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第21話

しばらく大森林の中を飛び回り、駆け抜けながら進むと、目の前から血なまぐさい臭いが漂ってくるのを感じた私は、耳を澄ませながら、慎重に進むことにした。

耳には、身の毛もよだつような野太い、忌まわしさしかない咆哮が聞こえてくる。それを聞いた私の胸に、嫌な予感が去来した。

最悪の状況が起きていることを察知した私は、表情を引き締めて気合を入れなおす。相手に飲み込まれてはおしまいだ、そう思った私は、気をしっかりと強く持ち、相手を全部討ち滅ぼすことを決めた。オークの上位個体を一匹でも取り逃がしてしまえば、オークは再び群れを作り、それがオークキング発生の原因となるからである。

ただでさえ、オークキングに率いられた個体は凶暴性と能力が数十倍になるのだ。オークキングを討伐してしまえれば、その影響は数日で抜けるとはいえ、異種族の雌を犯し孕ませることのできるオークが相手である。予断を許さない状況であることには変わらないのだ。

駆ける速度を速くしながら、私はじっと目の前を見据える。一歩一歩駆けるごとに、血の臭いがきつく強くなっていく。その感覚に強い危機感を覚えながら、私は前へ前へと進んでいった。


(見えた!まさか、こんな……。これは思った以上にひどい状況……。でも、ここで食い止めなくてはいけない……!)


目の前に広がるなぎ倒された大木と、そこを進んでくる湯気が立ち上らせた、赤黒い生き物の大群。

オークキングに率いられた、オークの群れ。それらは私のことを見つけたのか、大きな雄たけびを上げた。その忌まわしい咆哮に負けずに、私は背中の手裏剣を両手に持ち、まっすぐに前を見据えた。


(一、二……たくさん……。この集団を一人で相手するには先手必勝!なぎ倒す!)


私が手にした手裏剣に意識を集中させると、刃の部分が鮮やかな桜色に輝き始める。

それを見た、オークの軍勢が一斉に私に向かって突進してくる。血走った眼をして、一斉にとびかかってくる豚頭の魔物の集団を見て、私は手裏剣を構えた。

私は、手裏剣を渾身の力で、オークの軍団に向かって投げつける。真紅に輝く光の円盤と化した手裏剣が、最前列のオークたちを次々に切り裂いていった。戻ってきたそれを手にした私は、再び襲いかかってくるオークの群れに突っ込んでいく。

その後、流れるような動きですれ違いざまにオークたちを斬り伏せるたびに、周囲に赤い血煙が舞う。圧倒的で、一方的な殺戮。

オークキングのスキルによって強化されたオークといえど、私の敵ではない。斬り捨てられたオークの肉体と臓物、血煙が舞い散る中、返り血を浴びながら私は無心で舞い続けた。

見るものがいたら、私の姿は魔物の返り血を浴びながら、魔物の群れを一方的に殲滅する死神のように見えただろう。

周囲の敵がいなくなったことを感じとった私は、手甲に仕込んでおいた、細く丈夫なオリハルコン製のワイヤーを手裏剣の中心にフックでしっかりと固定すると、それを大きく振り回しながら敵陣の中心へ飛び出した。

突然乱入した敵の姿を確認した、敵陣の中心を構成している金属製の軽鎧を身につけて、剣と盾を持ったオークファイターと、長い杖を持ったオークメイジ、大きな弓を持ち矢筒を背負ったオークアーチャーが私のことを取り囲む。

剣を振りかぶって私に突っ込んでくるオークファイターと、その背後で杖を大きく掲げながら魔法の詠唱を始めているオークメイジ。そして、弓を構えて矢を放つオークアーチャー。

