自分の気持ちと未来について(ワカナの場合)
小鳥のさえずりのような歌が止まり、遠巻きに見ていた小動物たちが去って行きます、それよりも前に、真っ黒な人間らしきものに気付いた動物たちは、気付く前に逃げていました。
「ここで人に会うなんて、驚いた」
「……」
話し声でさえも優しい女性は、言葉とは裏腹に、変わらない態度で微笑みかけます。腰掛けていた木の幹から立ち上がり、丁寧に頭を下げました。
「もし貴方が噂の夢の番人なら、私にほんの少しだけ、夢を見せてくれますか?」
「……良い夢とは、限らない」
「えぇ勿論、存じています、ほんの少しの我儘です」
「……対価は?」
「こんな物しか無いのだけど、宜しいですか?」
手渡されたのは小さなカゴ。
けれどその中から甘い匂いが漂っていて、覗き込んでみると、たくさんの菓子と果物が入れられていました。
「承知……」
いつかの男のように、黒い布の奥から伸ばされる、真っ黒な腕。その先が女性へ向けられると、再び木の幹へゆっくりと腰掛けることになり、真っ黒な腕の動きに合わせて、瞼が閉じていきます。
「……ユメと……現実を……見よ」
「……ありがとう……ございます」
感謝の言葉を述べた女性は、しっかりと幹へ体を預け、静かに寝息を立て始めました。
ゆっくりとオレンジかかり始める陽の光、その光を受け、眩しそうに目を細めた真っ黒な人間らしきものは、カゴに入れられていた赤い果物を手に取り、目の下、人間なら口のある場所へ押し当てます。すると不思議なことに、するりと姿を消して、咀嚼する音が聞こえ始めました。
女性から少しだけ距離を置き、真っ黒な人間らしきものは、初めてゆっくりと腰を下ろしました。