自己採点
一問正解する度に安堵し、一問間違える度に落胆する。問題冊子と解答速報を相互に見比べながら、一喜一憂を繰り返す。いや、そんなものではない。正解する度に一喜し、間違える度に九憂する、それくらいのバランスで心を掻き乱していく。なぜならば、試験自体の手応えがイマイチだったのに加え、悲観的な気性も相まって、間違える度に目標から遠ざかっていくような気にさせられるからだ。試験で疲弊した精神をさらに消耗させながら、自己採点を進めていく。
(終わった……)
一通り点数を出すと、何度も検算する。その作業を二回、三回と繰り返し、一応の点数を確定させた。
(九〇〇点中七八〇点―― 去年と変わらないじゃん……)
若干の落胆もありながら、無事に一次試験を終えたことにひとまずホッとする。この点数なら二次試験でも勝負になる。少なくとも足切りを食らうことはない。あとは今年の問題が去年より難しくなっていることを祈るばかりだ。そう思うと、安堵由来の疲れがドッと込み上げてきた。
(流石に今から勉強するのは酷だ、今日はさっさと風呂に入って寝よう)
そう心に決めたその時、誰かが自室の扉を叩いた。
「岩ちゃん……」
扉を開けると、そこには半泣きで佇む村野の姿があった。
「どっ、どうした?」
条件反射で聞いてはみたが、答えは分かっている。
「こんなつもりじゃ……なかったんだよ……」
その場に泣き崩れる村野、只事ではなかった。
「おい、そんなところで泣くな……。とにかく一旦入って来い。話は聞くから」
彼はふらつくように部屋に入ると、その場にへたり込む。
(そんなに悪かったのか……)
泣き止まないその姿を見ながら、僕はどう接していいか分からないでいた。とにかく彼が落ち着くまで何も言わずにいることを決めた。だがそこから口を開くまでに時間はかからなかった。
「センター試験、失敗した」
そんなことは火を見るよりも明らかだ。
「どれくらいだったの……?」
問題はその内容である。その点数である。
「ちょうど八割……」
「えっ?」
思わず聞き返す。その点数は彼からすると大健闘であるはずだ。少なくとも今までの模試の結果からはそう見て取れた。それなのになぜ彼は悲しんでいるのか、理解に苦しむ。
「こんなんじゃ医学部行けないよ……」
「あっ……そっか……」
彼は医学部志望だったのだ。それをすっかり忘れていた。確かに医学部を受験するとなると厳しい点数だろう。しかし彼の執念には感服する。僕であれば夏手前で諦めているに違いない。
「やっぱり行きたかったんだな……」
彼は静かに頷く。
「でもさ、今年のセンター試験は難しかったらしいから……」
咄嗟に口から出任せを言った。嘘も方便、この場を収めるには致し方なかった。
「それ、ホントか?」
ふっと顔を上げ、すがるようにこちらを見る。僕は出任せを言ったことをすぐさま後悔した。
「帰り道にみんな言ってたような……」
僕は視線を逸らしながら言った。それを聞くと彼の顔がスッと明るくなった。
「それならまだ可能性はあるのか……?」
「そうだな、まだ分かんないけど」
そして続ける。
「今日は早く寝て、明日考えようぜ。また話聞くから、さっ?」
暗に帰るように仕向け、彼も素直に応じた。自分の為にも、村野の為にも、今年のセンター試験は難化していることを祈りつつ、今日という日の仕舞い支度に入った。