第5話
本日2回目の投稿となります。
ここからトーカちゃんの冒険者ライフが始まります!
次の日。
あの後、寝て起きてお風呂に入ってご飯を食べて、寝て起きてご飯を食べて身だしなみを整えて武器と防具を装備した私は、冒険者ギルドの前に立っていた。
そう、今日から私、トーカ・モチヅキの冒険者ライフが幕を開けるのである!
緑色の悪魔?なんですかそれおいしいの?
昨日のことをすっかりしっかり心の片隅に追いやった挙句、ゴミ箱に叩き込んだ私は、気力も十分。やる気も全快。まずは銅級を目指して頑張りたいと思います!
意気揚々と冒険者ギルドの中に入り、依頼の貼ってある掲示板のところまで行った私は、鉄級と銅級の依頼をじっと見まわした。
相変わらず冒険者ギルドの中から私に向けられる視線。それを全く気に留めず、私は依頼の貼ってある掲示板を見ていた。
(んー……やっぱり最初はルピ草の採集とゴブリンの討伐かな……。ルピ草は根元の上から葉先までを十本で依頼完了、ゴブリンは十匹討伐で、討伐証明のために右耳をはいでくると。この依頼はギルド発注の常時依頼なので、剥がさないでください……か。これもテンプレといえばテンプレだし……よし、これにしよう)
私は、依頼をよく読むとそのまま受け付けカウンターのところまで行った。
そこには、私の冒険者登録をしてくれたウサ耳お姉さんのティアナさんはおらず、かわりに小柄な女性が立っていた。
「ルピ草集めとゴブリン討伐の依頼を受けたい。受け付けいい?」
私はそう言いながら、ギルドカードを差し出すとその女性はそれを受け取り、右横にある魔導具にカードを入れると、私に話しかけてきた。
「あなたがティアナの話していたトーカちゃんね。もうギルドの中で噂になっているわよ?」
「ん?噂?」
「そ。見たこともない武器を持って、見たこともない防具を身につけた獣人の少女がギルド登録をした……って」
「別に気にしない。噂は噂。実力がどうかはこれから示せばいい」
私がそういうと、小柄な女性はあははと笑いながら、私にカードを返した。
「これで、ルピ草の採集依頼とゴブリンの討伐依頼は受注されました。何かご質問などはございますか?」
「ゴブリンの生息場所とルピ草の生えている場所を教えてほしい。あと、ルピ草がどんなものなのか知らないから、特徴も教えてほしい」
「ゴブリンの生息場所もルピ草の生えている場所も街の東側にある森の浅い場所よ。ルピ草はギルドの2階にある図書室の図鑑を見ればわかるわ」
「ん。ありがと。行ってみる」
「じゃあ、依頼がんばってね!」
笑顔で小柄な女性が言うと、私も笑顔でそれに返し、二階にあるという図書室へと向かった。
図書室でルピ草の特徴を確認した私は、ギルドを出ると東通りをまっすぐ城門の方へと歩いて行った。
ちなみにルピ草の見た目はタンポポだった。春になると花を咲かせて綿毛のついた種を飛ばすとか、前世でよく見たタンポポそのものだった。そこまで読んだ私はなんだかいたたまれなくなりそっと図鑑を閉じた。
しばらく歩くと、城門には一昨日くぐった門と同じように両脇に武装した警備兵が立っていた。
「街の外に出たい。身分証明書はこれでいい?」
私は警備にあたっている老年の男性にそう声をかけると、ギルドカードを見せた。
「ああ、これで大丈夫だが、お嬢ちゃんだけで大丈夫かい?年齢は十三歳となっているけれど、本当なのかい?嘘じゃないだろうね?」
「年齢に関しては嘘は言ってない。私は故郷の掟で、ここから遠く離れた国から私だけでここまで来た。だから大丈夫。安心して」
私が言うと、老年の警備兵は顎髭をなでながらしばらく考え込むと、口を開いた。
「そこまで言うなら街の外に出るのを許可しよう。ただし、絶対に無理はするんじゃないよ?危ないと思ったら無理しないで逃げるんだ。いいね?」
