始動戦
X-DAYは思ったより早く訪れた。
その日はいつもより早めに起き、少なめに食べ、遅くに出た。周りの友人から緊張感をあまり感じ取ることはできなかったが、自分は違った。
今回の模試の持つ意味は大きい。一つには受験者層が自分の属するところであること、もう一つには返却日が七月下旬、つまり夏期講習開始直後であることだ。前者は精密な志望校判定に不可欠な要素であり、後者は「受験の天王山」と呼ばれる七、八月の精神状態をより良いものとする点で重要だ。
時計は持ってきているか、シャープペンシルに芯は十分か、消しゴムは……。諸々の必需品があることを確認し、ほっと一息つくや否や、教室の前からシラフとも思えない血色の金髪頭がやって来た。そして彼は僕の一つ後ろにフラフラと腰掛けた。
「吐いたらごめん」
僕にそれだけを告げて突っ伏してしまった。
「えぇ……」
冗談じゃない、やめてくれ。思わぬ外患が顔を覗かせた。もし万が一、後ろでアクシデントが発生したら、試験どころではなくなってしまう。
「河辺、二日酔いかよ! 余裕だな……」
通路を挟んで右斜め後ろの平田が声をかける。
「今日模試だとは思わなかった……グエッ!」
吐くフリをしたのか、はたまた本当に吐きそうだったのか、定かではないが、具合は頗る悪そうだ。
「筆箱とか受験票とか持ってきてんのか?」
平田は半分呆れたように笑いながら聞く。
「ああ……ヤバい、忘れた。貸して……」
いくら頭の切れる河辺でも今回ばかりはダメかも、直感的にそう思った。そして今回はA判定を貰った上で、平田に勝つことを目標にしようと心に決めた。時間は試験五分前、試験問題が配布されようとしている。時は満ちた。波乱含みの「全国模試」がいま、始まる――。