告白
『恋をしてしまったかもしれない……』
唐突な告白は決まって夜だ。遠方の予備校に通う谷中と久しぶりにメールのやり取りをしていた時だった。最初は最近の勉強の話だとか周りで起こった出来事だとか他愛もない話をしていた。その後、今日の模試の話のなり、それも落ち着いたので、そろそろメールを切り上げて寝ようとした矢先だ。反応に困ったため、様子を見る調子で、
『どうした?』
とだけ返信して様子を窺った。すると一息つく間もなく返信が来た。いつもは筆不精な彼もこういう時は返信が早い。なんて都合の良いヤツだと微笑ましく思う。
『メールで打つと長くなる。今から電話できない?』
時計に目をやると日が変わるかどうかの時間帯だったが、模試も終わり一段落着いた上、翌日からGW休暇でしばらく予備校がないということもあり、その提案を了承した。夜更かしは生活のリズムを狂わせるので、受験生としてはご法度なのだが、その理性にも増して彼の恋愛に対する興味が僕を突き動かした。
『Prrrrr……Prrrrrr……』
「もしもし?」
眠れぬ長い夜が始まった――。
外が薄ら明るくなった頃、彼の寝落ちによって電話での会話は終わった。親友との久方ぶりの会話は大変愉快で、そのピリオドを自分たちで打てないほどであった。だがその内容のほとんどは谷中の恋愛事情で占められていた。突然恋をしたなどと言い出すから何事かと驚いたが、何のことはない、同じ予備校に好きな人ができたということだった。その相手が共通の知り合いならともかく、赤の他人ではこちらとて何もできないし、興味も湧かない。ただ一方的に彼の話を聞くに止まり、時折意見を求められれば、彼の意に沿うようなコメントを残したまでだった。とにかく彼が浪人生活を楽しんでいることは確かだ。
そんな彼を羨ましく思う一方、そうなってはいけないという自戒の念も抱いた。僕は去年の雪辱を果たすためにこうして受験期をもう一周しているのだ。恋愛なんて論外だ、絶対にありえない。彼の初志はどこに行ってしまったのか、そう憐れみながら、親友の堕落を嘆きながら、僕は先へ進む。
――リリリリーン……
目覚まし時計も起床する時間になった。軽い眠気を感じながらも朝の英語の学習に取り掛かる。朝食から帰ってきたら本格的に寝よう、そう心に決め、いつもと変わらぬ朝を過ごす。