「ん。無理しないようにがんばる。ありがと」
心配そうに言う老年の警備兵に私はそう答えると、門から街の外へ出た。
街の東側にはのどかな田園風景が広がっており、遠くには森が見えた。時間も時間なので、もうすでに畑の中で作業している人々がちらほらといた。しばらくそれを眺めながら歩くと、田園風景ははるか後方に見えるようになり、目の前に鬱蒼とした森が見えてきた。
(ここが今日の目的地。依頼完了にはルピ草十本とゴブリンの耳十個だけど、なるべく狩る)
私は今日の予定をざっくりと経てると、気持ちをIDソロ攻略の時と同じように切り替えて、森の中に分け入っていった。
しばらく森の中を探索すると、私の耳にギャアギャアと耳障りな声が聞こえてくる。
マップを表示させ、周囲を確認すると私の前方に赤い丸がいくつか固まっているのが見えた。
(赤い丸はMOB。鳴き声と生息場所から推測するとおそらくはゴブリン。いくら魔物図鑑で脅威度Eランクと書いてあったとしても、ステータスがどのようなものか知らない。まずは《鑑定眼》で確認してから……)
そう思った私は、慎重に足音を立てないように近づいていく。どうやら三匹いるゴブリンはまだ私の存在に気が付いていないようだった。私は、腰の忍び刀に手をやりつつ、目の前に見えた、棍棒や錆びた剣を持った緑色の小鬼…まさに日本人が想像するゴブリンそのままの、人型をした醜悪な魔物に意識を集中させた。
ゴブリン
レベル:2
HP:☆0(112/112)
MP:☆0(0/0)
弱点:炎
部位破壊:なし
(やっぱりゴブリンはゴブリン。雑魚い。これなら素手でもボコれるけど、なるべく損傷がないように一撃で狩る)
そう思うと、私はゴブリンの集団めがけて一気に駆け出した。
接近しつつ腰の忍び刀を抜刀しながらゴブリンの首を一撃で刈り落とすと、返す刀でもう一匹の首も刈る。どうやらここで最後の一匹が私に気が付いたようだったがもう遅い。ゴブリンが攻撃行動に移る前に私の忍刀がゴブリンの首を貫いていた。そのまま首を掻き切ると、ゴブリンがすべて絶命し地面に倒れ伏したのを確認したあとに、忍刀の血払いをして鞘に納め一息つく。
「雑魚は雑魚。私の敵じゃない。これならサーチアンドデストロイで狩れる。図鑑にも害獣って書いてあったし、数を減らしておくのも冒険者の務め」
そういうと、私は冒険者ギルドの二階で購入した剥ぎ取り用のナイフでゴブリンの右耳をそぎ落とすと、昨日服を買った時にもらった布袋に入れた。ゴブリン本体はそのまま刈り落とした首も含めてアイテムボックスの中に収納しておく。どうやら、魔物の死体は生き物と判断されないようである。これなら、どんなにたくさん狩っても無駄は出ないだろう。そう考えた私は、再びゴブリンを求めて森の中を探索し始めた。
それから二時間後。
あれから私はゴブリンの他、ホーンラビット(角の生えたウサギ)やココ(凶暴な、犬ほどもある大きさのニワトリ)、ワイルドボア(巨大な暴れイノシシ)を見つけると手当たり次第に狩って狩って狩りまくった。それは傍から見ると大虐殺といわれても仕方がないという程に。忍ぶのをやめて無双モードに入ってしまった私も悪いのだが。
途中からハイになって、某世紀末のモヒカン軍団のような雄叫びをあげながら、無双していたのは覚えている。
ふと冷静になって自分のしてきたことを思い返してみると、まさかここまで冷静に、もとい冷酷なほどに淡々と生き物の命を奪うことができるなんてと思い、そんな自分自身に私もドン引きしたがどうやらこれがこの世界の掟らしい。
生きるか、死ぬか。食うか、食われるか。転生した直後に覚悟を決めた通りではあったが、これがまぎれもない真実であることは明白だった。
