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自分の気持ちと未来について(エイトの場合)

 ここは静かな静かな森の中。


 右を向けば、大きな木々が太陽の光を受けて輝き、風に揺れています。

 左を向けば、木々の間から、遥か先にある湖の輝きが、たくさんの葉を輝かせ、美しく光っています。

 下を向けば、瑞々しい緑の苔が『滑るから、気をつけて』そう語りかけるように、存在をアピールするように、必死に太陽の光を浴びようとしています。

 見上げれば、たくさんの枝葉が伸びていて、本物の光を勝手に受け止め、私が一番だと、どの枝も葉も、キラキラと眩しい太陽を独り占めしていました。


 そんな森の中を、一人の人間らしきものが、歩いていました。

 どうして人間らしきものなのか、それは上から下まで真っ黒な布で覆われ、顔と思われる部分にも、真っ黒なフードが被られ、真っ黒な布で二つの目以外も覆われ、皮膚の一つも見えないから。

 二本足で歩く人間らしきものは、背は十代の人間ほどの高さしかなく、太くもなく細くもない。

 ただひたすら、のんびりと森の中を、歩いているのでした。


 そんな真っ黒な人間らしきものが歩いていく予定の先、少し凹んだところに、一人の人間が座っていました。


「……」


 けれど、真っ黒な人間らしきものは、特に変わった反応や行動をすることもなく、その人間の傍まで歩み寄り、初めて足を止めました。


「……」


 何を言うこともなく、ただじっと、くぼみに座り込んでいる人間、それなりに身なりがしっかりしていて、腰には立派な剣を携えた男を、見下ろしました。


「真っ黒人間か?」

「……」

「まさか噂通りとは、嬉しいこったね。会いたかったよ」

「……」


 特に何も言い返さない、真っ黒な人間らしきものへ、座り込んでいる男は、安堵の笑みで勝手に好きなように話しかけました。


 ゆっくりと息を吐き出し、また新しい空気を吸った男は “エイト”と名乗り、ただじっと自分を見下ろしている、真っ黒な人間らしきものへ話し続けました。


「俺には好きな人がいるんや、だけどその人とは今のままやと、片想いでおわってしまうん、それだけは嫌なんや。けどどうしていいかもう分からんくなってしもてね、だから見せて欲しいんや “ユメの夢” と “ユメの現実”を」

「……対価は?」

「お金じゃあかんことは、噂で聞いてる、ならせめて、この剣でどうや? 我が家に代々伝わる家宝の一つや」

「……承知」


 まるで風のような声が真っ黒な人間らしきものから発せられ、その声にエイトは満足そうに頷き、剣を差し出す。

 たくさんの宝石がついていて、煌びやかなそれは、ずっしりと重く、真っ黒な人間らしきものには荷物になるかもしれない。けれど構うことなくそれを器用に背負うと、真っ黒な布に隠れていた腕らしきものを、エイトへ伸ばした。

 その腕らしきものもまた、真っ黒な布が巻かれ、やはり皮膚は見えない。

 それでもエイトは、しっかりと目を閉じ、真っ黒な人間らしきものの言葉を聞いた。


「しかと……見届けよ……選択……せよ」


 そうして、ゆっくりとエイトはくぼみの中に身を委ね、子犬のように丸くなり、寝息を立て始める。


「……ユメの夢と現実を……」


 真っ黒な人間らしきものは、エイトをやはり見下ろし、ただじっとその姿を見つめていた。

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