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蛹の夢  作者: 金王丸
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縮まらない差

 「あと五分……」

時計は正午に迫っていた。今か、まだか、と気も漫ろで勉強に手がつかない。


 「もうそろそろじゃない?」

今日はたまたま隣で自習していた村野が小声で言う。


 「よし、じゃあ下に行ってみるか」


 期待半分、不安半分で午前中からそわそわしている。そっと立ち上がり、荷物をまとめると、怖いもの見たさの勇み足で教室を去った。


 そう、今日は先月受けた全国模試の返却日なのだ。


 「マーク模試、ミスったからなあ~。手ごたえはあったんだけどなあ……」


 神頼みの格好をして見せる村野を僕は鼻で笑った。解答用紙を提出した時点で点数は決まっており、今更そんなことしても徒労に終わるだけだ。そんな理詰めの正論をかざして、ポーカーフェイスを決め込んでみるも、内心は村野のそれに近い思いだった。

 

 そして事務室のある一階に降り、成績等一式の入った青封筒を受け取った頃には、不安に由来する妙な緊張に全身を支配されていた。


 「絶対ヤバいって……」

ラウンジの一角に空きを見つけた僕らはそこに座り、しばらく眼前の青封筒と対峙していた。


 「岩倉、お前から開けろよ。何だかんだ言って成績取れてるでしょ」

そこにいつものふざけた表情はなく、口調も強い。少し間を置いて、


 「しょうがないな~」


 僕は意を決した。そして恐る恐る封筒の中身を取り出す。


――B A A A――


 まず飛び込んできたのは四つのアルファベットだった。その途端にそれまで全身を支配していた緊張は姿を消し、和やかな安堵に包まれた。大外しはしなかった、ひとまずそれだけで十分だ。

続いて村野も開封する。


 「マジか……」


 成績表を見るや否や、彼は顔を引きつらせ、言葉にならない言葉を発した。何事かと思い、その紙を覗き見ると、国立大の医学部を書き並べた志望校欄に最低評価のEばかりが並んでいた。


 「まあ、気にすんなよ……」


 村野は見るからに落ち込んでいた。不安を口にはしていたが、期待するところもあったのだろう。それから各自、自分の成績を細部まで確認する。村野は採点の辛さを嘆いてばかりだった。


 「あっ……」


 自分の成績表を一通り確認した後、件の冊子を開いた時だった。上から八番目に平田の名前を、そして中段に河辺の名前を見つけた。


 「やっぱりあの二人は半端じゃないな~」

どこか諦念のこもった声で村野がつぶやく。


 「川口も載ってる」


 あの二人に比べたらそこまでの驚きはない。何だかんだ言って彼は継続的かつ着実に勉強している。もちろんこれだけの成績を残すにはある程度地頭も必要となるだろうが、その結果に見合う努力はしている。


 だがあの二人はどうだ。全く勉強する素振りを見せずに、常に僕の上を行く。こちらは必死に追っているのに涼しい顔でさらりと交わしていく。一方、当の本人たちはそれを気にも留めない。誇りもしない。ただ恨めしいほどの才能を結果で証明してくる。追いかけても、追いかけても、縮まらない彼らとの距離、遠のく彼らの背中に僕はひたすら無力感に打ちひしがれる。そしてこの程度の成績で安堵した先程の自分を心から恥じた。


 「そろそろ自習してくる」

そう言い残し、ラウンジを去った。やり場のない悔しさを目の前の課題にぶつける。



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