平和で、それこそ人を殺すなんて、犯罪者でもない限り死ぬまでないのが当たり前の現代日本とは違って、この世界は中世レベルの弱肉強食の世界。人の生死が本当にすぐそばにある、それが当たり前の世界。そうでなかったら、きっと冒険者などという荒くれどもの集まりなどは存在しないはずなのだから…。
そんなことを思いながらクールダウンつつ、アイテムボックスの中の布袋を取り出して中を見ると、十分すぎるほどのゴブリンの右耳が入っていた。
「調子に乗って狩りすぎたかもしれない。まさかここまで溜まるとは思わなかった」
そう独り言を言うと、私はアイテムボックスの中に布袋を収納して、代わりに自分の顔ほどもある巨大おにぎりを取り出すと、それにかぶりついた。
巨大おにぎりを完食した私は、ドリンク代わりにHPポーションXを飲みほして瓶をアイテムボックスの中に入れると、今度は目の前に表示させたマップとにらめっこし始めた。
(あとはルピ草だけど、どこにあるかわからない。マップに表示されないのかな?)
そう思いながらマップをいじっていると、自分の周囲にオレンジ色の点があることに気が付いた。
「確か、ホラアクだとオレンジ色の点は採集・採掘・釣りポイント…ということは…」
周囲を見渡すとそこかしこにタンポポ、もといルピ草が黄色い花をつけて生えていた。白い綿毛になっているものもあり、まさにそれはタンポポだった。
簡単に目的の物が見つかったことに、私は感動すると、剥ぎ取りナイフでつぼみをつけているものだけを選んで丁寧にルピ草を採集していく。綿毛になっている物と花が咲いている物はそのままの状態にしておき、なるべく取りすぎないように気をつけながら採集を繰り返していった。
マップを確認しながらルピ草を採集しつつゴブリンをはじめとする魔物も狩りながら探索していると、私は太陽が傾きかけているのに気が付いた。ステータスを表示させて現在時刻を確認すると、午後三時半を回り、あと少しで午後四時になろうかとしていた。
今日の狩りを終えるのにちょうどいい時間になっていることを知った私は、ステータス画面を消し、かわりにマップを表示させてプラナス目指して駆けだした。
私が朝出ていった門に着いたのは、すっかり日も傾きかけて夕焼けが目にまぶしく映る時刻になってからだった。
「おお、お嬢ちゃん!無事に戻ってきたか!」
私の姿を見つけた老年の警備兵がそう声をかけてくると、私は手を大きく振った。
「ただいま」
老年の警備兵に駆け寄り、そう言いながらギルドカードを見せると、老年の警備兵は笑顔でくしゃりと私の頭を撫でた。
「お帰り、お嬢ちゃん。今日は疲れただろう。その顔は無事に依頼を遂行できたようだね。早くギルドで依頼完了の手続きをしてきなさい」
老年の警備兵がそう言うと、私はうなずいて、ギルドへ向かって走り始めた。
その後ろ姿を見る老年の警備兵の表情は、まるで自分の孫娘を見るような優しいものだった。
それを見た、若い警備兵は老年の警備兵に声をかけた。
「マクレガーさん、珍しいっすね。あんなに冒険者に優しくするなんて」
「ん?ああ。儂の孫娘を思い出してな。王国に住んでおってたまにしか会えんが、無事大きくなっていたら、あのくらいの年だろうと思ってなぁ」
「なるほど。それで優しくしてたんっすか。オーガの目にも涙っすね」
「ん?何か言ったか?」
「いいえ何も言っていないっすよー。それよりも、そろそろ門を閉める時間じゃないっすか?」
「まだ時間があるわ。もう少し頑張らんか」
「へーい……」
若い警備兵はそういうと、へろへろと再び門の脇に移動した。それを見たマクレガーと呼ばれた老年の警備兵は、ふうとため息をついた。
ギルドの建物につくと、私は扉を開けて中に入った。
