな夜更けに何用ですかな?」


「何用って……自分の家に戻ってくるのに何用はないんじゃないですか?」


「その自分の家に盗賊の様に忍び込んでこられては困りますな。昼間でしたら歓迎いたしますが……」


「父さんは歓迎してはくれないでしょう。会ってもくれないだろうし」


「それは……」


「だったら強引に行くしかないでしょう……アルフレッドさん、通して下さい」


僕はアルフレッドさんの脇を通ろうとするがアルフレッドさんが手を伸ばして僕の進路を塞ぐ。


「……通してください」


「今、あなたの体から殺気が迸っています。そんな危険な相手を旦那様に合わせる訳にはいきません。お帰り下さい」


「父さんにどうしても聞かなければならない事があるんです……通してください」


その言葉にアルフレッドさんが悲しげな顔をする。


(何でアルフレッドさんがそんな顔を?)


「聞きたい事は精霊エル・クラボの事ですか?」


「……アルフレッドさんも知っていてもおかしくないですね……父さんが僕を憎んでいる事は知っています。でもそれなら僕に直接仕掛けてくればいい事じゃないですか!? どうしてフィーナ姉を苦しめたのか、僕はそれを聞かなければならない!!」


僕の怒りにアルフレッドさんは一瞬驚く。僕が感情を露わにした事に驚いたようだ。


「……失礼、何事も諦観していたあなたがこうも感情を出すとは思いもしませんでした。あなたの成長嬉しく思います。ですが……そんな殺気を巻き散らかすような方を旦那様に合わせる訳にはいきません」


「どうしてもですか?」


「でも……ここまで来れた技量と成長に免じてあなたが聞きたいことにはお答えしましょう。あの冒険者たちにエル・クラボの事を教えるように命じたのは我が主バラン様です。そしてそれを実行したのは……私です。私がエル・クラボの名前をあの冒険者に教えました」


アルフレッドさんの答えに僕は激しく動揺した。


「アルフレッドさんが……どうして!?」


僕はアルフレッドさんの胸ぐらを掴む。だがアルフレッドさんは足に根っこが生えてかのように微動だしない。


「エル・クラボが目覚めたらフィーナ姉がどれだけ苦しむか分かっていたんでしょ。なのにどうして名を明かす事をしたんですか!?」


「……旦那様からの命令だからです」


感情の見えない無表情で答えるアルフレッドさんに僕の中の何かが切れた。僕は飛びのきアルフレッドさんから距離を取り三体式の構えを取った。


「……主からの命令だから絶対だなんて間違ってる。主が間違った事をしていたら正すのが、意見するのが執事でしょ!! 今のアルフレッドさんはただの操り人形だ。そんな人の言う事を聞く気はない!! そこを退かないのなら力ずくで通ります。怪我をしたくなかったらどいて下さい!!」


「出来ません!!」


「なら!!」


僕は言葉でなく行動で出た。後方の右足を一歩踏み出す。それでアルフレッドさんとの距離を縮める。同時に右拳を繰り出す。更に左足を右足の後ろに持ってくるように踏み込む。パシンという大地を踏みしめる音と同時に右拳をアルフレッドさんの腹部に当てる。形意拳の代表的な技、崩拳を繰り出す。

アルフレッドさんは棒立ちになっており避ける動作をしなかった。


(避ける必要はないとでも言うつもりか!? だったら食らって後悔しろ!!)


僕が思った事は間違っていなかった。アルフレッドさんは未熟な僕の拳など本当に避ける必要がなかったのだ。


(岩!?)


アルフレッドさんに右拳を当てた瞬間そんなイメージが頭の中に浮かんだ。僕の未熟な拳では岩を壊す事などましてや動かす事など出来なかった。

腹部に入った僕の拳をマジマジ見ながらアルフレッドさんは僕を称賛した。


「こんな威力の乗った拳を繰り出せるとは……見事っ!! 誰かに師事されたという訳ではないのにこれだけの実力を付けたのだとするなら……あなたは間違いなく旦那様の血を継いでいます」


「それは一体どういう意味ですか?」


それに対しアルフレッドさんは無言で答えた。


「ともかく僕は行きます!」


「聞き分けがないのは困りますな」


そう言ってアルフレッドさんは僕の右腕を掴む。僕は引きはがそうと後ろ、左右に動くが引きはがす事が出来なかった。ならばと拳を繰り出す。顎や胸部を狙うが掴まれている右腕を微妙に動かされると、威力が削がれてしまい、ダメージを与える事が出来なかった。腕を掴む事でこちらの攻撃をいなしていた。


(ここまでの実力を持っているのか、アルフレッドさん……)


「私との実力の差が分かりましたか? あなた一人では私にすら勝てはしない。旦那様に会う事は出来ないでしょう」


「……それでも僕は押し通る」


僕の悲痛な決意にアルフレッドさんは僅かに怒りを覚えたようだ。


「実力差があると分かっていても抗うとは……こうなると見苦しいというより他ない。聞き分けの悪いものを黙らせる方法、私は一つしか知りません」


アルフレッドさんは僕の右腕を掴んでいた左手を離し拳を作る。魔力がこもっていない肉体の力のみで僕を殴りつけた。アルフレッドさんの拳は己の体を隠すぐらい巨大に僕には見えた。その拳を躱す事が出来ず僕はもんどり打って倒れる。

薄れゆく意識の中、悲しげな顔で僕を見るフィーナ姉の姿が僕の脳裏に浮かんだ。


(ゴメン……フィーナ姉)


僕は脳裏に浮かぶフィーナ姉に謝罪しながら意識を失った。





















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