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第2話

上半身を全く動かさずに下半身だけ動かすという、いわゆる忍者走りでしばらく走ると、大きな石積みの城壁が見えてきた。おそらくあの場所が白丸のあった位置だろう。目を凝らすと、道がその城壁まで伸びており、馬車や旅人だろうか、何人もの人が列を作っているのが見えた。

それを見た私は速度を落とし、のんびり歩いていくことに決めた。空を見上げると、太陽は中天に差し掛かってやや傾いたくらいの場所にあった。おそらくはお昼過ぎだろう。それを確認すると、おなかがかわいらしい音を立てた。


(おなかすいた。何か食べながら行こう)


アイテムボックスからツナサンドを取り出すと、私はそれを食べながらゆっくりと道を歩いて行った。ホラアクの中では、料理類の消費アイテムは三十分間有利なバフを付与するだけのアイテムであったが、私が異世界に転生した際に、普通の料理と変わらないものになっていた。

特に体が軽くなったとかそんなこともなく、ただ空腹を満たすための物といった普通の食事の扱いらしい。味は普通にツナサンドの味がした。ツナサンドを三個食べて周りを見渡すと、周囲の景色が草原からあたり一面の畑に代わっていた。おそらくは小麦だろうか、丈の高い細長く先のとがった葉の植物が整然と植えられた畑の中で、麦わら帽子をかぶった人たちが働いているのが見えた。

その情景にやや郷愁を感じた私は、手についたパンくずを払うと再びのんびりと城壁の方向へ歩きはじめた。


しばらくのんびり歩いていると、城壁の前に並ぶ列の最後尾に到着した。

列が前に進んでいくのに合わせて歩くと、木でできた巨大な門の両脇に武装した兵隊が1人づつおり、何かを確認しているのが見えた。


「お嬢ちゃん、このあたりでは見ない人だね?旅人さんかい?」


話しかけられて気が付くと、私の順番になっていた。人懐こそうな笑顔を浮かべて、年の頃20代半ばだろうか、門のところに立っていた兵隊が私に話しかけていた。


「ん。そんなところ」


私がそう返すと、兵隊は納得したようにうなずいた。


「街に入るには身分証明書が必要なんだけど、持っている?なかったら税金として1000フラウかかるけどかまわないかい?」

「これでいい?私の故郷で使っていたお金だけど使える?」


そう言って、私は忍び装束の懐からあらかじめ出しておいた銀貨を1枚手渡した。まあ、街の入場料がかかるのはこの手のもののテンプレだからね。

それを受け取った兵隊は表と裏を確認すると笑顔でうなずきながら言った。


「大丈夫だよ。これは世界共通だからね。その昔、女神様のお告げを受けた巫女姫様がそうするようにと話されてね。それ以来、お金は世界共通のものを使っているのさ。まあ、一応確認はさせてもらっているけどね」

「そう。ならよかった。私、身分証明書は持っていないけど、お金は毎回かかるの?」

「残念ながら、規則だからねぇ。お嬢ちゃんは見たところ冒険者みたいだけど、冒険者ギルドカードは持っていないのかい?それなら身分証明書として使えるよ」

「持ってない。私、遠い山奥の故郷から出てきたばかり。私の故郷では、跡継ぎじゃない子は十三歳になると里を出て一人で生きていかなくてはいけないの。それでここまで旅してきた」


私が道すがら考えたありがちテンプレ設定をいうと、兵隊は驚いたように目を見張りながら言った。


「お嬢ちゃん十三歳なのかい!?てっきり十歳くらいかと……」

「ひどい。私は幼児体型なのを気にしているのに」

私が頬を膨らませて言うと、兵隊は笑いながら答えた。


「ごめんごめん。そういうつもりで言ったわけじゃないさ。そうだ、それなら冒険者ギルドで冒険者登録するといいよ。この街は初心者の冒険者が集まる街でも有名だからね。その手の冒険者を相手にする店も多いし」

「うん、ありがと。冒険者ギルドってどこにあるの?」

「この街に入ってまっすぐ行くと、町の広場に出るからね。その近くにある大きな建物さ。冒険者ギルドプラナス支部って書いてある看板がかかっているから、すぐわかるはずだよ」