オークメイジの作り出した炎の玉や氷の矢、巨大な岩石が、私のことをめがけて放たれる。それと同時に、矢が雨の様に降り注いだ。


「!」


隙間なく降り注ぐ攻撃に、私は防御を捨てて一気にオークの群れを殲滅することにした。思い切り腕を振りぬき、手裏剣を大きく振り回す。丈夫で長いワイヤーにつながれた手裏剣が、私の意のままに宙を舞い、オークファイターとオークメイジ、オークアーチャーを紙きれのように切り裂き、薙ぎ払っていった。

エンペラードラゴンの甲殻を芯にして、それを覆うように重ねて鍛造された、アダマンタイトとオリハルコンの合金で作られた刃が、いとも簡単に鉄の鎧を切り裂いていく。

その中心で、神に捧げる舞を踊るように軽やかに動く私。私の意のままに、手甲から延びたオリハルコン製のワイヤーが伸縮しながら、手裏剣を宙に踊らせる。

あっという間に、オークたちは数を減らしていき、あとに残ったのは、以前私が倒した個体と同じ、大型の黒い皮膚を持つオークジェネラルが二体と、それに守られるようにして悠然とたたずむオークキングだけだった。私は、オークキングに率いられた群れが漸減戦法を行ってくることに内心舌を巻く。だが、それは私が気を引き締めて戦わなくてはいけないことを示していた。


「ブォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


オークキングが、辺りに響き渡るくらいの大音量で、咆哮を上げる。

その声とともに、強化された二体のオークジェネラルが、同時に私のことをめがけて突進してきた。

私は、手にしていた手裏剣からワイヤーを外すと、両手に持ち直して、自分からオークジェネラルに向かっていく。血走った眼をして、私のことを屠ろうと攻撃を繰り出してくるオークジェネラル。私は、その攻撃を避けながら、間合いを測りつつ接近していった。


(……!)


私が間合いに入った次の瞬間、大きく剣を振りかぶり、私を一刀両断しようとするオークジェネラル。轟音を立てて、空気を切り裂いて迫るその攻撃を、私はバックステップでかわしながら、前方に思いきり手裏剣を投擲した。

手裏剣は寸分たがわずオークジェネラルを捕らえ、その胴体を振り下ろした武骨な鉄塊の様な大剣ごと両断する。私は、戻ってきた手裏剣を空中でキャッチすると、着地しながら目の前の敵に意識を集中させた。


オークキング

レベル:62

体力:☆10(103159/103159)

精神力:☆1(13654/13654)


鑑定眼を発動させて、目の前に佇む敵のステータスを確認した私は、オークキングの数値に、にやりと口の端に笑みを浮かべた。

なるほど、このステータスでは、生半可な冒険者では、逆に返り討ちにあってしまうだろう。圧倒的な数を武器にした殲滅戦を仕掛けてくるうえに、その集団の首魁は体力に特化した、典型的なパワーファイター型の魔物なのだから。それが、周囲の配下の魔物を強化し、自分自身も何らかのスキルを常時発動させているとなれば、冒険者たちも集団で対処しなくてはならないこともうなずける。

だが、それは私にとってはあてはまらない。この程度の敵ならば、ホラアクの低難易度ダンジョンのラスボスクラスの敵でしかない。私には、何度もソロ狩りでこのレベルの敵を蹂躙し、レアドロップアイテムを集めたことがある。そのためか、この身体ならば、勝てるという予感があった。

だが、油断は禁物である。この世界は、ゲームではないのだから。

私は、呼吸を整えて、体内の気を練り始める。気が練れたところで、それを体に纏うように展開した。その瞬間、私の体がふっと軽くなったような感覚を覚える。

何種類かある自己バフスキルのうちの一つ、柔気功を使い、物理攻撃に対する回避力と物理攻撃の命中率、移動速度に攻撃速度を同時に上昇させた私は、背中に手裏剣を背負い、武器を忍刀に持ち替える。そして、忍刀に意識を集中させた。


