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蛹の夢  作者: 金王丸
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手段と目的

 いつ晴れるかも分からぬ雨空の下、今日も予備校へ向かう。ここ数日降り続く雨に気持ちが沈む。今月下旬に控えた全国模試に向けて仕上げていっているものの、どうも調子が上がらない。それも季節のせいか、それとも――。


 予備校の手前にある交差点で立ち止まる。すると隣に金髪の……名前は……え~と、「イシハラさん」だ、彼を見つけた。一応知り合いのようなものだし、無視するのも悪いかと思って軽く会釈した。すると向こうから声をかけてきた。


 「岩倉だっけ? この前話した! 最近調子はどうよ?」


 外見とは裏腹に気さくな感じで好感を覚えた。予備校まで大した距離ではなかったが、一緒に話しながら歩いた。


 「授業とか出てないんですか?」


 なぜか敬語になる。薄々年上であることは分かっていたのだが。


 「ああ、去年も同じ感じだったから。でも本当に必要なものだけはたまに出てるぞ」


 大教室でおとなしく座って授業を聞く石原さんの図が浮かばない。そして去年も予備校にいたとなるとやはり年上だ。


 「授業料って言っても授業に出てないから勿体なく思われるけど、授業なんて結局は大学合格のための手段の一つだから、必要なければ切らないと」


 「必要に思えない授業をダラダラ受ける、それこそ時間が勿体ないぜ!」


 なるほどな、と目から鱗が落ちたような気分になった。発言者が誰で、彼の言葉に説得力があるか、そんなことは問題にならなかった。授業料でもう一年を買ったと考えること自体が自分にはない思考回路だった。


 五月以降、予備校の授業に休まず出席することが日々の目的になっているように思えた。それは当然と言えば当然なのだが、授業はあくまで大学合格の手段なのだと、それを選択する自由はこちらにあるのだと石原さんに教えられた気がした。


 そうなると必要のない科目を惰性的に受講するのは愚行にさえ思えてくる。その時間にしっかり自習すればいい話だ。決してただサボるわけじゃない。撤退ではなく、転進なのだ。そんな言葉遊びのような正当化の弁を自分に言い聞かせていると、教室に向かうはずの足が自然と自習室に向かった。


 全国模試まで二週間を切っていた時のことだった――。



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