ライバル
春期講習も終わりを迎え、いよいよ前期講習が開始されようとしていた。春期講習期間中の最大の収穫は付け焼刃の受験知識というよりもむしろ、十分すぎるほどの友人を得たことであった。しかも皆一様に志を高く持ち、目標に対する努力を惜しまない。
しかし、それは少々自分が友人に恵まれた感は否めなかった。というのも、浪人という立場が分かっていないのか、もしくはスロースターターなのかは定かではないが、予備校に来ながら、勉強しない者が大勢いたのだ。さすがに自習室は静かであったが、皆が集まるラウンジは閉口するほどに喧しく、とても勉強できる環境になかった。僕は彼らを心から侮蔑し、冷笑していた。そして思い知ったのだ、これが濾紙にもかからない濾液の現実だと……。
「私立文系はありえない」
帰路の中途、平田がそうぶちまける。彼も例に漏れず、春期講習中に仲良くなった友人の一人で、同じ文系クラスの人間だ。そのせいか、同じ授業を受けていることが多く、彼と共に行動することもしばしばだ。とにかく彼はよくしゃべる。そして言葉に毒がある。人間としては非常に好き嫌いが分かれる部類だが、僕はなぜだか好意的に思えた。それは感覚的なもので、説明は難しいが、その毒が心地よい。加えて彼も同じ大学を志望している。その目標への熱意は凄まじく、現役時代は単願だったそうだ。そんな「国立大至上主義」がたたり、前述のようにそれ以外の大学、特に滑り止めと扱われる私立大学を貶める発言につながっているのだと思われる。
「AO入試や推薦があるトコは行くべきじゃないね」
「猫かぶりがお上手なだけで努力もへったくれもない連中ばかりだぜ」
「一般入試以外は態の良い裏口入学みたいなものさ」
刺のある言葉が続く。偏見に満ち溢れ、感情的な発言だが、一理あると思わせるやるせなさを含蓄する。それがなぜなのか、この段階ではわからない。ただこの時は、これだけ物をはっきり言えたらストレスも溜まらないのだろう、と傍から羨ましく思うだけであった。
珍しく話に凪が訪れ、ふと空を見上げた。綺麗な夕焼けが地平線を燃やす。春分も過ぎ、三月も終わりに差し掛かったこの頃、随分と日が長くなったものだと実感する。まだまだ先は長いけれど、今のところは初志を忘れずに努力できていると思いながらも、自分を戒め、気を引き締めながらこの苦境を駆け抜けようと心に誓った。