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オンラインゲームが結ぶ二人の恋

作者: 豊


僕の名前は豊、どこにでもいる高校2年生。最近、学校内で携帯電話を持つことが許可され、みんなが競い合って最新機種を自慢している。僕の家はあまり裕福ではなく0円携帯と呼ばれる一昨年昔の携帯だった。


LINEやツイッターなどあるはずもなく、連絡方法はショートメールかワンギリだった。

ワンギリとは通話になるとお金がかかるので、1コールで切って相手に連絡した記録を残す一種のコミュニケーションだ。例え夜中であろうとワンギリを確認したらワンギリを返す。僕はこんな時間まで起きてたんだと自慢するのが流行だった。


着信メロディーなんかも個人で作成できる。そんな時代だった。そして、その中でもみんなが携帯電話を持つ理由になったのがアプリと言われるゲームだろう。

ゲーム機よりも小型で、しかもゲームが出来る。僕らにとってそれは最高のアイテムだった。


スマホ時代ではないガラケーと呼ばれる時代にもオンラインゲームが存在していた。

「マリオンバーサス」と言う対人オンラインゲームだ。最初にA国とB国のどちらに所属するか選択する。

自分が選んだ国を守るため、自分の分身である2Dキャラクターのステータスを上げて敵国に攻めるゲームである。


他のゲームと違う所は、自国の仲間も倒せるということ。もちろん、自国の仲間を倒すと犯罪者になり、犯罪者が解除される前に倒されると、刑務所に送られてしまう斬新なゲームだった。


僕はこのゲームにのめり込んでいた。そんな時に一人の少女と出会った。この出会いが僕の人生を大きく変えるなんて思いもしなかった。


僕はいつものようにステータスを上げるためにNPCを倒していた。すると僕の後をずっと付いて来る男性キャラクターに気付いた。このゲームは味方を倒したり、NPCの敵意をなすりつける嫌がらせ行為も多い。


「何か用?」僕は完全に警戒していた。


すると男性キャラクターは数分立ち止まって「初めてでやり方がわかりません教えてください」と言って来た。初心者はチャットになれていないために、時間がかかる。しかし、それを利用してわざとチャットを遅くして新規キャラクターを装い、金品を強奪する詐欺プレイヤーもいるため僕は慎重に言葉を選んでいた。


その時だった。NPCがリポップ(復活)して、新規と思われる男性キャラクターに襲い掛かったのだ。

僕はこの人が新規かどうか見極めるには持って来いだと思い観戦していた。

すると、「攻撃やめてください。本当にやめてください」とNPCに対して会話を始めたのだ。


僕は思わず吹き出した。この人は新規プレイヤーなんだと判断した。

観戦していた場所からすぐに移動して、NPCの背後に周り攻撃をする。NPCは一撃で倒れた。

「大丈夫だった?」僕は心配と同時に回復魔法をかけた。すると「なんで攻撃したのですか?話せば分かってくれたかも知れないのに」と怒り出したのを見て、僕はまた吹き出した。



一旦街に戻り、お互いの自己紹介をした。彼の名前はクリオ。

僕はクリオに、このゲームの概要や全てのキャラクターがオンラインプレイヤーではなく、NPCというキャラクターもいることを説明した。



ある程度の説明した後、初心者の集まるフィールドを案内してNPCの倒し方を教えた。

しばらく夢中になって教えていて、ふと携帯の時計を見ると23時だった。「ごめん。今日は寝ます」とチャットを打つと数分してから「また明日もここにきますか?」と返事が来た。

「もしクリオさえ良ければフレンドになろう。フレンドになれば、お互いがログインしてればすぐに同じ場所に行けるから」と説明した。

クリオは理解出来たかどうか分からないけど、お互いにフレンド登録をして僕はログアウトした。



~翌日~

学校を終えた僕は一目散に家に帰る。それと同時に携帯電話のゲームを起動する。

ログインした場所は昨日、ログアウトした場所だった。

目の前にはクリオが座っている。「やぁ!こんにちは!」僕は軽快にチャットを打つ。「待ってました」と昨日よりも断然に早いチャットで驚いた。「クリオチャット早くなったね」と僕が言うと「昨日豊がログアウトしてからずっとチャットの練習してました」とまたまた素早いチャットが返ってきた。



「え?昨日から?寝てないの?社会人?」

僕は一瞬、この人はネトゲ廃人なのかなと思い質問した。

ネトゲ廃人とはインターネットゲーム中毒者のことで、オンラインゲームに没頭するあまり、ゲーム中心の生活から抜け出せず、現実の社会生活に戻れなくなった人である。



「寝てないです。学生ですけど学校行ってません」の返答に僕は「学生?何歳?」と質問を続けた。

「14歳で中学2年の女です」と返ってきた。

僕はガッカリした。これは完全にネカマと呼ばれる人種だと思ったからだ。

一日中、家に居てリアルは女ですとか未成年を語ってプレイしているオッサンが沢山いることは知っている。僕は純粋にクリオという男性を友達として迎えたかったのに…と思った。



