夏期講習
全国模試から一週間経った頃、ようやく梅雨明けを迎え、本格的な夏が訪れようとしていた。肝心の全国模試は、というと可もなく不可もなくという印象だった。実際に詳しく自己採点をしたわけではないが、模範解答を見ながら復習した時にそのような印象を受けた。周りの友人はというと、大なり小なり手ごたえを感じている様子だった。グロッキーな状態で試験を受けた河辺でさえ、なんとかなったと自信あり気の始末だ。
「夏期講習、どうすっかなぁ……」
今日は珍しくラウンジに長居している。おそらく前回の模試以来だ。
「鈴木先生の現代文の授業はすごいらしいよ。あと萩原先生の英語も」
村野は予備校講師の授業評に一家言ある男だ。それに留まらず、大学の偏差値や問題集、参考書に至る大学受験全般に詳しい。
「でも一コマ一万五千円は高いぞ。ある程度絞って選ばないと」
黒縁メガネの丸井は悩まし気に開講講座一覧を眺める。
「ん~、だけど一クールに一つはないと予備校に来ないかもしれないぜ」
村野は自分で作成した暫定の時間割を見ながら返答する。
「村野、お前は予備校の回し者かよ」
「お前の言うようにすると全六クールで九万円かかることになる」
「普通に自習してる方が効率良いだろ」
手に持っていた開講講座一覧を机に放り投げた平田が反論する。彼は十中八九、講座を取らない算段なのだろう。
「悩ましいなぁ……」
正直なところ夏期講習関連の出費は最小限に抑えたい。それは費用の面でこれ以上両親に面倒をかけることに後ろめたさを感じる一方で、平田の言うように自習で事足りるような気もするからだ。現状、消化しなければならないモノが山積している中で、さらに負担を増やすのは果たして得策なのだろうか、とても悩ましい。
「とりあえずラーメンでも食いに行こうぜ!」
これまで沈黙を守っていた川口の言葉は事実上の棚上げ宣言だった。まだ締め切りも遠いし、後々考えればいいか、こうして気持ちに踏ん切りをつけると予備校をあとにした。