勝利の報酬
これでもか、と言わんばかりのトッピングがなされたラーメンが出てきた時は日頃の苦労が少し報われたような気がした。川口も丸井も同感だろう。これらを奢らされる村野の心境やいかに、図らずとも理解できる。
「あと二点取れてたら……奢るのはお前だったのに……」
隣で麺を啜る丸井にこぼす。
「受験なんて数点差内の勝負なんだから。オレなんてあと三点あれば今頃は……」
川口の定番愚痴パターンだ。ただその口ぶりに暗さはない。よくある種類の自虐であるし、何といっても今回の模試、理系全体で二〇位だったことに大変気を良くしているからだ。
「まあ、村野もそこまで悪かったわけじゃないし。相手が悪かったな!」
つい調子に乗って口走る。
「数学がなあ……安定しなさすぎてヤバい。成績優秀な皆さんはどう勉強されているのですか?」
そのわざとらしいへりくだりは冗談半分、本気半分に聞き取れた。
「受験数学なんて問題集を片っ端から解き伏せればなんとかなるはず」
川口が口を開く。数学のできる人間の言いそうなことだ。村野はほお~と頷くと今度は僕に話を振ってきた。
「オレは文系だし、そこまで数学は得意じゃないけど……」
「これだ、と決めた問題集を繰り返し解いてるよ」
「間違えた問題はちゃんと問題分析をして、後日また解き直して……」
「その繰り返しで成績もついてくるんじゃない?」
さっきと同じようにへえ~と頷きながら彼もまた麺を啜る。一丁前にアドバイスはしたが、数学は苦手な部類だ。どうやったら出来るようになるか、僕も知りたいぐらいだ。
そもそも数学が出来るヤツで努力タイプを見たことがない。皆が皆、生まれながらに数学強者であるような面構えで歯がゆく思う一方、とても羨ましく思う。数学が出来たなら、という仮定法過去の願望は常につきまとう。
「岩ちゃん、ラーメン早く食べよう! 帰って数学勉強しなきゃならん!」
村野に急かされるように少し伸びたラーメンを平らげる。外に出ると、薄暮の空をツバメが低く飛んでいた。気持ちも高揚とは裏腹にイヤな季節を迎えようとしていた。