それと同時に怒りと、どうでもいい気持ちが込み上げてきて「オッサン働け!」とチャットした。

クリオは「?」と返答してまたすぐに「めいです」「本当の名前は佐倉めいです」と言ってきた。

これが僕とクリオの出会いである。




それから毎日のように僕はクリオと一緒に冒険をした。クリオのチャットは、どこか女の子らしい部分もあるが、男性のキャラクターから発せられる言葉からか、それらは脳内で男性に変換されていた。

僕にとってクリオの性別はどちらでも良かった。共に笑って協力し合える仲間が出来たことが嬉しかったから。


僕の気がかりと言えば、僕がログインすれば必ずクリオがログインしていること。



僕は深くは追求しないし、クリオも追及してこない僕に対して安心しているようだった。

とある渓谷で休憩中にクリオが唐突に僕に質問してきた。「なんで私が学校に行ってないか知りたい?」

僕は「うーん。知りたいと言えば知りたいけどクリオが嫌なら別に聞かないよ」と答えた。これが僕の本心でもあり、僕なりのネットマナーと考えていたからである。



その時だった。他エリアからワープしてきた敵国の5人組ギルドが僕達を襲う。

クリオにとって初めての敵国キャラである。「クリオ逃げて!」僕は攻撃よりも先にチャットをしてクリオを逃がすことを最優先した。その瞬間、敵のギルドマスターの刀が僕を切りつける。ダメージは体力ゲージの10分の1減少していた。

ギルドマスターでこれなら普通に戦えば勝てる相手だ。しかし今回は分が悪い。初心者のクリオを連れている。ここは自分が出来るだけ足止めをして、クリオを逃がすしか方法はない、と考えた矢先に「止めてください、戦う意思はありません」とチャットが流れた。


チャット送信者はクリオ


敵国のグループは一斉に攻撃を止めて座りだした。そして「初心者か?普通あんなチャットしないもんな(笑)なんか白けちゃったよ」と言い、続けて「あんた堅いな、てっきり一撃で倒せると思ったのに」と僕を褒めてくれた。


敵国のギルドと別れて僕はまた渓谷で冒険しようと提案する。しかしクリオは座ったまま動かない。

「あのね…。私が学校に行っていない理由はイジメなの…」いきなりの言葉に数分間の沈黙が流れた。



僕はなんて言えばいいのか分からず、文章を作成しては削除を繰り返していた。

「けどね、このゲームで初めて豊を見て、豊と知り合い、そしてこのゲームが現実よりも遥かに自由で…」

それを聞いて僕も本音を語った。

「僕は、リアルでは嫌な事があっても我慢しちゃうから、ストレスも溜まる。ただ、ゲームに関しては嫌な事があればハッキリと言える。このゲームのおかげで僕はリアルにも耐えられたのかもしれないよ」



それを聞いたクリオは「私も豊みたいになれるかな?」と少しだけ嬉しそうだった。

その言葉に「なれるさ!もし辛い事があったら僕が毎日話を聞いてあげるよ!」と約束をした。



それから数日はクリオの姿はなかった。きっと現実の生活がゲームより楽しくて、もしかしたらもう会えないのかもしれないなと感じていた。



僕は一人でまた冒険を始めた。けれど正直あまり楽しめなかった。昔は一人で敵国に負けないようにとの思いで夢中になっていたゲームがクリオと出会ってからは、他愛も無いことに一喜一憂して、それが逆に楽しくて…。

そんな事を考えて寂しさに浸っていると【クリオがログインしました】とメッセージが流れた。

僕はすぐさまクリオの元にワープした。「やぁ!久し振り!!」僕は嬉しい気持ちを抑えクリオにチャットをした。



「豊、私学校行ったけど無理だった、辛くて何日も部屋で泣いてた。もう学校行かない」

僕は一瞬血の気が引いた感じがした。それと同時にカーッと体が熱くなった。

僕は何も出来ない自分に葛藤を抱いた。僕の余計な親切がクリオを苦しめた、僕はなんて身勝手な偽善者だったのだろう。そう思うと自分が嫌いになった。



そして僕は決意した。「無責任かも知れないけど、学校に行かなくていい。その代わり、ゲームの中で勉強しよう。僕が教えるから」そう言うとクリオは数秒間動かなかったが、うなずく動作をした。



それから二人の不思議な生活が始まった。

まず最初に今まで稼いだお金を使いギルドハウスを購入した。

ギルドハウス内では不適切な発言も全て制約が無く、自由にチャットが出来るし、誰にも邪魔されない。このゲームのチャットは規制が強く、例えば「明日は天気みたいだしね!」も「しね」というキーワードで規制が入りチャットが流れないようになっていた。