「わかった。行ってみる」

「うん、そうするといいよ。それでは、ようこそ!!城塞都市国家プラナスへ!!」

「ん」


笑顔で兵隊が言うと、私もにっこりと笑顔で答えて門をくぐり、プラナスと呼ばれた街の中に入った。


「可愛い娘だったなぁ。あ、名前聞くの忘れた」


城塞都市国家プラナス南門警備担当の警備兵であるジョニーはにへらと相貌を崩してそう呟いた。


「おい、ジョニー何してんだよ!まさかあのお嬢ちゃんに惚れたか?」


巨大な背負い袋を背負った恰幅のいい商人と思しきおじさんに声をかけられると、ジョニーは我に返って慌てて答えた。


「あ、すいませんモーガンさん!ぼーっとしてました!!」

「まあいいけどよ。俺も娘があんなに可愛い子だったらよかったなと思ったからな」

モーガンと呼ばれた商人が笑いながら言うと、ジョニーは苦笑しながら答えた。

「エリーはエリーで可愛いじゃないですか。性格はともかく」

「おい、性格はともかくって何だ!うちの娘をバカにするのか?…まあ、父親ながらあんな性格になったのは子育てに失敗したと思っているがな。まあ、気の強い方が店番には向いているさ」

「そういえばそうですね」

「だがよ、ジョニー。お前さんあの子と十は年が離れてるだろ。明らかにそれはまずいんじゃないのか?見た目からすると、お前も早ければあれくらいの子供がいてもおかしくはないんだからな」

「うっ……」


ジョニーが言葉に詰まると、モーガンは大声で笑いながら言った。


「まあ、お前をいじめるのはこのくらいにしてやるさ。俺は街の中に入らせてもらうぜ」

「あ、はい!モーガンさんお帰りなさい!!今度店に寄らせてもらいますね」

「おう!いいの仕入れてきたからな!今回も楽しみにしていろよ!」

「楽しみにしてます!」


ジョニーがそう言うと、モーガンは笑いながら街の中へ入っていった。


街の中に入ると、そこは古き良き中世ヨーロッパの街並みが広がっていた。

石を敷き詰めて舗装した道や、レンガを積んで作られた2階建ての建造物が立ち並ぶその風景から、私はヨーロッパの国々に旅行に来たかのような印象を受けた。

町民と思われる男性はシンプルなシャツと茶色や黒などの地味な色のズボン、女性はそれよりも幾分か華やかだが、飾り気の少ない、ちょうどドイツの民族衣装であるディアンドルに似た服装をしていた。先程の兵隊は城塞都市国家といっていたが、その規模に負けないほど、街の中は活気に満ち溢れていた。

ただ、地球と違うのは革鎧を身に着けて長剣を腰に佩いた剣士と思しき男性や、その仲間と思われる、身の丈ほどもある長い杖を持ち、ローブを身に着けた女性が歩いていたり、とがった長い耳の女性や、私のように犬の耳を頭に生やし、腰からは犬のしっぽが出ている男性が歩いていたりするところだった。

その風景は、否応なくこの場所がまぎれもない異世界であることを私に実感させた。そして、転生してから敏感になった嗅覚や聴覚、視覚がそれが現実であることを伝えてくることも。

私は街の中を見てまわりたい衝動に駆られたが、まずは用事を済ませてしまうことにした。


(観光はあと。まずは冒険者ギルドに行って用事を済ます)


私は門番の兵隊さんに教えられたとおりに、大通りを道なりにまっすぐ歩いて行った。

家や商店が立ち並ぶ通りをまっすぐ行くと、大きな噴水のある広場に出た。

あたりを見回すと、兵隊の話していた通り「冒険者ギルドプラナス支部」と書かれた看板が入り口にかかっている大きな建物が見えた。

私はその建物の前まで歩いていくと、ちょうど西部劇の酒場のような木でできた扉を手で押して中に入った。


中に入ると、そこは街の中以上ににぎわっていた。まさに冒険者といわんばかりのいでたちをした老若男女。カウンターで受付をしている女性と話している女性や、おそらくパーティーを組んでいるのだろうか、テーブルに集まって何かを話している3人組の男性。それ以外にも多くの人が集まっていた。

