デート(喫茶店編)
「何にする?」
メニューを見ながら彼女に尋ねる。返事がない様子から察すると、完全にへそを曲げてしまったようだ。
「このパフェとかどう? 二人で食べようよ!」
メニューの中で一番高価な特大パフェを指し示し、彼女にその是非を問う。
「ふーん、まあいいんじゃない?」
生返事に終わる。このままでは埒が明かないので、それを頼むことにした。
(気まずいな……何か話題を……)
脳みそフル回転で話題を探す。彼女は不貞腐れたまま携帯をいじっている。しばらく沈黙が続いた後、
「えっと、そう言えば誕生日いつだっけ?」
この話題からどう機嫌を取り戻すのか、ゴールは見えない。
「ちょうど一ヶ月後だけど?」
「じゃあ誕生日のお祝いしなくちゃね!」
「よろしく」
そう言うと彼女は再び手元に視線を落とす。まずい、二往復で話が終わってしまった。ここからどうするべきか、途方に暮れそうになった時、
「お待たせしました~」
救世主が現れた。そのパフェは思いの外大きく、二人で完食できるかわからないほどだった。
「わあ、すごい!」
彼女は嬉々としてそれを写真に収めた。機嫌は急速に回復しつつある。女心と秋の空である。
「早く食べようよ!」
「美味しそうだね!」
一難去った気がして、ホッと胸を撫で下ろした。だが安堵したのも束の間、次の試練が襲い掛かる。
「いらっしゃいませ~」
何気に来客に目をやる。
「ここの特大パフェ美味いらしいぜ!」
聞きなれた声に眉をひそめる。
(まさか……)
その一行は僕から見て斜め後ろのテーブル席に陣取った。携帯画面の反射で確認すると、
(やっぱりあいつらじゃないか……)
そこにはいつもの三人組がいた。
「どうしたの?」
彼女が怪訝な表情で問いかける。
「いや、何でもない……」
口では平静を装っても、表情は固く強張っていく。
「ふーん」
彼女は一応納得したように頷き、パフェを頬張る。僕は、と言えば、気が気でなかった。もしこの場を見られでもしたら、後ですこぶる面倒なことになる。特に村野に知られたら行く先々でこのことを触れ回るに違いない。そう思うとデートどころではなくなった。一刻も早くこの場を立ち去らないと、それしか頭になかった。
「さっきからどうしたの? 絶対なんかあったでしょ」
彼女は怪訝な表情を浮かべる。パフェはまだ中段までしか食べ進められていない。完食に至るまでまだ時を要するのは誰の目にも明らかだ。
「うーん、大したことじゃないよ……」
なんとかお茶を濁そうとするも、彼女の追及は止まらない。
「えーっ、気になるじゃん! 言ってよ!」
声が大きい。このまま言い争いにでもなれば、彼女の機嫌を損ねるだけでなく、三人組にも見つかってしまう。ここはひとまず事情を説明することにした。
「ふーん、友達がね~」
納得してくれたかに思えた。しかし、
「なんで見つかったらダメなの?」
「付き合うってそんなにやましいことなのかな?」
「もしかして私といるのが恥ずかしいの?」
畳みかけるように僕を責め立てる。
「そんなことはない、絶対! でもさ……」
「でもなんなの? なんで堂々とできないの?」
「堂々とするとかそういうんじゃないよ……」
「ただ、恋愛事は開けっ広げにするもんじゃないじゃん、だから……」
「は? 意味分かんない」
「それでも男かよ」
「もう知らない」
「帰る」
彼女は荷物を取ると、店を飛び出してしまった。下手に理詰めに走ったことが裏目に出たのだろうか、僕はただただ唖然とするしかなかった。感情的になり去ってしまった彼女、残されたのは無駄に高い服と溶けかかったパフェ、そしてその勘定だった。
(何がいけなかったのか……)
美味しくなくなったパフェを口に運びながら、心の中でそう繰り返すばかりだった――。