相変わらず注がれる視線。もうすっかり慣れた雰囲気を装って、私は受け付けカウンターへと歩いて行った。この時間は朝とは違って、受注した依頼の完了報告をする冒険者が多く、初心者とは違った、明らかに経験者と思われる冒険者も多く見かけられた。
「ただいま。依頼完了したいのだけど、ここでいい?」
空いているカウンターを探して私が声をかけると、受付の小柄な女性はうなずきながら答えた。
「おかえりなさい、トーカちゃん。ええ、ここで大丈夫よ」
「ありがと」
私はアイテムボックスをアイテムバッグに装うため、ウエストポーチの中でアイテムボックスを開き、カウンターの上に、布袋に入った大量のゴブリンの耳と、大量のルピ草の山を置いた。それに引いた表情になる受付の女性。より強くなる私への視線。トラブルの種だったかなと思いつつ、私はギルドカードを提出しながら言った。
「ゴブリンの耳とルピ草。いくつあるか数えてないから、そちらで数えてほしい」
「え、ええ。わかったわ。いくつあるかこちらで数えるわね。あと、常時発注している依頼は、何回でも受注ができるから、それに応じてランクアップが可能かどうかも調べておくわね」
「助かる。あと、依頼で受けていない魔物も狩ってきたのだけど、買い取りはしているの?」
「もちろん、しているわよ。買い取りカウンターはあちらだから、こちらから話を通しておくわね」
「ありがと」
私はそう言うと、受付の女性に教えられた方へ歩いて行く。
背後で、『ちょっと多すぎるわよー!手の空いてる人は手伝ってー!!』という悲鳴が聞こえたが、私は知らないふりをした。
買い取りカウンターへ行くと、そこは喧々囂々としていた。多くの初心者と思われる冒険者や経験者と思われる冒険者。そしてギルドの買い取り担当職員との間で繰り広げられる舌戦。
それはそうだ。基本的に、冒険者としての収入は、依頼を完了した際に得られる報酬と素材を買い取ってもらった時の買い取り額だけなのだ。そこから壊れた武器や防具の修理代や買い替えにかかる費用、消費したアイテムの補充、固定の拠点がなければ宿代もかかるし、当然食費も出さなくてはいけない。冒険者側としては自分の生活が懸かっているのだから、必死になるのも当然である。
私は列の最後尾に並ぶと、自分の順番が来るのをぼーっと人間観察をしながら待っていた。
私は朝、図書室で目を通した魔物図鑑に書いてあった内容を頭の中で反芻する。素材や魔石は品質があり、新鮮であればあるほど、傷がついていなければ傷がついていないほど、形を保ったままであればあるほど品質が高くなり、それに比例して買い取りの額も上がっていく。例えば、炎魔法で焼け焦げた毛皮と全く傷のないきれいな毛皮、どちらの品質が高いといえば、当然傷のついていない毛皮の方が高品質になる。高品質の素材を得ようと思ったら、ただ単純に魔物を狩ればいいというものではなく、なるべく損傷を少なくして、狩ることが必要になってくるのだ。まあ当然といえば当然の話である。
そうこうしているうちに、私の順番がやってきた。
「買い取りをお願いしたい。大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。今日の買い取りは何でしょうか?」
「ん。ゴブリンとホーンラビット、ココ、あとワイルドボア。解体も何もしていないからここで出しても大丈夫?」
私がそう言うと、買い取り担当の女性職員は引きつったような表情で口を開いた。
「それでしたら、解体所の方へ直接持ち込んでいただけますか?解体所はあちらの階段で地下に降りていただき、左に行くと突きあたりがそうでございます」
「わかった。ありがと」
私はお礼を言うと、教えられたとおりに階段を下りて、地下1階に入ると解体所へのんびり歩いて行った。
解体所の扉を開けると、獣の生肉の匂いや血の匂いがぷんと鼻を突いた。