私が扉を開けて中に入ると、私に注がれる奇異の視線。私はそれに気づかないふりをして、カウンターの方に歩いて行った。

ちょうど空いている受付のウサギ耳のお姉さんの前に立つと、私は口を開いた。


「冒険者になりたいのだけど、登録受付はここで大丈夫?」

「え、ええ。ここで大丈夫よ、お嬢ちゃん。でも、ギルド規則で登録ができるのは十三歳からなのよ。お嬢ちゃんにはまだ早いかなぁ」


のんびりした口調でたしなめるようにウサギ耳のお姉さんが言うと、私はむっとした表情になって答えた。


「私、これでも十三歳。あなたみたいに胸の余分な脂肪がついていないからってバカにしないで」

イラッとした口調で目の前で揺れる柔らかそうな大きな二つの果実を指さして言うと、ウサギ耳の女性はあははと笑いながら言った。

「そうなの。じゃあ登録できるわね。ええと、この紙に名前と性別、年齢、あとは職業を書いてね。代筆は大丈夫かしら?」

「ん。文字は読み書きできるから大丈夫。おばば様に教えてもらった」


これもテンプレだろうと思い街に来るまでに考えた設定を口にした。本当は転生するときに神様からもらったスキル、異世界言語理解のおかげなんだけれどね。このスキルのおかげで話している声は日本語に聞こえるし、私が口にした言葉もこの世界の言葉として聞こえるようだ。文字は明らかに日本語、英語やほかの外国語で見たこともない文字だけれど、問題なく読める。もちろん書くこともできる。

私は、この世界の文字でスラスラと紙に書いていった。


「書けた。これでいい?」

「ええ。いいわよ。ええと、トーカ・モチヅキさん。貴族の方かしら?」

「私の故郷ではみんな名字があった。だから、貴族ってわけでもない。両親は里の自警団の団員だった」

「そうなの。だから、このあたりでは見かけない装備をしているのね。世界って広いわ」

「ん。そういうこと」

「年齢は十三歳。性別は女…と。お嬢ちゃんって言ってごめんなさいね。で、職業はニンジャマスター…聞いたことのない職業ね」

「私の故郷の戦士と思ってくれていい。ニンジャマスターはその中でも、ニンジャの修行をすべて終わらせて師匠に認められたものだけが名乗れる。剣士はサムライって言ってた。私の師匠は私のおじじ様だった。父上も母上も同じニンジャマスター。兄上が家を継ぐから、私は故郷に帰る必要がない」

「それならわかったわ。じゃあこれで登録をしちゃうわね」


そう言うと、お姉さんは自分の横に置いてある機械の中に入れた。次の瞬間、チーンと音がして手のひらサイズのカードが出てくる。それをとると、女性は銀色の針とカードをカウンターの上に置いた。


「この針で、あなたの血を一滴このカードに垂らしてね。それで登録は完了になるわ」

「ん」


銀色の針で指をさし、ぷくっと玉のようになって出てきた血をカードに垂らすと、カードが淡い光を放ち、カードに私の顔写真と氏名、年齢、性別、職業、ランクと賞罰が浮かび上がってきた。


「これで終わり?」


私が言うと、お姉さんは革ひものついたカードケースを渡してきた。


「ええ、そうよ。カードはこれに入れて身に着けておくといいわよ」

「ありがと」


私はカードケースを受け取ると、カードを中に入れて首にぶら下げた。カードは目立たないように忍び装束の懐にしっかりとしまうと、お姉さんの方を向いた。


「そうやって、いつも身に着けておくといいわよ~。大切なものだし、再発行には十万フラウかかるから~」

「そうなの?」

「そうよ。このギルドカードも発行に使う道具もアーティファクトだからね。各地の冒険者ギルドにあるとはいえ、高価だから~」

「ん。じゃあなくさないようにする」

「それがいいわよ。それでトーカちゃん、冒険者ギルドの詳しい説明は聞く?」

「お願い。私、里から出てきたばかりだから常識に疎いところがある。情報は多い方がいい」


私が言うと、お姉さんは優しい笑顔を浮かべた。


「あ、そうだ。私ティアナっていうの。よろしくね、トーカちゃん」

「ティアナさん、よろしく」

「うふふっ、じゃあ冒険者ギルド規則の説明をしちゃうわね。わからないことがあったらどんどん聞いてね。まずは、冒険者の級だけど、神鉄、聖銀、白金、金、銀、銅、鉄の七種類あるの。神鉄が一番高くて、鉄が冒険者になりたての人なのよ。トーカちゃんは今日登録したばかりだから、冒険者級は鉄ね。銀から金になるには試験があるから、気をつけてね」

