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僕は怨霊を洗い流す、そう来たか……エルヴィラさん

「アルジュナさんの封印が解けてない? まだ怨念が残っている?」


そう考えた僕の体に怨霊が纏わりついてきた。纏わりついた怨霊がバチンとはじけ体にダメージを与える。それと同時に頭にイメージが流し込まれる。人としての尊厳を踏みにじられコブリンの子供を生み出す為のモノとして扱われ、産めなくなると苦痛を与えてから殺される。そんなイメージが流し込まれ、僕の心に怒りがこみ上げてくる。しかし―――


「カイル君ッ!!」


フィーナ姉の声に僕は現実に引き戻される。


「フィーナ姉大丈夫だよ……同じ手は二度も食わないから……」


本当は飲み込まれかけてが秘密にしておこう。


「こいつら、またカイル君に!!」


フィーナ姉は怨霊に向け牙を向くがフィーナ姉に病めるように言う。


「この怨霊たちは負の感情が大好物だよ。そういう感情で戦ったらこっちはどうやっても勝てないよ」


「だったら……」


フィーナ姉は腕を組んだ考えこみいいことを思いついたとでも言う様に手を打った。


「もう一回……する?」


フィーナ姉が頬を染め、口元に人差し指を当てながら言う。艶っぽい声と態度に感じるものがあったのか僕は鼻から血を吹き出した。


「キャアッ!!」


フィーナ姉が驚いたように悲鳴を上げる。


「色恋に面識がないようだが何となくは分かっておるようだの……ヨシヨシ」


石像(仮)からアルジュナさんが満足げに言う。


「何を勘違いしているか知りませんが、僕未だに怨霊から攻撃受けてますからね!!」


鼻血を噴いたのは怨霊の攻撃を受け体が異常を起こしている為だ。そうだと自分に言い聞かせる。


「でも、そんなこと言ってる場合じゃないよ。このままだとカイル君、またおかしくなっちゃう!!」


フィーナ姉が僕に向かって一歩踏み出す。僕は一歩後ろに下がる。


「何で逃げるのかな……カイル君?」


「あの唇くっつける奴、ヤバいから……」


僕は唇同士の接触で得られた陶酔感を思い出して身震いする。あれは人をダメにする麻薬のようなものだ。あんな陶酔感を何度も体験したら人としてどうにかなってしまう。

それは置いておくとしてもフィーナ姉から流し込まれた無償の愛の氣は怨霊を退散させる事は出来ても退治までは出来ていない。これではまた誰かに憑りついてエルヴィラさんを殺そうとするかもしれない。それではエルヴィラさんも怨霊も救われない。


「ワガママ言わないでカイル君……痛くしないから……むしろ気持ちよくするから……お姉ちゃんに任せて……」


にじり寄ってくるフィーナ姉に恐怖を覚える。


「なんじゃろのう。緊迫しとる筈なのにこのグダグダ感……」


石像(仮)の中から呆れた風に言うアルジュナさん。


「フィーナ姉……僕にはこの怨霊をどうにかする手段があるから……それで何とか出来なかったその時は…その…お願いします……」


「カイル君、本当なの? お姉ちゃんと……キス…したくないから……嘘ついてるんじゃないの?」


キスというセリフの所で苦痛を堪えるような顔をするフィーナ姉。


「そ……そんな事ないから……」


「ならいいよ……こんなこと言っちゃいけないんだけど失敗してほしいな、お姉ちゃん」


「本当に言わないでよ、フィーナ姉!!」


僕は突っ込みながらその場に胡坐をかく。左手を開き足の上に置きその上に右手を置く。意識を丹田に集中、武息と呼ばれる呼吸法を行い丹田に氣を発生させる。行うのはいつもの小周天の行だった。いつもと違うのは意識の集中を邪魔するものがいるという事だった。怨霊たちは痛みと怨念で氣の集中を邪魔してくるがそれでもいとわず意識の集中、氣を体内で移動させ、特定の個所で止め、氣を強めていく。するとまたあの現象が起こった。


