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蛹の夢  作者: 金王丸
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最後の模試(前編)

 十一月に入った。目に見えて日も短くなり、時折吹きつける風に冬の香りを感じるようになった今日この頃、街行く人々の装いや年末商戦に向けた各種商店の装飾など、世間全体も冬めいてきた。冬は世の中を浮つかせる。


 だが僕ら浪人生は浮足立っていた。周りの様子を見ても明らかで、「全国模試」の返却後から自習室の利用者が急増していた。そして秋口まで予備校全体に見られた余裕は影を潜め、次第に焦りの色が表れ始めた。僕もその例外ではなく、「全国模試」の失敗を受け、気を引き締め直し、心を入れ替えて、受験勉強に邁進する日々を送っていた。一方でその勉強の中身もこれまでとは違い、過去問などの実戦演習が中心になり、受験勉強も佳境に入ったことを実感させられる。


 「今日も模試かよ~」


 予備校に向かう道中、村野が嘆くように言い捨てる。


 「来週末も、再来週末も、だぜ」


 十一月はとにかく模試が多い。


 「でも模試として判定が出る最後の機会だからな。ちゃんとやらないと」


 川口が言う。確かにそうだ、今月に行われる模試は受験前最後の腕試しの機会、無駄にするわけにはいかない。そしてその結果は志望校の検討に大きな影響を与えると同時に、最後の三ヶ月を過ごす上での精神的な部分にも大いに関係してくる。


 「また後で」


 予備校に着くと、それぞれの教室に散らばる。教室にはまだそれほど人は集まっておらず、静かなものだ。僕は席に着くと、紙を取り出し、削ってきた鉛筆で試し書きする。これはマーク模試の朝に行うルーティンワークみたいなものだ。こうやって予め丸めておくと尖った芯よりマークシートが塗りやすく、また消しやすくもなる。その後しばらくはいつものように参考書に目を通していると、


 「岩倉~なんか食い物持ってないか?」

突然、武下が話しかけてきた。


 「そんなもんねぇよ。朝飯食ってないのか?」

 「時間がなくて食えなかった」

 「やばい、めっちゃ腹減った。ラーメン食べに行こうぜ、ラーメン」


 「馬鹿じゃねぇの? もう始まるから席につけよ」


 そう邪険に振る舞うと、武下はそれ以上何も言わずに席に戻った。


 (こっちは真剣なのに……なんてマイペースなヤツなんだ……)


 試験監督がぞろぞろと教室に入ってきた。問題が配られる。半日がかりで行われるマーク模試は社会科から始まる。幸先の良いスタートを切るためにもここで失敗するわけにはいかない。


 「では始めてください」


 試験官の号令とともに勢いよく問題をめくる。こうして最後の模擬試験が始まった――。



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