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蛹の夢  作者: 金王丸
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変化

 今日は金曜日、時間は午前十一時を回った頃だ。後期から毎週金曜日は午後の講義しかないのに、僕は寮の自室でせかせかと早めの身支度をする。普段はつけないワックスをつけ、慎重に服装を選ぶ。今日はただ予備校に行くだけではない。


 そう、今日は梨華ちゃんと一緒に昼食をとる約束をしているのだ。


 (こんなものかな……)


 姿見には寝癖と見紛うような髪型に、着こなせていない衣装を纏った自分が映し出される。普段、ファッションに無頓着だったツケを払わされている気がしてならない。

ふと時計を見ると、待ち合わせの時間に近づいていた。


 (きっと大丈夫だろう……)


 そう心に言い聞かせ、急ぎ駅まで向かった。


 「なにその髪型! 寝癖ついてるよ!」


 待ち合わせの時間には間に合ったが、いきなり髪型を笑われ、居たたまれなくなった。近くの洋食屋に向かう道中、他の話題で談笑しても、僕は自分の髪型のことが気になって仕方がなかった。そして、店に着くなり、急いで御手洗いに走り、元のそれに戻した。


 「やっぱり普通が一番だよ!」


 頷きながら彼女は言う。


 「でもさっきのは可笑しかったな。写真撮っておけばよかった!」


 と言ってまた笑う。バカにされているのは間違いないが、相変わらずの可愛い笑顔だったので、全く悪い気はしない。むしろ怪我の功名か、笑いのネタを提供できてよかったとさえ思えた。



 楽しい時間はあっと言う間に過ぎる。そろそろ店を出ないと講義に間に合わない。でもなかなか言い出せない。意図せず時計を見やる。それを察したのか、彼女の方が切り出す。


 「あっ、もうこんな時間! 岩倉くん、午後から授業あったよね? 早く行かないと!」

 「えっ……うん、まあ。梨華ちゃんは?」

 「私は金曜日何にもないよ! いつも自習しに予備校には行ってるけど」


 彼女との楽しい時間と午後からの授業、心の中で天秤に掛ける。


 (金曜日の午後の授業は現代文か、別に受けなくて大丈夫かも……)


 一片でもその考えが頭の中をよぎると、それを正当化しようとする自分がいた。そして次第にその方向へ気持ちが傾いていく。


 「まあ、大丈夫! なんとかなると思う」

 「ホントに行かなくていいの? 私に気を遣ってない?」

 「そんなことないよ、大丈夫……」


 それは彼女に対してというよりはむしろ自分に言い聞かせるような発言だった。


 「じゃあ、一緒に自習しようよ! 授業出なかった分、ちゃんと勉強してたら大丈夫だよ、きっと」


 それもそうだな、と心の中で合点がいった。


 「わかった! 一緒に勉強しよう」


 なるべく声色を明るくし、胸中の葛藤を察されまいと振る舞う。


 「やった~!」


 しかし目の前で彼女が喜ぶ姿を見ると、そんな葛藤は些末なことに思えてきた。自分の中で何かが変わってきている、その変化に気づくのはまだ先のことであった。



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