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石像から出てきたのは……神様だったよ

後頭部にフワフワと柔らかく、それでいて適度な弾力があって気持ちのいい感触があった。その感触をもっと味わいたくてグリグリと頭を動かすと「ヒャンッ」という変な声が聞こえて僕は目を開けた。目を開けると二つの顔が僕の顔を覗いていた。一つはフィーナ姉。また僕を心配げに見つめている。大きな栗色の瞳に涙をためている。


(また、そんな顔させちゃったね、ゴメンね、フィーナ姉……で、もう一人は?)


僕の顔を覗いているもう一人の人は小さかった。全長からすると僅か九セーチ(センチ)しかないのではないだろうか。銀色の髪に赤い瞳、目鼻立ちが整っているおり冷たい印象を受ける。僕たちと同じ大きさだったら抜群のプロポーションと思われる見事な肢体。その見事な肢体を動物の毛皮で包んでいる。動物の牙を紐で繋げた物を首につけている。


(何だろう、この人……人でいいのか?)


「フィーナ姉、勝手に部屋に入っちゃってごめんね」


僕が謝るとフィーナ姉の顔が近づいてる。


「ヘッ? ナニッ?」


疑問の答えはすぐに判明した。フィーナ姉が僕の顔をまんべんなく舐め始めたのだ。


「ワプッ、フィーナ姉、ヤメテ!!」


「昨日の今日で二回もお姉ちゃんの目の前で倒れたんだよ! こんなに心配させてどういうつもりなの! こんなもんじゃ絶対許さないんだからね!」


僕はさらにペロペロ舐め回され顔面をフィーナ姉の体液まみれにされた。


「……フィーナ姉に犯された。もうお婿に行けない……フィーナ姉、お嫁に来てくれる?」


「エッ? エエッ!?」


顔を真っ赤にして返答に困っているフィーナ姉……可愛いな。しかしフィーナ姉の恥ずかしがるポイントはどこなんだろう。よく分からん?


不意にわざとらしく耳元でコホンコホンと咳払いされらた。声の方向には全長九セーチ(センチ)の小人が僕の目の前でプカプカと浮いていた。


「二人の世界に入られるとワシの立つ瀬がない。いい加減にこちらに気付いてはくれんか?」


僕の目の前に浮いている小人さんは申し訳なさそうな顔をしている。絶世の美女である小人さんがそんな顔をしてると妙に嗜虐心をくすぐられる。もう少しいじめたいと思っているととても怒っている人が小人さんを鷲掴みみした。


「なっ!? フィーナ、何をする!?」


「何をするじゃありませんよ……アルジュナ様。再びお会いできた事は嬉しいですよ。でも、私の部屋には絶対入らないで下さいと言っておいたカイル君がどうして私の部屋に入ったのでしょうかねえ? 念のため鍵をかけておいたのにどうして開いていたんでしょうねえ?」


フィーナ姉に握られている小人さん―――アルジュナというらしい―――はそソッポを向く。


「ねえ、アルジュナ様、答えてくれませんか? ねえ、ねえ」


フィーナ姉怖いよ、笑っているのに目が笑っていないよ。


「……ワシが目を覚ましたのはつい先日の事じゃ。お前の大体の事情は術を使って理解はしたが、お前に不当な労働を強いるバカ者に一言言ってやりたくなってな、この部屋に誘い込んだんじゃが……その姿を見て言う気も失せた。こんな体ではお前に頼るしかないのじゃからな」


アルジュナさんが僕を気の毒そうに見ている。その事が分かったからかフィーナ姉は溜め息を付き、アルジュナさんを離した。


「しかし、そこの坊主。そんななりをしておるが妙な力を持っておるの。石像の中に折ったワシの体をまさぐるももんじゃから思わず攻撃してしまったわい」


「どういう事かな、カイル君?」


「どういう事ですか、アルジュナさん?」


「何じゃ、自分がないをやったか分かっとらんのか? それとも秘密にしとるのか?」


「そこは黙秘権を行使します」


「フィーナにあまり心配かけんでくれよ。少なからず思われとるんじゃからな」


「はい……ところでフィーナ姉、少しはお金の援助されてるんだから贅沢ってほどではないにしても化粧品とか服の一着くらいは買ってもいいんじゃない」


「駄目だよ、カイル君。少しだけ少しだけって言ってればあっという間にお金は無くなっちゃうんだよ。それにカイル君、後二年で十五才、成人として扱われるようになったら援助を打ち切れれちゃうんだからその時の為にお金は溜めておかないと困るんだよ」


フィーナ姉の正論にぐうの音も出ない。そうだよな、後二年で十五になるんだよな。それまでにせめて普通の人ぐらいに動けるようにならないと……その時フィーナ姉はどうするんだろう。僕と一緒にいてくれるんだろうか? 不安だ。


「あの甘えん坊のフィーナ嬢ちゃんがこうもしっかり者になるとは。苦難苦労は人を変えるのう」


「私にも色々あったんです」


二人の間には目に見えない絆の様なものがあって何かもやもやした。


「ところで根本的な疑問何だけど……そのアルジュナさんだっけ? この人? は一体何者?」


「そうじゃの、自己紹介はしておくべきじゃな。ワシの名はアルジュナ。今は滅んだ部族が信仰していた神の一柱だった者じゃ」


「神様!!」


「ああ、異国の神に負けてしまった情けない神じゃがな」


アルジュナさんが悲しげに笑った。


 



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