自分の気持ちと未来について(エイトの場合)
森の中にある小さなくぼみ、その中で丸くなって眠っていたエイトは、ゆっくりと目を開き、そしてゆっくりと起き上がりました。
勝手に出て来る涙を拭いながら、ただじっと見つめていただけの、真っ黒な人間らしきものを見つけ、届きそうな裾へ手を伸ばしかけて、止めてしまいました。
「ユメの夢、叶えられるんかな」
「……」
「でも現実と同じことになったら、俺は救ってやれるのか……」
「……」
聞いているのかいないのか、外見からはわからない、真っ黒な人間らしきものは、それでもじっとエイトを見つめています。黒い布の奥、そこにある二つの瞳が、光を宿したように見え、答えなんて返ってこないのに、ただひたすらその瞳を見つめました。
「でも……」
「私は夢を見せるもの……」
「そう……やな」
「決断は、己の使命」
風のような声は、それだけ話すと、興味がなくなったかのように背を向け、また歩み始めます。その背中を見つめるエイトは、自分の拳を見つめ、うんと伸びをしました。
「真っ黒人間、ありがとうな。ウジウジしてても仕方ないな!」
ゆっくりと去って行く、真っ黒な人間らしきものを見つめ、その背中に輝く煌びやかな剣を見送り、エイトも背を向けました。
去って行く真っ黒な人間らしきものとは反対の方向、湖の方へと、エイトは勢い良く駆け出して行きました。
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どんな魔法を使ったのかはわかりません、けれど、背中に携えていた少し重い、煌びやかな剣をそっと撫でた真っ黒な人間らしきもの。するとまるで布切れのように柔らかくなり、クルクルと巻かれて行き、終いには、毛糸玉のように、掌ほどの玉になりました。
それを自身が纏う黒い布切れの中にしまうと、何事も無かったかのように、再び歩みを始めました。
まだまだ森は深く、まだまだ先があります。どこまで行くのか、どこへ向かうのか、何を考えているのか、誰も何も知らない真っ黒な人間らしきものは、それでも静かに森の中を進みました。
日が傾き始めた頃、少しだけ木々が途切れそうになった場所、森の中にしてはよく夕陽が当たり始める広場の前で、一人の女性が座って、歌を歌っていました。
真っ黒の人間らしきものは、その女性の傍まで歩みを進めると、女性が振り向くと同時に、足を止めました。