それに少し顔をしかめながら、私は忙しく動いている職員の一人を捕まえて話しかけた。
「上の買い取りカウンターで持ってきたものを言ったら、ここに直接持ち込んでほしいといわれた。どこに出せばいい?」
「ああ、君が……おーい!手の空いている奴来てくれー!」
その職員が声をあげてしばらくすると、一人の中年の男性がやってきた。
「お嬢ちゃんが、買い取りカウンターからいわれた子かい?」
「たぶんそう。こっちに直接持っていってほしいといわれた」
「そうか、じゃあついてきてくれ。おい!俺は今からこのお嬢ちゃんの方をやるから、お前らはまだ終わっていないのをやってくれ!!」
男性がそう声をかけると、忙しく動いている職員たちから声が上がる。
私にはそれが返事なのか悲鳴なのかはよくわからなかった。
中年の男性に連れてこられた場所は、今の今まで解体作業を行っており、慌てて片付けてスペースを空けたといわんばかりの場所であった。
「じゃあ、ここに出してもらえねえか?確か、ゴブリンとホーンラビッツとココ、ワイルドボアだったな」
「そう。じゃあ出す」
私はそう言うと、何もない空間にアイテムボックスの取り出し口である黒い穴が出現させた。そこからどんどん今日の狩りの成果を出していく。
どんどんゴブリンの死体が積み上げられていくと、それを見た男性の表情が唖然としたものになっていく。ゴブリンの死体の大きな山が完成すると、私は他の獲物を取り出し始めた。
しばらくすると、私の目の前にゴブリンの死体の大きな山とそれよりはずっとずっと小さいホーンラビットとココの山、巨大なワイルドボアが三頭並べられていた。
「お嬢ちゃんは、コンテナが使えるのか?しかも無詠唱で?しかもこれをお嬢ちゃんが一人で、しかも一日で狩ったっていうのか?信じられん……こりゃあ解体に時間がかかるぞ」
「ん。でもこれが現実。明後日の方は向かないで」
呆れた表情で言う男性に、私はドヤ顔で答えた。
「すまん、お嬢ちゃん。これを全部解体するには相当骨だぞ。一日待ってくれ。明日の夕方までには解体を終わらせておくから、その時に買い取りカウンターまで顔を出してくれねえか?しっかり査定もこっちでやっておくからよ」
「わかった。じゃあ私は受付に戻る」
「おう。こりゃあどえらい新人が来たもんだぜ。おいお前ら!今日は帰れないと覚悟しやがれ!!一気に終わらせるぞ!」
男性が気合を入れて解体所の職員たちに声をかけると、周りの職員から悲鳴が上がった。
「がんばれ」
私はそう呟くと、解体所を後にして再び一階の受付カウンターまで歩いて行った。
私が1階の受付カウンターまで戻ると、ゴブリンの耳とルピ草の集計は終わっていた。すっかり疲れたような表情の受付の女性職員たちに、心の中で合掌すると、私は空いているカウンターへ足を運んだ。
「終わった?」
私が声をかけると、疲れ果てた表情で先ほどの女性とは別の受付のお姉さんが力なくうなずいた。その奥では数人の女性職員たちがぐったりとしている。
少し深呼吸をして息を整えると、真剣な表情で受付のお姉さんは口を開いた。
「ゴブリンの耳は全部で三百個、ルピ草は十本を一束にして十束ございました。鉄級常時依頼のルピ草採集は十回、銅級常時依頼のゴブリン討伐は三十回依頼達成したことになりますので、トーカさんはランクアップ条件を満たしたことになります。銅級への昇格は依頼の十回達成、銀級への昇格は依頼を三十回達成することですので、鉄級から銀級へ昇格いたしました。おめでとうございます!当冒険者ギルド支部が設立されて以来、たった一日で二級昇格した冒険者の方はトーカ様が初めてでございますので、期待の新人が現れたとギルドマスターもお喜びになっておられました。こちら、冒険者ランクを銀級へ昇格させることをギルドマスターが承認したという書類になっております。こちらの方にサインをいただけますか?」
