第15話
女子力って何だろう…(遠い目)
私達が森を抜けて、村に着いたのはすっかり日も傾いて夕闇迫る時刻だった。
そのまま真っすぐ、駐屯所に向かうと中ではフェルと村長さん、警備兵が心配そうな表情で黙って座っていた。
「ただいま」
「ただいま戻ったでござるよ!」
「トーカさん!ヒサメさん!無事だったんですね!」
「ん」
「ちと、骨が折れたでござるが何とかこの通りでござるよ」
私達が声をかけると、フェルが駆け寄ってきて私達を抱きしめる。そんな彼女に微笑みながら声をかけると、村長さんと警備兵がほっとしたような表情を浮かべる。
「それで、盗賊団はどうなりましたか?」
「ん。頭目も討伐した。砦跡には頭目しかいなかったから、これで盗賊団は壊滅したと思う」
「で、ござる。頭目の女ウィザードは強かったでござるが、トーカ殿が持っていた獣化薬のおかげで倒すことができたでござるよ」
「そうでしたか。それは本当にご苦労様でした」
「で、頭目の遺体と証拠品はすべて押収してきた。どこに出せばいい?」
「それでしたら、こちらにお願いいたします」
一人の警備兵に案内されて、駐屯所の倉庫に行った私達は協力しながらアイテムボックスから出したアイジュムの遺体や証拠品、盗賊団の資金を並べていく。
それを見た警備兵が、驚いたような表情で口を開いた。
「この女、手配書にあった”闇色の魔女”じゃないですか!元白金級冒険者で、数年前に盗賊落ちして以来行方が知れなかった者です」
「そうなの?」
「うむ。確かに強かったでござる。元白金級冒険者ならば、あの強さも本物というわけでござるな」
「はい。冒険者ギルドより指名手配および討伐依頼が出ておりますので、こちらで討伐済みの手続きはしておきます。それで、こちらが証拠品ですか」
床に並べられた数々のガラス瓶と樽、全身を覆う白いつなぎ、二層構造の木箱を見て警備兵は唸った。
「ん。すべて採蜜のための道具と蜂蜜に蜂蜜酒。奴等は各地の採蜜可能な場所を独占して、そこで得られたものを現金化していたと思われる。だから、ここに目をつけた」
「なるほど。それならば合点がいきます。その収益がこの金貨の山ですか……」
「ん。蜂蜜は高級品だし、採れない場所では全く採れない。だからこそ、このような荒稼ぎができたのだと推測される」
「拙者、このような金貨の山は見たことがないでござるよ……」
「この革袋の量ですと、少なく見積もっても三億フラウはありますよ……。私も、このような金貨の山は見たことがありません」
「三億フラウでござると!?これだけあったら、拙者隠居して暮らすでござるなぁ」
「私も」
「一般庶民はみんな同じことを考えると思いますよ。それでは、こちらの証拠品などは調査した後警備隊からの報酬としてすべて、討伐された方々に分配されます。その際は冒険者ギルドよりご連絡がありますので、冒険者ギルドでお受取りください」
警備兵から発せられたその言葉を聞いたヒサメは、口から魂が抜けたような表情になって床に頽れた。
「ヒサメ!?しっかりして!!」
「あはは……。トーカ殿……、拙者一日で富豪の仲間入りをしてしまったでござるよぉ……」
「それは私も同じだからしっかりして」
「わかっている……わかっているでござるよ……。ただ実感が湧かないだけでござる……」
「私も同じ」
床に頽れたヒサメの背中を撫でながら、私は淡々と言った。
「お金の使い道はよく考えてからの方がいい。冒険者ギルドに預けておくのも一つの手段」
「そう……でござるな。拙者も装備を整えねばならぬし、よく考えて使うでござるよ」
「ん。それがいい」
私はそう言うと、ヒサメの事を支えて床から立たせた。
「それでは、後はこちらでやっておきますのでお二人は宿へお戻りください」
「ん」
「任せたでござる」
「それでは、ご協力ありがとうございました!」