そして、勉強時間を決めて夕方18時~23時までの5時間はギルドハウスでチャットを利用して勉強、23時~1時までの2時間は冒険という生活が始まった。

クリオの学力はそこまで酷くは無く、吸収も早かった。毎日家庭教師が5時間もいれば否が応でも学力は上がる。クリオ自身にも焦りはあったのだろう。僕が教える全てを理解しようと必死に学ぶ。昼間はおさらいをして分からなかったことは夜の勉強で聞くことを繰り返していた。

冒険も2時間しか出来なかったけど、なによりクリオと一緒に入られる時間がとても有意義に感じた。



だが、常に携帯と充電器とが繋がっている状態だったので、三ヶ月ごとにバッテリーを買い換えていたから財布の紐は痛かった。それでも、それ以上の物をクリオから貰っている気がしていた。



1年が経ち、僕は大学受験、クリオは高校受験をひかえる学年になっていた。

クリオは中学3年でありながら、既に高校2年の勉強をしている。通信の高校受験模試をした所、ほとんどが合格確実圏だったらしい。

僕は情けないけど、エスカレーター式の大学に行くしかなかった。他人に勉強を教えていて自分の勉強をする時間が無かったと言えば響きはいいけど…。



クリオは他県の高校に行くことに決めたと教えてくれた。中学校の同級生が誰もいない高校でやり直してみたいと。そして、将来の夢が見つかったからそれに挑戦したいと言った。

自分の娘がお嫁に行くときってこんな感じなのかなっと思った。成長してくれて嬉しいけれど、羽ばたいて行かれると寂しい。けれど羽ばたいて欲しい。そんな複雑な感情が僕の心を揺れ動かしていた。



クリオは無事に高校に合格してゲームとは少しずつ疎遠になって行った。友達が出来て毎日楽しいと僕に嬉しそうに話をしてくれた。僕も大学2年になると就職活動に精を出していた。

それから更に4年が経過した。



完全にクリオとは会わなくなり、僕は社会人になっていた。クリオとの思い出も少しずつ過去のものとなっていき、日々の生活に追い立てられて必死だった。



ある日、僕の携帯に一通のメールが届いた。タイトルは「マリオンバーサス運営から復活祭のお知らせ」だった。懐かしいと思いつつも、ゲームをやっている暇などあるわけでもなく、そのままにしていた。

翌日もまたメールが届く「マリオンバーサス運営から豊様へご案内」

メールタイトルに過去のキャラクター名を付けてまた登録させるつもりか…と感じ無視をした。



一週間が過ぎ、またメールが届く「マリオンバーサス運営からバカ豊!なんで無視するの!!」

一瞬目を疑った。しかし送り主はマリオンバーサスの会社からだ。僕はおもむろにURLをクリックした。



すると、そのページはマリオンバーサスではなく別のページだった。

「豊へ。勝手にアドレス調べてごめんなさい。けど私がこの会社に入ったからには自由に調べられます(規約違反だけどね汗)平成28年8月3日の21時に豊にお礼が言いたいので新宿駅に来てださい。」とだけ書かれていた。



その日付は今日だった。今何時だ!?時計を見ると20時50分。ここからだと20分はかかる…。

僕は迷うことなくタクシーに乗り急いだ。途中で渋滞に巻き込まれてしまい、途中下車して走った。



新宿駅に着くと、大勢の人がいて分からない。そもそも新宿駅のどこにいるんだ?色々な目印になる場所を探したが分からなかった。それもそのはずだ。僕もクリオも会ったこともないし、電話すらしたことが無い。時計を見ると既に日付が変わっていた。僕は改札の壁にもたれかかった。すると一人の女性がキョロキョロしながら携帯を握り締めて誰かを探しているのが目に入った。


まさか…。僕は女性に近付くと女性は「何か用?」と聞いてきた。

僕が「初めてでやり方がわかりません教えてください」と言うとその女性は目に涙をためて僕に抱き付いてきた。「佐倉めいです…」と今にも消えそうな声で言った。

今度は僕がめいを抱き締め「僕が豊です」と言った。



僕とめいは1年の交際期間を経て、今年の10月に結婚する。ゲーム内の冒険とは違い、ケンカをすることもある。それでも僕の人生にはめいが必要で、めいも僕を必要としてくれている。

オンラインゲームで出会った二人が、今度はオフラインで長い人生の冒険を共にする。

僕はこれからずっと君を守り続けます。


おしまい


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― 新着の感想 ―
[一言]  はじめまして   オンラインゲームというかネットを介して人との繋がりは友情にしろ恋愛にしろいいものだと思います、オンラインゲームを題材にした恋愛物は初めて読んだのですが、こういうのもいい…
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