第6話 落涙
え、ベッドシーン??
……じゃないんですけど(汗)よろしくお願いします。
目が覚めて少し経った後、優也はぼーっと天井を見ていた。すぐ隣でシャーロットが寝息を立てている。その寝顔に視線を移した。長くてきれいなまつ毛だと思った。
山奥で泊まるなら普通は山小屋だ。しかし、ここはちょっと趣が違った。図書館なのか……?何故こんなところに?そして、この女性、シャーロットは一体何者なのか?
すべての答えが一つも分からないまま、夜はいつの間にか更けていたのだった。シャーロットに勧められるまま、シャワーを借り、ベッドに入っても、しばらく悶々と考えていたのだが、疲れもあったのか、いつの間にか寝入ってしまったようだった。
本格的に目が覚めてくると、優也は静かに目を閉じて、外の音に耳を澄ませた。どこからか鳥の鳴き声がする。雨は止んだようだ。気持ちのいい森の朝だった。ゆっくりとベッドから体を起こし、すぐ右隣りの窓辺に寄った。そうしてしばらく、風邪で木々が動くのを、時間を忘れて眺めていた。
「眠れたか?」
と、突然声がした。いつの間にか、シャーロットも体を起こしていた。
「眠れましたよ」
声がしたほうに振り向いたら、シャーロットの肩からパジャマが少しずり落ちていて、優也はそれを見て、少しドギマギしながら言った。
「そうか、よかった」
ずり落ちたパジャマはそのままに、シャーロットは笑顔で言った。優也は顔が熱くなっていくのを感じて、少し瞬きをし、思わず視線を窓辺へ戻した。座りなおして、胡坐をかく。空いたスペースにシャーロットもきた。その瞬間、薔薇のいい香りがした。
「何か、いるか?」
「いえ、鳥の声はしますけど、あと薔薇の香りも」
シャーロットはそれを聞いて、見てわかるほど赤くなった。
「……それは、私のシャンプーの匂いだ……」
優也はそれを聞いて、はは、と軽く笑った。
「だから、きれいな髪なんですね、まるで金色の、水の流れのような……」
シャーロットの顔がますます赤くなっていった。かわいい、と思いながら優也はそれを眺めているうちに、異変に気が付いた。
泣いているのだ、と分かったのだ。優也は少し慌てた。
「どうして泣くんですか?」
「い、いや、なぜ父上のようなことを言うのだ、と思って。それを思い出したら、寂しくなってしまった……」
尚も、落ちる涙を拭いながら、シャーロットは言った。まだ泣いているのだろう、と思って瞳を覗き込んだ。
笑顔だった。
この笑顔を今度こそ失いたくはない……。そう思ったが先か後か、優也の体は動いていた。
気が付いたら優也は、力いっぱい、シャーロットを抱きしめていたのだった。二人が向き合っているから互いの顔はもう見えない。優也は目を閉じて、シャーロットの温かさが体に染み込んでいくのを感じた。
「泣かないでください。俺が、必ずお父様を見つけますから、だから……」
言いながら、内心、自分でも驚いていた。
俺、この女性をすきになってもいいかな……。
そう思ったからだ。それはたった今までは、ある出来事のせいで閉じ込めていた感情だった。その感情を意識したら、そのあとは、うまく言葉にならず、ただ互いの温かさだけが残った。