「試験?どういうことをするの?」

「冒険者ギルドのアドバイザーをしてくれている白金級以上の冒険者の人と戦ってもらうわ。金級からは護衛などの依頼も多いから、対人戦の能力を見るの」

「なるほど。納得した」

「依頼は、自分の級と同じか一つ上か下のものを受けることができるわ。トーカちゃんは鉄か銅の依頼が受けられるわよ。だいたい街の中の依頼か街の周辺での採集依頼が多いわ。あとはゴブリンの討伐くらいね」

「ゴブリン?」

「緑色の角が生えた小さい魔物よ。この街の東には森があって、そこをねぐらとしているの。街道も近くにあるし、人を襲うから害獣駆除として常時依頼にしているの」

「ん」

「鉄級は十回依頼を達成できたら銅級に上がることができるわ。まとめて依頼を受注することもできるけど、依頼には期限があるから気をつけてね。期限を過ぎると失敗になってしまって違約金を払わなくてはいけないし、あまり続くと冒険者資格の剥奪もあるわ。依頼の情報はギルドカードで見れるから、確認しながら依頼をこなしてね」

「気をつける」

「あとは、冒険者ギルド内でのお騒ぎは厳禁よ。冒険者って血の気の人が多いから、トラブル防止のために規則で決めさせてもらっているの。正当防衛ならいいけど、冒険者ギルド内で乱闘を起こしたり、盗賊行為をしたら即冒険者資格を剥奪して警備隊に通報するわ。まあ、よくて犯罪奴隷か最悪死刑になるから気をつけてね。逃亡した場合は冒険者ギルドからの討伐依頼が出されるわ。常時依頼だからトラブルは起こさない方が身のためよ?まあ、トーカちゃんはそんなことしなさそうに見えるけど、一応ね」

「トラブルは嫌。私面倒なのは嫌い」


私がそう言うと、ティアナさんはうふふと笑った。


「さっきも話した通り、ギルドカードの再発行には十万フラウがかかるわ。あと、鉄級の人は一か月以内に依頼をこなして、銅級に上がらないと冒険者の資格がなくなるから気をつけてね。これは、身分証明書の代わりとしてだけ冒険者ギルドカードを使われないようにするための措置なの」

「わかった。がんばる」

「まあ、こんなところね。わからないところがあったらいつでも聞いてね。説明はこれくらいにして、ようこそ!冒険者ギルドプラナス支部へ!!」


ティアナさんがそう言って笑うと、私もそれに笑みを返した。


「ティアナさん、私この街に来たばかりでよくわからない。まずは拠点を探したい。お風呂があって初心者冒険者向けの宿はない?」


私が言うと、ティアナさんは困ったような表情を浮かべた。


「初心者向けの宿屋にはお風呂がないのよ~。トイレはあるけど、お風呂は貴族の方が使うような高級宿にしかないのよねぇ」

「むー。私の故郷ではみんなの家にお風呂があった。お風呂には入りたい」

「女の子ですものね、わかるわぁ。平民はみんなお風呂屋さんに行って、そこでお風呂に入るのよ」

「じゃあ、初心者冒険者向けの宿で、お風呂屋さんが近いところがいい」

「じゃあ、それならお勧めの場所があるわ。ここを出て、右に歩いてしばらく行くと、小鳥の宿木っていう宿屋があるわ。その五軒隣がお風呂屋さんよ」

「ありがと。じゃあ行ってみる」

「ティアナの紹介って言ってくれれば、少しは安くしてくれると思うわ」

「ん」


私はそううなずくと、冒険者ギルドを後にした。相変わらず私に注がれる奇異の視線は全く無視して。

最初からトラブルに巻き込まれるのは勘弁してほしい。だって私はマイペースで生きていきたいのだから。

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