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蛹の夢  作者: 金王丸
32/54

デート(喫茶店編)

 「何にする?」


 メニューを見ながら彼女に尋ねる。返事がない様子から察すると、完全にへそを曲げてしまったようだ。


 「このパフェとかどう? 二人で食べようよ!」

メニューの中で一番高価な特大パフェを指し示し、彼女にその是非を問う。


 「ふーん、まあいいんじゃない?」

生返事に終わる。このままでは埒が明かないので、それを頼むことにした。



 (気まずいな……何か話題を……)


 脳みそフル回転で話題を探す。彼女は不貞腐れたまま携帯をいじっている。しばらく沈黙が続いた後、


 「えっと、そう言えば誕生日いつだっけ?」


 この話題からどう機嫌を取り戻すのか、ゴールは見えない。


 「ちょうど一ヶ月後だけど?」

 「じゃあ誕生日のお祝いしなくちゃね!」

 「よろしく」


 そう言うと彼女は再び手元に視線を落とす。まずい、二往復で話が終わってしまった。ここからどうするべきか、途方に暮れそうになった時、


 「お待たせしました~」


 救世主が現れた。そのパフェは思いの外大きく、二人で完食できるかわからないほどだった。


 「わあ、すごい!」


 彼女は嬉々としてそれを写真に収めた。機嫌は急速に回復しつつある。女心と秋の空である。


 「早く食べようよ!」

 「美味しそうだね!」


 一難去った気がして、ホッと胸を撫で下ろした。だが安堵したのも束の間、次の試練が襲い掛かる。


 「いらっしゃいませ~」


 何気に来客に目をやる。


 「ここの特大パフェ美味いらしいぜ!」


 聞きなれた声に眉をひそめる。


 (まさか……)


 その一行は僕から見て斜め後ろのテーブル席に陣取った。携帯画面の反射で確認すると、


 (やっぱりあいつらじゃないか……)


 そこにはいつもの三人組がいた。


 「どうしたの?」

彼女が怪訝な表情で問いかける。


 「いや、何でもない……」

口では平静を装っても、表情は固く強張っていく。


 「ふーん」


 彼女は一応納得したように頷き、パフェを頬張る。僕は、と言えば、気が気でなかった。もしこの場を見られでもしたら、後ですこぶる面倒なことになる。特に村野に知られたら行く先々でこのことを触れ回るに違いない。そう思うとデートどころではなくなった。一刻も早くこの場を立ち去らないと、それしか頭になかった。


 「さっきからどうしたの? 絶対なんかあったでしょ」


 彼女は怪訝な表情を浮かべる。パフェはまだ中段までしか食べ進められていない。完食に至るまでまだ時を要するのは誰の目にも明らかだ。


 「うーん、大したことじゃないよ……」


 なんとかお茶を濁そうとするも、彼女の追及は止まらない。


 「えーっ、気になるじゃん! 言ってよ!」


 声が大きい。このまま言い争いにでもなれば、彼女の機嫌を損ねるだけでなく、三人組にも見つかってしまう。ここはひとまず事情を説明することにした。



 「ふーん、友達がね~」


 納得してくれたかに思えた。しかし、


 「なんで見つかったらダメなの?」

 「付き合うってそんなにやましいことなのかな?」

 「もしかして私といるのが恥ずかしいの?」


 畳みかけるように僕を責め立てる。


 「そんなことはない、絶対! でもさ……」

 「でもなんなの? なんで堂々とできないの?」

 「堂々とするとかそういうんじゃないよ……」

 「ただ、恋愛事は開けっ広げにするもんじゃないじゃん、だから……」


 「は? 意味分かんない」

 「それでも男かよ」

 「もう知らない」

 「帰る」


 彼女は荷物を取ると、店を飛び出してしまった。下手に理詰めに走ったことが裏目に出たのだろうか、僕はただただ唖然とするしかなかった。感情的になり去ってしまった彼女、残されたのは無駄に高い服と溶けかかったパフェ、そしてその勘定だった。


 (何がいけなかったのか……)


 美味しくなくなったパフェを口に運びながら、心の中でそう繰り返すばかりだった――。



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