「神器、解放」


私のその声をきっかけにして、周囲に桜色の粒子が渦を巻いて舞い始める。その中で、私の身につけていた忍者服が姿を変え、純白の下地に舞い散る桜の花びらが染め抜かれた、袖なしの着物の上着と、純白の深く切れ込んだレオタードに変化した。それとともに、忍刀の柄と刃が長く伸び、身の丈ほどもある薙刀のような姿になったそれを構えると、私はオークキングに相対した。

ホラアクで実装されていた、最高レベルの装備品を最大まで改造した際に、自動的に習得するスキル――神器開放。それは、武器と防具の形を変化させて、武器と防具の能力を大幅に上昇させるとともに、アクティブスキルのクールタイムの減少と専用スキルの解放といったメリットがある。

しかし、スキルを発動できるのはたった三分。その後は三時間経過しないとスキルの再使用ができないという欠点を抱えている。そのため、基本的に神器開放は、最高難易度ダンジョンでのボス狩りや、高難易度ダンジョンでのボスソロ狩りなどで使われることが多かった。

ここぞというときに発動できる奥の手、それが神器開放なのである。

本気を出した私の目の端に、大きな赤い文字で、神器開放をしていられる時間が表示される。私はそれにちらりと目をやると、目の前のオークキングに立ち向かっていった。

私の明確な敵対意志を感じ取ったのか、オークキングが横薙ぎに棍棒を振り回してくる。私はそれを薙刀で弾く。弾いた次の瞬間、勢いよく迫る棍棒。それに対応しながら、私は攻撃のチャンスをうかがう。一撃一撃が重いオークキングの攻撃。女性の太ももほどもありそうなその腕から繰り出される攻撃は、薙刀を握る私の手に、確かな衝撃を伝えてくる。まるで、熟練の戦士を相手にしているようなその動きに、私も必死に食らいついていった。


(これなら……!)


私がわざと一瞬見せた隙をついて、そこに攻撃を繰り出すオークキング。私はそれを薙刀の柄で受け止めると同時に上空に大きく飛び上がった。

空中で姿勢を調整した私は、手甲に潜ませておいた苦無を、オークキングの顔をめがけて勢いよく投擲する。オークキングめがけて勢いよく飛んでいく苦無。それは、寸分たがわずにオークキングの顔に命中した。

オークキングは声にならない叫び声をあげて、顔に刺さった苦無を手で外そうとしている。それを絶好の好機と見た私は、薙刀を持っていない左手に意識を集中させた。


「はあっ!」


左手に私の魔力が集まり、薄桃色の光を放つ。それを思いきりオークキングに向けて力いっぱい振りぬくと、その光が線状に伸びて、オークキングのことを絡めとった。

オークキングのことを、がんじがらめに絡めとったそれを確認した私は、右手で持った薙刀を目の前の敵の心臓をめがけて投擲した。桜色に光り輝く粒子を纏いながら一点をめがけ、風を切り裂き飛翔していく薙刀。それがオークキングの心臓部を貫いた。それを見た私は、光のワイヤーに意識を集中し、それを操って急降下していく。


「はああああああっ!」


飛び蹴りの要領で薙刀の石突を蹴りぬいた私は、それと同時に光のワイヤーを解除して、地面に着地する。薙刀で心臓を一突きにされて、地面に縫い止められたオークキングは、びくんびくんと大きく痙攣していたが、やがてその痙攣も収まり、動かなくなった。

私は、それを確認すると薙刀を抜き取り、オークキングの生死を確認する。私が触れても、オークキングはピクリとも動かず、白目をむいて倒れていた。念のために、鑑定眼でその状態を確認した私は、オークキングが素材化されているのを見て、ほっと安堵のため息を吐いた。

血払いをするかのように、薙刀をぶんと振ると、私は呼吸を整える。

どうやら、この森を起源とする魔物の大暴走は食い止められたようだ。そのことに、私はほっと胸をなでおろしたのだった。

バトル回難しいですね…

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