「ん。……これでいい?」
私は書類に目を通すと、サイン欄にペンで名前を記入した。冒険者登録をした際に姓も含めて名前を書いていたため、名前だけ書くのはトラブルの種になるかと思った私は、姓と名の両方とも記入した。
「はい。これでトーカ様は銀級に昇格となります。ゴブリン討伐の報酬は一回あたり八百フラウ、ルピ草の採集依頼の報酬は一回あたり五百フラウになりますので、ゴブリンの討伐依頼三十回達成で二万四千フラウ、ルピ草の採集依頼十回達成で五千フラウになります。合計報酬額は二万九千フラウとなります」
「ん」
「報酬はギルドお預かりかそれとも現金でのお支払い、どちらになさいますか?」
「ギルドお預かり?」
「はい。冒険者ギルドでは、冒険者ギルドに登録した方をサポートするため、現金のお預かりと引き出しをサービスとして行っております。高ランクの冒険者の方になりますと、一回あたりの報酬額も多くなりますので、こういったサービスを提供させていただいております。冒険者ギルドの行っている様々なサービスにつきましては、二階の図書室に、冒険者ギルド規則をまとめました本がございますので、お時間があるときに一度目を通していただければと思います」
「わかった。じゃあ、今回は現金でお願い」
「承知いたしました。ただいま新しい冒険者ギルドカードと報酬をご用意いたしますので、少々お待ちください」
そう言うと、受付のお姉さんは奥へ引っ込んだ。
少しすると、手に報酬が入っているのだろうやや大きめの革袋と、冒険者ギルドカードをもってお姉さんが戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちら報酬の二万九千フラウと、新しい冒険者ギルドカードになります。お確かめください」
そう言って、カウンターの上に袋と冒険者ギルドカードを置いた。私は、冒険者ギルドカードの級が銀になっていることを確認して、一昨日ティアナさんにもらったカードケースに入れた。次に、革袋の中でお金を数えて、確かに二万九千フラウあることを確認して、ウエストポーチの中に入れた。
「これで、依頼は完了となります。お待たせいたしまして申し訳ございませんでした」
「ん、いい。私も調子に乗りすぎた。今度からはもう少し加減する」
「いえ、私どももなにぶん初めての事でしたので、お時間をとらせて誠に申し訳ございませんでした。さらなるご活躍をギルドマスターはじめ、私ども職員一同ご期待申し上げます」
「ん、わかった。無理しないように頑張る」
今日の狩りも終わったことだし、早く宿に戻ってご飯を食べてゆっくりお風呂に入ろう。それで、明日はゆっくり過ごそう。そう思った私は、その場を後にしようとした。
「おい、そこのガキ」
ゆっくり休もうと思っていた私の行動を遮るかのように、私の前にいかにも柄の悪そうな三人組の男たちが立っていた。革鎧を身につけて長剣を持ったスキンヘッドの男と、その仲間であろう革鎧を身につけて短剣を二本腰に差した男と、魔術師なのだろうか、長い杖を持ってローブを着込んだ男が私をにらみつけていた。
「なに?そこをどいて」
目を細めて不機嫌そうに言うと、三人組のリーダー格なのだろうか、革鎧を着たスキンヘッドの明らかに柄の悪そうな男が、私の顔を覗き込むようにして口を開いた。
「お前みたいなガキが一日で銀級だとぉ?大方、誰かをたぶらかして協力してもらったんじゃねぇのかぁ?体はガキだがそういったのが好みの奴もいるだろうしよぉ。なぁ、獣人のお嬢ちゃん」
「私は朝から今の今まで森で獲物を狩ったりルピ草を採ってた。疑うのなら東門の兵隊さんに聞けばいい。それに、ランクアップはギルドマスターの承認ももらってる。あなたたちにいろいろ言われる筋合いはない」
