ユメの夢(エイトの場合)
そこは小さいけれど立派な家があり、その前には広い畑が広がっています。
たくさんの野菜とたくさんの草花が、撒かれる水と太陽の光で、これでもかと光り輝いていました。
エイトはさっきの身なりとはうって変わり、継ぎ接ぎをうまく組み合わせた服を土で汚し、少し黒くなったズボンも裾が少し破けていました。そんな事お構い無しに、柄杓で水をまくエイトは、うんと背筋を伸ばすと、小さな家を振り返りました。
タイミングよく開いた扉から、小さなカゴを携えて大きめの帽子を被り、エイト同様綺麗とは言えない服を身に纏った女性が、柔らかな笑みを浮かべて、エイトへ手を振ります。
「アイネ、こっちはもう終わるで」
「お昼ご飯の野菜を、いただきたいのです」
「葉物が食べてくれってさ」
「まぁ」
しっかりと土を踏みながら、エイトの傍へ辿り着いたアイネと呼ばれた女性は、嬉しそうに輝く葉物野菜を見つめました。
少し腰を落とし、野菜に触れたアイネ、小さく頷きながら丁寧に必要分だけ取り、携えていたカゴへ入れました。
「今日のお昼ご飯は、この野菜と……昨日いただいた卵で……オムレツなんてどうですか?」
太陽の光に負けないくらいに、アイネの笑顔は輝いている、そう感じたエイトは、思わず後ろからぎゅっと抱きつきます。思わぬ行動に驚くアイネでしたが、嬉しそうに回された腕に触れました。
「私はちゃんと、ここにいますよ?」
「うん。分かってるんやけど、幸せやなーって思って」
「ふふふ、毎日言ってくれてありがとう、でも……飽きませんか?」
「飽きるなんてありえへん! アイネ、もうこんな生活嫌になったか?」
驚いたようにエイトはアイネをぐるりと自分へ正面を向かせ、泣きそうな顔を見せます。普段しっかりとした面持ちをしたエイト、突然そんな表情を見せると、何も知らない人なら驚いてしまうかも知れません、けれど、アイネは変わらない優しい微笑みで、エイトの両頬を、細く白い手で包み込みました。
ひんやりとした手が、農作業で汗をかくほど熱を帯びていたエイトの体温を、少しだけ下げます。
「私は……エイトさんと一緒に過ごせて、本当に幸せですよ、幸せすぎて怖いくらい。いつもありがとうございます」
「ほんまか?」
「えぇ、本当もほんまもです、一番大切な人と過ごせること程、幸せなことはありません、どんな事でも乗り越えられます」
今日一番の笑みを浮かべているかもしれないアイネを、エイトは愛おしくなり、心の底から湧き上がる “大好き” が抑えきれず、思わず力任せにもう一度、アイネを抱きしめました。
「エイトさん、苦しい」
「うんうん、俺はホンマに幸せや」
「私もですよ」
「アイネ、アイネ、アイネ! お前はホンマに可愛いなぁ」
恥ずかしいのか照れているのか、顔を赤くするアイネは、少し緩めてくれた腕の中で、自らエイトの胸にくっつきました。
けして裕福でもなく、贅沢なんてしてあげられない。プレゼントなんて、一年に一回できればいい方で、明日の生活さえ不安になる毎日なのに、アイネは愚痴の一つも言わず、ただただ笑っていてくれる。
エイトと一緒にいられるだけで幸せだと、不器用な自分へ向けて、いつもくちにしてくれるのでした。