第25話
冒険者ギルドに入ると、そこには話が終わったギルドマスターと、勇者の一群と思しき、華美な装飾が施された剣を背負い、鎧を身につけた黒髪の一人の少年と、その仲間の三人の女性たちがいた。
私は、ギルドマスターに近づいていく。いきなり現れた冒険者の獣人の少女に、彼らは怪訝そうな表情を浮かべていた。私はギルドマスターの前まで行くと、彼らを無視して話し始めた。
「ギルドマスター、少し話がある。とても大事なこと。今時間はいい?」
「あ、ああ。トーカ君、少し待っていていくれないか?では、勇者殿、先ほども話したが我がプラナス冒険者ギルドでは、今現在そのような情報は入っていない。その件については他を当たってほしい」
「神に選ばれしダイスケ様に、そんな言い方はないでしょう!それに、我がパーティーはルミナ教の教皇様より、直々に任務を賜っているのです!」
「お嬢さん、残念だが、ここはあなたのお国ではないのだよ。聖王国では通用するだろうが、ここは自由貿易都市国家プラナスだ。それをわきまえてくれたまえ。では、私から話は以上だ」
そうきっぱりと言い切って、ギルドマスターは私を促し、冒険者ギルド二階にある執務室へと歩いていった。
「ふう。ルミナ教の聖女様には参ったものだ。こっちの話を、一つも聞きもしないで、自分たちの要求ばかり突き付けてくるのだからね」
「お疲れさま。ギルドマスターも大変」
「そう言ってくれるとありがたいね。さて、トーカ君。私に話とは何かな?」
「ん。とても大切な話。たぶん、この街の存亡にかかわる話。だから、驚かないで聞いてほしい」
ギルドマスターに促されてやってきた執務室。しっかりと鍵をかけた部屋の中で、私は彼と相対していた。ギルドマスターがふと漏らした苦言に対して、私が彼のことをねぎらうと、彼は少しほっとしたような表情になった。
私は、彼が落ち着いたところで、話をきりだす。私が告げた言葉の内容に、ギルドマスターの表情が真剣なものになった。
私は、ステータスプレートを発行してもらった時にあった出来事を、彼に包み隠さず話す。もちろん、他言無用との注意もつけて。そのうえで、冒険者ギルドの図書室にあった、この街の歴史書を見て、大森林の調査に行ったこと、そこでオークキングに率いられた群れを発見し、それを殲滅したことを話した。すると、私の話す内容に、徐々に彼の表情が険しいものになっていく。
最後まで聞き終えた彼は、しばし考えこんでいるような仕草をしていた。
「まさか、状況がここまで深刻になっているとは……。森林警備隊の方からも、ゴブリンの数が増加の一途を辿っているとの報告が上がってきている。トーカ君、ゴブリンキングの姿は見なかったのかい?」
「ん。ゴブリンキングの姿はなかった。ゴブリンの数は増えていたけど。ギルドマスター、大森林深部の調査はしているの?他にも増殖しやすい魔物はいない?」
「繁殖力の高く、脅威度の高い魔物といえば……。そうだな、大森林深部にはオーガの生息が確認されている。だが、そこまで調査できる人員が、プラナスにはいないんだよ。深部の調査に行くには、最低でも白金級の冒険者数名からなるパーティーが必要になってくるからね。大森林中層とは、魔物の数も強さも、段違いに違うんだ。さすがに、この街には白金級の現役冒険者が少ないからね。まずは、この街にいる冒険者達でも対処可能な、大森林の浅い部分の調査と、できれば中層の調査をするべきだろうね」
「ん」
ギルドマスターの提案に、私もうなずいて同意の意思を示す。それを見た彼は、部屋の中にある、通信用の道具を使って何かを話していたが、しばらくして、私の方に戻ってきた。
「ギルドマスター権限で、大森林の周辺領域、および大森林内部の浅い地域への銅級以下の冒険者の進入禁止と、銀級以上の冒険者に緊急依頼として、魔物と大森林の調査を命じたよ。これで、何か異変があればわかるはずだ。トーカ君、ぶしつけな願いで申し訳ないが、プラナスの危機に直結している問題だ。どうか、我々に力を貸してほしい。我々には、一人でも多くの人の力が必要なんだ」
「ん。そういうことなら協力する。この街には、私の大切な人たちがいる。そんな人たちを、危険な目に遭わせるわけにいかない」
深々と頭を下げて、私に直接依頼をしてきた彼の言葉に、私はそう言って同意の意思を示した。この街には、ミリィやたくさんの大切な人たち――私に、よくしてくれた人たちがいる。そんな人たちが、危険な目に遭うのはどうしても避けたかったのだ。
「本当にすまない。私の方でも、関係各所と連携して、いつ大暴走が起きても対処できるように、連絡を密にしながら、この街の防衛計画を練ることにしよう。非戦闘員である、街の人たちの避難計画も立てておかなくてはならないね。これから忙しくなりそうだ」
「それはしかたない。私も、なるべく協力する。でも、明日すぐには行けない。準備、必要だから」
「それは、十分理解しているよ。できたら、協力してほしいというだけだからね。そうだ、オークキングも討伐してきたと言ったね」
「そう。オークの群れを全滅させてきた。証拠なら、ある。ここで出してもいい?」
「いや、オークキングだけでいい。見せてくれないか?」
「わかった」
私は、アイテムボックスから、にゅるりとオークキングの頭だけを出して、ギルドマスターに見せた。下をだらりと口から出して、白目をむいている、赤黒いオークキングの顔を見た彼は、それを見ながら唸った。
「オークキングですら……というよりも、オークキングに率いられた群れすら一人で殲滅してしまうとはね……。何とも言葉が出てこないよ。僕も、現役時代は広範囲破壊魔法で群れごと殲滅することがあったけど、トーカ君は魔法を使えないのだろう?」
「ん。私が使えるのは術だけ。たぶん原理は魔法と同じだろうけど、あんまり難しいのは使えない。私は、近接物理職だから」
「そうか……。いやはや、これはすごいものだね」
「もっとほめてもいいのよ?」
私が、小悪魔ちっくな表情を浮かべてそう言うと、それを見たギルドマスターは、ぷっと吹き出した。彼のその表情を見て、私はむぅっと頬を膨らませる。
「……」
「まあ、今回のことに対しては、冒険者ギルドから緊急指名依頼扱いにして、正当な報酬を出すことを約束しよう。オークキングに率いられたオークの群れだと、報酬額も相当なものになるから、用意するまでに少しの時間が欲しいのだが、いいかな?」
「それでいい。この街には三か月程度いる予定だから、その間に用意してくれれば問題ない」
「そう言ってもらえるとありがたいね。では、話はこの辺りで終わりにしよう。何かあったら、我々の方から、直接遣いをよこすから、それまではゆっくりしていてほしい」
「わかった」
そう言うと、私は話を打ち切って立ち上がると、部屋から出ていった。
冒険者ギルドの建物から出た私は、そのまま宿へと歩いていく。そんな私のことを、四人の男女が後をつけているのを察知した私は、歩きながら意識を集中させて、隠身の術を使い、自分の姿を消した。術による光学迷彩もどきは、追跡者の目をくらませるのには十分だったようで、私の姿を見失った四人の男女はおろおろし始める。それを確認した私は、悠々とその場を歩き去ったのだった。