「お前にがたがた言われる筋合いはねぇんだよ!獣人ごときが人間様に逆らうっていうのかぁっ!?この金級間近のアルトン様によぉ!!」
私がより一層目を細めて不機嫌そうに言うと、アルトンと名乗った男が怒鳴り散らした。
「アルトンさん!冒険者間での乱闘騒ぎはご法度ですよ!!忘れたんですか!?」
その騒ぎを目にした冒険者ギルド職員の一人が、この場を収めようと声を上げた。
「そんな事はどうでもいいんだよっ!冒険者ギルドは人間様より獣人の味方をしようっていうのかぁっ!!」
「冒険者ギルドは人間だろうとエルフだろうとドワーフだろうと獣人だろうと差別はしない。みな平等だ。冒険者ギルドが求めるのは優秀な冒険者、ただそれだけだよ」
アルトンが怒鳴ると、2階から降りてきたメガネをかけた若い優男がそう淡々と答えた。彼の後ろには、彼を呼びに行ったのか、怯えた表情の女性職員がいた。
「あなた誰?」
「ああ、君が期待の新人君だね。僕も報告書を読ませてもらったよ。1日であれだけの成果を上げることができる者に出会ったのは、久しぶりだ。ああ、申し遅れたね。僕はこの冒険者ギルドプラナス支部の支部長…ギルドマスターのアレク・ブルージュだ。よろしく頼むよ」
私にそう言うと、ギルドマスターはアルトンとその仲間たちを向いて厳しい表情で口を開いた。
「さてアルトン君、君達のしていることは明らかな冒険者ギルド規則違反だよ。このままでは君たちを冒険者ギルドから追放して、警備隊に通報しなくてはいけなくなる。正直な話、冒険者をつまらないことで失うわけにはいかないんだがね」
「ギルドマスター……てめぇもそのガキの味方をするっていうのか!!」
「僕は誰の味方でもないよ。規則に従ってただ己の職務を全うするだけさ。さて、君も冒険者ならばこういう時どうやって冒険者間の争いを収めるかわかっているよね?」
ギルドマスターがそういうと、アルトンはにやにやした嫌らしい表情で私をなめまわすように見ながら言った。
「ああ……もちろん知っているさ!決闘だ!!俺達が勝ったらそいつの全財産をもらい、そいつは俺たちの奴隷にしてもらうぜ!」
「ということだが、新人君、決闘に勝ったら君は彼らに何を望むかい?」
どこか嬉しそうな表情でギルドマスターが私に言うと、私は心の奥底から湧き上がってくるイライラを隠さずに不機嫌そうに答えた。
「こいつらの全財産と奴隷落ち」
「そうか!この決闘、私が見届け人を行おう。それでは早速地下の訓練場に行こうじゃないか。アルトン君たちも新人君も異論はないね?」
「俺達は構わねえぜ」
「私も」
「よし、それでは私についてきてくれたまえ。ああ、そうだ。ライラ君!」
「なんでしょうか?ギルドマスター」
「ルネティ聖教プラナス支部まで行って、回復魔法を使える神官を呼んできてくれたまえ。冒険者ギルドマスターの依頼だと伝えれば承諾してくれるはずだ」
「はい、すぐ行ってまいります!」
ギルドマスターは、そばにいた女性職員にそう伝えると、私たちの方を向いてにこりと笑った。
「さあ、これで準備は整った。では行こうじゃないか」
ギルドマスターに連れられて向かった、冒険者ギルドプラナス支部地下一階。そこにある広い訓練所の中に、私はいた。
「疲れているところ申し訳ないね、新人君」
空腹と疲労で殺気立つ私にギルドマスターが全くすまなさそうでない表情で言った。
「いい。早かれ遅かれ、トラブルに巻き込まれるのはわかっていたから。早くあいつらを潰して、ご飯とお風呂にする」
「潰されても困るんだがね。まあ、決闘では相手の命を奪っても罪には問われないから、本気を出すといいよ。たぶん、君は本気を出さないと思うけれどね」
「……」
