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ユメの現実2(エイトの場合)

 大きな森の入口に、その家はありました。

 たくさんの木を組み合わせた小さいながらも立派な家。家の周りには、気持ち程度の畑も作られています。


「さぁここやで、どうや、立派なもんやろ?」

「エイト、一人で作ったの?」


 つい今まで不安をにじませていたアイネは、今度は心底驚いた表情を浮かべています。コロコロ表情を変える様子に、エイトはそれだけで嬉しそうです。


「そうやで、アイネの為につくったんや、これから目一杯、幸せなろうな」

「うん……でも……本当にいいの?」


 それでもやはり不安なアイネは、もう一度、確認するようにエイトの瞳を見つめ、答えを待ちました。小さく溜息をついたエイトは、ぎゅっとアイネを抱きしめ、囁きます。


「全てを捨ててでも、俺はアイネと居たいんや、あかんか?」

「ううん、嬉しい! でも立派なエイトには申し訳ないから……」

「もうそんなこと言うな!」


 もう一度抱きしめ、アイネの存在をもっと確認したエイトは、新居の扉を開きました。



 そうしてここから、二人の生活は始まりました。


 始まってから一週間。


 アイネは献身的にエイトに尽くしてくれました。最低限の食べ物しかない、そしてまだ作物もあまり取れないそこで、自慢になるはずの腕を振るい、エイトの為にたくさんの料理を作ってくれます。

 エイトはアイネに甘え、たくさん食べました。

 幸せだと毎日伝え、愛してると伝え、今までに感じたことのないほどに楽しい毎日を、エイトは過ごしていました。

 けれどその時、アイネが突然倒れてしまったのです。


「アイネッ!?」


 思わず抱き上げたその体は軽く、あまり重さを感じませんでした。細いとは思っていましたが、予想以上に痩せた体は、外から見るには分からないように、ずっと隠してきていたようです。


「お前、何でこんなに……あっ……」


 ここへ逃げ込んできてから、アイネは一生懸命エイトに尽くしてくれていました。

 けれどそこに、アイネが伴っていません。

 そう言えば、同じだけ食事をしているのを見たことが無かったように思い、問いただしたのです。


「お前……食事、ちゃんと食べてないんじゃないんか……?」

「……食べてるよ、もう少ししたら、もっともっと……上手くたくさん作れるから」


 アイネの視線の先は窓、その先には小さな畑。

 小さな芽がたくさん出て来ていて、風に揺れています。

 そしてその先に。



 一人の老人を先頭に、幾人もの人間が家を取り囲もうとしていたのです。



「女。一週間待った、約束は果たせなかったな」

「ジジイ、何しに来た」


 いとも簡単に家に侵入して来たジジイと呼ばれた、エイトの使用人は、腕に抱かれているアイネを、冷たく見下ろしていました。


「エイト様。こんな女に誑かされて、本当に心配しております。しかしこの女の心意気を試させていただいた上でお迎えに参じると、お伝えしていましたが? お聞きしていなかったのですか」

「アイネ……知ってたのか」

「ごめんなさい」


 笑ってくれているのに、泣いている、そんなアイネは、ただただごめんなさいと呟き、エイトの腕に掴まりました。暖かいアイネの手に、エイトは改めてアイネを抱き寄せ、使用人を見上げます。


「誑かされてるとか、勝手に決めんなや。俺はアイネと生涯を終えると決めたんや、ジジイが何と言おうが、戻らんからな」

「ぬくぬくと育った貴方が、こんな生活、続けられるとお思いですか? 現にどうですか? その女の変化にも気づいてないではないですか」

「それは……」


 ごめんなさいと、まだ囁き続ける腕の中のアイネは、ポロポロとこぼれる涙を、エイトの腕に滴らせます。


「一週間、お前の変化にエイト様が築けなかったら、城へ戻させていただくと、お約束しました。なのでエイト様。今すぐ」

「黙れ」


 ここまで来て、それでも唯一ずっと傍に置いていたたくさんの宝飾が付いた剣、それに手をかけ、ゆっくりと鞘から抜いたエイト。その剣先を使用人へと向けました。


「貴方に人殺しができますか?」

「アイネの為なら、何でもするさ」

「口先だけでしょうに、ならこの爺を殺して、二人の世界を勝ち取ってくださいませ」

「エイト……止めて……」


 必死にしがみつくアイネを引き剥がし、皮肉にも、幼い頃から使用人に教えられた構えを、使用人本人へ向けました。


「俺は、アイネと、一緒になるんや!」






 それからまた一週間。


 アイネは泣く回数が増えた。

 

 エイトの大切な人を、殺めさせてしまった。私なんかの為に、エイトを苦しませてしまった、と。


 その度にエイトは、アイネを抱きしめ、大丈夫だと、大好きだと、伝え続けました。

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