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蛹の夢  作者: 金王丸
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デート(洋服屋編)

 久しぶりに模試のない日曜日を迎えた。だからと言って予定がないわけではない。時間を気にしつつ、服装を選ぶ。髪型は寝癖を直す程度に止め、余計な手は加えない。


 「こんなものかな」


 結局、服装も普段と変わらないものに落ち着いた。姿見で確認しても、荷物がいつもより少ないだけで、やっぱり予備校に行く格好だ。


 (まあ、大丈夫でしょ……)

待ち合わせに十分間に合うように部屋を後にした。



 「やっほー」


 向こうから梨華ちゃんがやって来るのが見えた。彼女は相変わらずのお洒落さんで、とても可愛かった。こんな娘を彼女にできるなんて、我ながらよくやったと今更ながらに自分を褒め称えたい。


 「今日は何もつけてないんだね」

ちょっぴり残念そうに僕の髪をいじる。


 「服装もいつもと変わんないじゃん!」

やはり服装に関しても見られているのだなと改めて感じる。


 「服あんまり持ってないんだよね……」

 「じゃあさ、今日は洋服見に行こうよ!」


 そう言えば、今日何をするか、決めていなかったのを思い出す。


 「いいよ!」


 出来るだけ乗り気に答える。だが内心、洋服屋に行くことは避けたかった。そもそもファッションに興味がないし、その場所自体、非常に退屈だからだ。服なんて親の買ってくる物しか着たことがない。そんな自分が服を見ても楽しいはずがないのだ。


 だが今回は梨華ちゃんとのデートの一幕である。内心をひた隠し、外面だけでも楽しく振る舞う必要があった。


 「これ似合うんじゃない?」


 渡された服を体に当ててみる。


 「おお、いいね」


 服なんてよっぽど奇抜でなければ、どれも同じように思える。取り敢えず賛同しておけば角は立つまい。


 「やっぱりこっちかな?」

 「これも捨てがたい」


 どっちつかずのやり取りを繰り返す。手元には服がどんどん増えていく。


 「ああ! やっぱりこれだ! これにしちゃいなよ!」


 彼女に勧められるがまま、その服を自分の身体にあてがってみると、確かに良い感じだ。


 「じゃあこれにしようかな」


 無駄な出費が増えた、そう思いながらもその服を買う決心がつきかけたその時、値札を見て驚愕する。


 (八〇〇〇円……!?)


 高い、高すぎる……。洋服がここまで高いとは思わなかった。せいぜいこの半額程度だろうと高を括っていたからだ。


 (困ったな……)


 せっかく彼女に選んでもらったのだから無理をしてでも買った方がいいのか、はたまた、上手いことこの場をごまかして買わない方向にもっていくべきか、二つの相反する考えが心の中でせめぎ合う。


 「結局買うの ?買わないの?」


 彼女に問い質される。


 「うーん、候補が多くて悩むな~」


 手元に目を落とし、彼女に悟られないように値札を見やる。すると三〇〇〇円台の物があることに気づき、


 「やっぱりこれとかどうかな? そっちより良い気がしてきた」

 「え~、絶対こっちだよ~。それダサいじゃん」


 さっきとは打って変わった発言に驚きを隠せない。女心と秋の空、とよく言うが、秋の空も流石に十数分では変わらない。


 「わかった、わかった。じゃあ、こっちにするよ」


 なるべく不服の色を出さないように振る舞ったつもりだった。だが彼女は


 「もういい、行こう」


 そう言い残して、そそくさと店を後にしてしまった。



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