ギルドマスターの言葉を無視して、私はアルトンと愉快な仲間たちに意識を集中した。
三人組のステータスは次の通りだった。この世界で金級間近と言われる冒険者の弱さに、私はため息をついた。
どれだけ相手と自分たちの力の差を測れないのか。少なくともシーフがいるのだから、危険回避能力はあるだろうにと思った。これがこの世界の冒険者のクォリティなのか。私は、自分がいかにチートな存在であるか改めて実感した。
アルトン
ファイター
レベル:40
HP:☆1(13025/13025)
MP:☆0(2671/2671)
ドルド
シーフ
レベル:39
HP:☆1(10345/10345)
MP:☆0(5013/5013)
キュリボ
マジシャン
レベル:41
HP:☆0(8346/8346)
MP:☆1(17823/17823)
「さて、準備は整ったようだね。では訓練所の中央に来てくれたまえ」
ギルドマスターの指示に従って、私は訓練所の中央に移動した。
目の前には陣形をとった三人組。盾と近接火力が前衛、遠距離火力が後衛という基本的な陣形だった。三人組はすでに武器を構えており、私は背中の手裏剣を下ろし、両手に持った。殺気を研ぎ澄ませ、精神を集中する。それを感じ取ったのか、ギルドマスターはにやりと笑みをこぼした。
「それでは、はじめ!」
ギルドマスターの声とともに、私は一気に駆け出す。前衛の男たちをスルーし、攻撃魔法の詠唱に入っていた魔術師の男に肉薄すると、その男の喉を手裏剣でかき斬った。そして、次の瞬間、今度は斥候の男に急接近すると、男のナイフを持った両手の腱を狙って斬りつけた。
痛みにくずおれる男達。それを見たアルトンは怒鳴り散らした。
「ドルド!キュリボ!!おい、なんだよ!なんなんだよお前!!あいつらに何をしやがった!!」
「私に攻撃しようとしていたからそれを止めただけ。でも、マジシャンはもう二度と声が出せないし、シーフはもう二度と剣は振れない。殺されないだけまし」
殺気を研ぎ澄ませ、集中しながら私が言うと、怒りに我を忘れたのかアルトンは私に向って接近し、剣を振り下ろしてきた。
「殺してやる……殺してやる!!喰らえっ!!ダブルスラッシュ!!」
「遅い」
私に向かって伸びる二重の剣戟を高くジャンプしてかわすと同時に、手裏剣を納刀しつつ忍刀を抜刀する。そして、アルトンの背後に回り込むと振り向きざまに両手両足の腱を斬りつけた。
「ぐああああああああああっ!!」
突然私が目の前から消えると同時に両手両足に走る強く鋭い痛み。それに耐えきれずにアルトンは振り抜いた剣を落としその場にうずくまった。
私は無様に転がるアルトンに近づくと、足で転がし上を向かせた。
「そして、あなたの両手両足の腱は私が完全に切断した。治しても、もう完全につながらないから、二度と剣は振れないし歩けない。これが、相手の強さをよく確かめないで喧嘩を売った代償。後悔してももう遅い」
そう言って氷のように冷たい表情で見下ろすと、私は足を振り上げてアルトンの股間を勢いよく踏み抜いた。
蛙の潰れたような汚い声をあげて気を失うアルトン。それに満足した私は、忍刀を振って刀身についたアルトンの血を払うと、鞘に納めた。
「これで私の勝ち。ギルドマスター、私はもう帰っていい?」
「あ、ああ。決闘には君が勝利した。僕が見届けたからね。それで……」
「マジシャンの男は喉を掻き切ったから、早く回復させないと命の危険かも。この後始末は任せた」
そう言い残すと、私は意気揚々とすっきりした表情でその場を後にした。これでご飯とお風呂にありつける。そう思うと自然と耳としっぽがぴこぴこゆらゆらと動く。
去っていく私の後ろ姿を見ながら、後始末を押し付けられたギルドマスターは頭を掻きながらため息を一つついた。




