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修行開始、最初は氣を感じてみよう

ベットからフィーナ姉に蹴っ飛ばされてから僕は一睡もせず、ある人の記憶を検索していた。そのある人というのは久坂将人、僕がいる世界とは違う―――向こうの世界では僕のいる世界は異世界あるいは多次元宇宙というらしい。これも久坂さんの記憶にあった―――世界の人の記憶だった。


一気に全部検索すると激しい頭痛に襲われるため、検索する物を絞る。それが形意拳という武術と仙道と呼ばれる異世界の魔法に関する内容だった。久坂さんは異世界において上から数えた方が早いくらいの強さを持った人だった。その強さを支える二本の柱が形意拳と仙道。僕もこの強さを身につけたい、そう思った。


まずは仙道を身につけようと思う。形意拳の方は体ができてからでなければ鍛錬に耐えられない。仙道というのは不老不死の存在である仙人になる為の行法。生命力を強化する効能がある。今の僕に足りない物を見事に補完してくれるのである。


仙道の修行の第一段階に氣を感じるというのがある。

氣はいわゆる生命エネルギーなのだが詳しい事がよく分からない。魔力の様なものなのかもしれない。だとすると僕には氣を操る事が出来ない。僕は魔力がほとんどない初歩の魔法でさえ使う事が出来ない落ちこぼれなのだから。不安に思いながらもやってみるとすんなりと感じる事が出来た。これにはホッとした。そして応用として他の物体の氣を感じてみる事にする。試すのに適しているのは植物や鉱石、それに動物のようである。植物や鉱石はすぐに用意できないが動物はここに一体いる。夜中にベットから蹴落としておいて悪びれもせず気持ちよさそうに寝こけている犬コロが……。


(フィーナ姉、これはイタズラじゃないよ、実験だからね)


僕はゆっくりとフィーナ姉から毛布を引きはがす。大の字になり口から涎を垂らすフィーナ姉。そんな無邪気な顔を見るとイタズラするつもりがなかったが何かやりたくなってくる。僕は頬をツンツンとつつくと嫌がってソッポを向くのだが、それが妙に面白い。あらにつつくとフィーナ姉が逆襲に出てきた。つついていた人差し指を咥え込みチュパチュパと音を立てて吸い始めたのだ。


「ちょっ、フィーナ姉、離してよ!」


修行ところじゃない! 僕はフィーナ姉を揺さぶって起こそうとする。するとフィーナ姉は口を開き指を離してくれた。指が涎だらけになってしまったが何故か倒錯した気分になり、思わず凝視してしまう。


「……カイル君のエッチ」


不意に言われ僕は慌てる。


「な、なにもしてないよ!!」


慌てて言い訳を考えるがフィーナ姉は相変わらず寝こけている。どうやら寝ぼけて出た言葉だったみたいだ。ホッとしたがどういう夢を見ているのか聞いてみたい。夢の中の僕はフィーナ姉に何をしているのだろうか?


僕は指先を服の裾で拭いて両手をこすり合わせる。そして手を離し、両手の間の空間の感触を確かめる。両手を近づけると反発するような感じがある。


(ヨシッ、自分の氣の感触は分かる。この感触が他の物、他の人にも感じる事が出来るだろうか?)


僕は呼吸を整えながらフィーナ姉の顔から数セーチ(センチ)離れた空間に両手を置き、上下に動かしてみる。反発する感触がある。


(よし、フィーナ姉の氣の感触が分かる。次は特に強く出てる部分を探ってみよう)


僕は別の場所に両手を動かす。久坂さんの記憶では氣が強く出ている場所には特徴があり男女共通なのは頭上や頭の後ろ、背中、目、男なら生殖器―――いわゆるオ〇ン〇ン―――女性は胸と腰と明確に突起している場所が強い氣を発しているらしい……そういう所は最後に確認する事にしよう。


僕はフィーナ姉の目の辺りに両手を持っていき氣を感じてみる。確かに強い氣を発しており近づけると強く反発される感触がある。


(目は口程に物を言うというけどそういう時って多分目から強い氣を放っている状態なんだろうな……)


僕は感心しながら両手を別場所に移していく。お腹やその……ごにょごにょな部分は確かに強い氣を感じる。足の方はそれほど強い感じはしない。そしてフィーナ姉の体で一番突起している場所、二つの双丘のある場所に両手を持っていく。当然だけど実際には触っていない。フィーナ姉の胸から数セーチ(センチ)離したヵ所に手を置き氣を感じる。少し下に動かすと強く押し返すような感触がある。ものすごく強い感触に驚く。面白くなってさらに手を下げると不意に、僕の顔に見えない何かがぶつか多様な感触があった。その見えない何かが飛んできた方向を見て、僕は固まった。フィーナ姉が目を開けていた。こっちをガラス玉のような目で見ていた。目は口程に物を言うを証明出来てしまった。

僕は両手を引いて後ろに下がった。


「……カイル君、君は何をやろうとしていたのかな」


普段の明るい声ではない、深く深く沈んだ声で淡々というフィーナ姉。ゆっくりと立ち上がるのだが妙な迫力がある。僕も立ち上がり後ろに下がる。逃げた方がいいよね、これって……。


「カイル君、お座り」


「フィーナ姉、これは……」


「カイル君、お座り」


「だから、これは……」


「オスワリッ!!」


「キャインッ!!」


立場も種族も逆転しフィーナ姉の命令通り僕はその場に正座した。


「いい、カイル君。眠ってる女の子に変な事しようとしたらダメだよ! 私だからいいものの他の娘だったら人生詰んじゃうよ。そんな事になったらお姉ちゃん寂しいよ! そんなにしたいんだったら言ってよ。お姉ちゃんだったらいつでも準備OK何だから……」


フィーナ姉が変な事言い出した。止めないと厄介な事になりそうだ。


「フィーナ姉、ともかくすみませんでした。これからはこういう事をしないので許してください!」


僕は頭をベットにこすりつけて土下座した。さらに言いつのろうとするフィーナ姉は口を紡ぎ、ハァッとため息をついた。


「今度そういう事したら……捥いじゃおうか? お姉ちゃん男の子より女の子がほしいかも」


フィーナ姉が何かを握りつぶす動作をする。僕は根源的な恐怖に襲われか細く悲鳴を上げる。

こうやって最初の仙道修行は終わった。こういう事をやる時は一言言ってからやろうと僕は心に誓った。

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