警備兵が深くお辞儀をしながら言う声を背中に受けて、私たちは倉庫を後にして宿屋に向かった。
宿屋に入ると、そこでは女将さんが待っていた。
私達の事を見つけた宿屋の女将さんは、走り寄ってくると、私たちの事を抱きしめる。その傍らにはフェルが立っており、優しい笑顔を浮かべて私達を見ていた。
ひとしきり私たちの事を抱きしめると、女将さんは私達をテーブルに案内する。そこには、昨日の夕食以上の豪華な料理が並んでいた。
席に着いた私達は顔を見合わせると、料理に手を伸ばす。
しばらく料理に舌鼓を打っていると、村長さんと話を聞いた村の人達が手に手に料理やお酒を持って集まってきた。
そのままの流れで、宿屋の食堂で宴会が始まる。
私達とフェルは、満面の笑みを浮かべた村の人々に囲まれながら料理とお酒を口の中に運んでいった。
半ば村人総出の宴会と化した宴は、結局夜遅くまで続いたのであった。
次の日。
私達がプラナスに帰る日である。
しっかりと準備を整えた私たちは開拓村の南門に立っていた。
私達を見送るために開拓村の人々が集まってくる。しばらくすると、村長さんをはじめとする村人ほぼ全員が集まってきていた。
「トーカさん、ヒサメさん。このたびは本当にお世話になりました」
「別にお礼はいい。私が勝手にしたこと」
「お礼はいいでござるよ。困った人を助けるのがサムライの務めであるが故に」
「フェルさんも、いろいろ便宜を図っていただいて本当に助かりました」
「別にいいですよ。今後とも、是非によろしくしていただければ私は構いません」
深々と頭を下げて、村長さんが私達にお礼を言った。
それに、三者三様の言葉を返す私達。
「さて、そろそろ行きましょうか」
「ん」
「承知したでござるよ」
荷馬車の御者台に乗り、馬に鞭を入れるフェル。その荷台には、開拓村で仕入れた多くの品物が載っている。本人曰く、今回迷惑をかけてしまった分仕入れ値を少し安くしてもらったとのこと。それを聞いた私とヒサメは、顔を見合わせて苦笑した。
荷馬車が動き始めると、それを追うようにして私達も歩き出す。
私達の背後では、いつまでも村人たちの声が響いていた。
プラナスに続く街道をのんびりと歩く私達一行。
その表情は、どことなく穏やかな物であった。
「いろいろと濃密な三日間でござったな」
「ん。でもそのおかげで、北の街道もしばらく穏やかになる」
「そうですね。これでもっと北の開拓村やその先のドワーフの王国、ガイアファル山岳王国にも行きやすくなります。これもみんな、お二人のおかげですよ」
「フェル、もっと褒めてもいい」
「いやあ、そんなに褒められると拙者照れてしまうでござるよ」
「それはそうですけど、お二人はもっとご自分を大切にするように!冒険者とはいえ、女の子なんですからいろいろ気をつけないといけません!」
フェルが言うと、私達は耳をぺたんと倒して涙目になった。
「そう言われると言い返せない」
「そうでござるぅ……。すまなかったでござるよ、フェル殿」
「わかってるんでしょうね、本当に」
「そう言われると自信がない」
「拙者もでござる」
「特に、トーカさんは明後日新作発表会のモデルをするのでしょう?顔や体に傷がついたらどうするんですか?もっと、女の子としての自覚をですね……」
「忘れてた」
「はぁ……。いいですか?トーカさんは女の子としての自覚が足りなさすぎます!十三歳なんですから、きちんと女の子としての自覚は持たなくてはいけません!それにこんなに可愛いんですから、もっと顔と体を大切にした方がいいですよ」
「むぅ……。そう言われると、もっと自覚した方がいいのかな」
「ちゃんと自覚しないとだめです!ヒサメさん、貴女にも言えることなんですからね!」
「拙者はトーカ殿よりは自覚しているでござるよ」
「足りません」
「おおぅ……。フェル殿辛辣でござるよ」