「カイル君の輪郭がまた薄れていく……アルジュナ様、カイル君大丈夫なんでしょうか?」


「カイルの存在が消えているわけではない、大丈夫じゃ。でも何でこの状況でそれを行う? 攻撃でも防御ではないよな、カイルが行っている事は?」


僕が行っているのは呼吸法と意識の集中でもって氣を強化する、それだけの術である。肉体や精神を強化する効果はあっても攻撃魔法に比べれば遥かに地味である。だが、怨霊相手になら攻撃魔法以上の効果があった。怨霊が僕の体に吸収され始めたのだ。怨霊たちは吸収されるのを嫌がって攻撃、または避難しようとするがそれはかなわない。アルジュナさんを封じ込めていた怨霊も石像(仮)から飛び出し僕に吸収される。怨霊たちも一つの氣として僕の体の中で循環させ、氣で怨念を洗い流し、外へ放出する。その時には怨霊はただの霊となり、夜空へ登って行った。

目を閉じているが気配で霊たちが夜空に登って行った事を確認し小周天の行を止めようとした時、僕の額を何かが触る。そして頭の中に女の子の声が響いた。


(エルヴィラを助けてくれてありがとう!!)


耳元で大声で叫ばれたような感覚に身をすくませる。


(リリオ、声大きすぎ!!)


(ワワッ、ゴメンナサイ……)


(いいよ。これでエルヴィラさんを助ける事が出来たと思うけど……)


(多分大丈夫だと思う。明日にはきっと目を覚ますよ)


(目を覚ましたら一杯話が出来るといいね)


(ウン、今から楽しみだよ)


僕の頭の中では小さな女の子が明日が楽しみで走り回っているイメージが浮かぶ。その光景に僕の頬も緩む。


(じゃあ僕はこれで小周天を終えるけど……)


(分かった。本当にアリガトウ……)


その言葉を最後に僕は小周天の行を終え、目を開く。リリオは近くにいるだろうけど小周天を終えた事で気配が分からなくなる。

目を開いた僕の視界に入ってきたのは残念そうな顔をするフィーナ姉と難しそうな顔をするアルジュナさんだった。


(……石像(仮)から出る事で来たんだ)


「カイル、お主何をやったんじゃ。怨霊たちが穏やかな表情になって空に登っていったぞ。神官が行うような浄化の術の様な事が出来たのか?」


一見すると神を信仰する神官が神の力を借りて行う浄化の術のように見える。だけど僕はそこまで信仰心はない。怨霊の浄化なんて出来るはずがない。


「僕が行ったのは浄化じゃなくて……近いのは……洗濯ですかね」


「ハッ? 洗濯?」


フィーナ姉とアルジュナさんが訳が分からないという顔をする。だけど僕が行った事を分かりやすく説明するとこれが一番しっくりするのだからしょうがない。

怨霊という汚れ物を取り込み、氣という洗剤と水に付け込み循環させることでかき回し汚れを取り除き外に放出したのである。


「なるほどのう……世の中にはワシの知らない魔法がまだまだあるもんじゃのう」


アルジュナさんが感心したように言う。フィーナ姉は残念そうな顔をする。


「もう一度、カイル君と……キス……したかった……」


「フィーナ姉……」


僕はフィーネ姉をジト目で見る。


「……やれやれ、ようやく事が済んだか……何て一日じゃ、まったく!! 神様がいるのなら文句の一つも言ってやりたいわい!!」


「自分に文句を言うんですか、アルジュナさん」


一瞬の間の後、僕たちは失笑する。笑った後アルジュナさんが溜め息をついた。


「役立たずの神でも火の番ぐらいは出来よう。カイルもフィーネも今日はもう休め」


「そんな、アルジュナ様。私も火の番ぐらいしますよ」


「今回、ワシ何もしとらんでのう。これぐらいはやらせてくれ」


「アルジュナさん、あまり自分を卑下しないでくださいね」


「ウム……気遣い感謝する」


僕とフィーナ姉はエルヴィラさんの横に毛布を持っていき横になる。フィーナ姉が僕の横でハァハァ言っているがそれに突っ込む気力が僕にはなかった。睡魔に逆らう事が出来ずあっという間に夢の世界に飲み込まれた。


翌朝、目を覚ますとエルヴィラさんが上半身をおこし僕を凝視していた。しばらく見つめ合った後僕は朝の挨拶をする。


「……おはようございます、エルヴィラさん」


エルヴィラさんはきょとんとした感じで何度か瞬きしてこう尋ねた。


「エルヴィラ……それが私の名前なんですか?」


(そう来たか……エルヴィラさん)


僕の頭はひどく痛んだ。






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