私達はフェルのお小言を聞きながら街道を歩いていく。
結局、フェルのお小言は小一時間続いた。しかも、後日女子力講座ということで、フェルからの指名依頼という形で、私達は彼女に呼ばれる羽目になったのである。
何事もなく街道を歩き、日が傾く前にプラナスの北門についた私達。
北門で警備にあたっている兵隊に私とヒサメは冒険者ギルドカードを、フェルは商業ギルドカードを見せてプラナスの街に入った。
実に三日ぶりのプラナスの街である。私は、ようやくホームタウンに帰って来たという実感が出てきた。
「さて、これで護衛の依頼は完了です。三日間ご苦労様でした」
そう言いながら、私達から預かった依頼受領書にサインをして渡すフェル。
「ん。色々あったけど楽しかった」
「拙者もでござる。やはり同年代の女子と旅をするのは気楽でいいでござるな」
「そう言ってくれると、私もうれしいです。そうだ、トーカさんとヒサメさん。私とお友達になっていただけませんか?」
「もう友達じゃなかったの?」
「何を今更言うでござる?拙者達はもう友でござろう?」
私達がきょとんとしたような表情で言うと、フェルは満面の笑顔を浮かべて頷いた。
「はい!それでは、また何かありましたらよろしくお願いいたしますね!」
「ん。ばいばい、フェル」
「またでござるよ、フェル殿」
そう言うと、フェルは馬車を引きながら商業ギルドで管理している北門の待機所まで歩いて行った。
私達はそれを見送ると、他愛もないお喋りをしながら冒険者ギルドに向かっていった。
冒険者ギルドに入った私達を迎えたのは、腰に手を当てて怒ったような表情をしたティアナさんとミリィだった。
「ただいま、ティアナさん……とミリィ」
「ただいま戻ったでござるよ」
私達がその雰囲気に耳をぺたんと倒して、しっぽを股の間に入れながら恐る恐る言うと、ティアナさんとミリィが私たちの前にやってきて、私たちの顔を覗き込みながら口を開く。
「トーカちゃんとヒサメさん。お話は北の開拓村の伝令さんから聞いています。ジャイアント・ビーの討伐とアックジュー盗賊団の壊滅の件、大変よくやりましたと言いたいところですが、貴女達は無茶と無理をしすぎです!金級冒険者二人でそんなことをするなんて、無謀にもほどがあります!ギルドマスターは笑いながら『あのお嬢ちゃんなら平気な顔をしてやってしまうだろうね』なんて言っていましたけど、私達冒険者ギルドの女性職員一同は生きた心地がしなかったんですよ!しかも、獣化薬まで使ったなんて言うじゃないですか!」
「トーカ!私達のところにも冒険者ギルドの人が来てそんなことを言っていたから、私達も心配していたんだよ!?いろいろ聞きたいことはあるけど、私はもちろん、お父さんもお母さんも心配していたんだから!」
「ごめんなさい、ティアナさんとミリィ」
「すまないでござるよ、ティアナ殿」
「全く、こんなことはこれっきりにしてくださいね!」
「本当にそうよ!何かあったらどうするの!?」
ティアナさんとミリィに、私たちがお小言を言われていると、二階から笑いながら一人の眼鏡をかけた優男が下りてきた。
彼は、私たちのところまで来ると、口を開く。
「トーカ君とヒサメ君。ご苦労だったね」
「ギルドマスター」
「ギルドマスター殿」
「ティアナ君もミリィも、それくらいにしてあげたらどうだね?こうやって二人が無事に戻って来たんだ。少しくらいは許してあげても、罰は当たらないよ」
ギルドマスターがそう言うと、ティアナさんとミリィはギルドマスターに詰め寄って口を開いた。
「トーカちゃんもヒサメさんも、今では我が冒険者ギルドプラナス支部の華なんですよ!?何かあったらどうするんですか!」
「伯父さんはいつもそう!何かあってからじゃ大変なんだからね!」
「伯父さん?」
私が、ミリィの言った言葉に疑問を持って呟くと、ギルドマスターは苦笑しながら言った。
「ああ。ミリィは私の実妹、マルレーンの娘でね。私の姪なんだよ」
「はい?」
「私とマルレーンは元貴族でね。一応ギルドマスターという立場上私の姓は今でもあるが、マルレーンは冒険者になって家を飛び出したときに、実家から勘当されてね。今は平民のマルレーンだが、私とマルレーンの家族は今でも付き合いがあるんだよ」
ギルドマスターの口から飛び出した爆弾発言に、私とヒサメは茫然となった。
「トーカ殿、あの女子ギルドマスター殿の姪御なのでござるか?どう見ても宿屋の娘にしか見えないでござるが……」
「ミリィは小鳥の宿木の娘だから、宿屋の娘であってる。両親は元白金級冒険者だけど」
「なるほど。それにしても、トーカ殿をよく知っているようでござるな」
「ミリィは私の友達だから。年齢は私と同じ」
「ほほぅ。そうでござったか」
後ろを向いてこそこそと話す私たちに、ギルドマスターが苦笑して声をかけてきた。
「やれやれ。トーカ君もヒサメ君も、そろそろティアナ君とミリィをどうにかしてくれないかね?」
「伯父さん!まだ話は終わってない!」
「ギルドマスター!リオルイ服飾店からも、抗議と苦情が入っているんですよ!先に指名依頼をした私達をないがしろにして、何かあったらどうするのかって!」
「ああ、わかったわかった。ティアナ君、確かトーカ君とヒサメ君は獣化薬を使ったという話だったね?」
「はい。そのように北の開拓村のプラナス警備隊駐屯所からは報告が来ています」
「ならば、明日から三日間トーカ君とヒサメ君の討伐および護衛・採集依頼の受注権を停止する。彼女達には、プラナスの街の中で十分に休息をとってもらおうじゃないか。これはギルドマスター命令だから、二人共も従ってくれるね?」
ギルドマスターがそういうと、私達は顔を見合わせた後頷いた。
「そうか。それは良かった。聞き分けのいい子たちで助かるよ。さあ、ティアナ君とミリィ、これでいいね?」
ギルドマスターが苦笑しながら言うと、ティアナさんとミリィは渋々といったような表情を浮かべて引き下がった。
「さて、ティアナ君。君はトーカ君とヒサメ君の護衛依頼完了の手続きと報酬の支払い、警備隊からの盗賊団壊滅に対する報奨金の支払いをしてくれたまえ。ミリィは、早く家に帰るように。我が義弟殿とマルレーンが心配するからね」
「わかりました。ギルドマスター」
「うう……。そういうことなら、私は帰るね伯父さん。トーカ!いろいろと話したいことがあるんだから、早く帰ってきてよね!」
「ん」
ギルドマスターの言葉を受けて、受付カウンターの中に戻るティアナさんと、腰に手を当て、私にそう言い残して冒険者ギルドを後にするミリィ。
それを見て、私はミリィの機嫌をどうやってとろうか思案するのであった。
「やれやれ。トーカ君、ミリィの事をよろしく頼むよ」
「ん。頼まれた」
ギルドマスターは私にそう言うと、再び二階に戻っていった。
それを見送った私達は、受付カウンターのティアナさんのところに二人一緒に行く。
カウンターの上に、それぞれ冒険者ギルドカードとフェルからサインをもらった依頼受注書を開いて置くと、ティアナさんはそれを受け取って奥に引っ込んだ。
そのまましばらく待つと、両手に大きな革袋二個と、私達二人のギルドカードを持ったティアナさんが戻ってきた。
そして、カウンターの上に輝く白金色の冒険者ギルドカード二枚を置いてティアナさんは口を開いた。
「こちらが、今回の依頼報酬二万五千フラウと盗賊団壊滅による警備隊からの報奨金百万フラウ、合計百二万五千フラウになります。報酬の扱いはいかがなされますか?」
「「冒険者ギルド預かりでお願い(するでござる)」」
ティアナさんの言葉に、私達は声を揃えて言った。
金貨十枚に、銀貨二百五十枚。日本円に直すと千二十五万円という大金である。これは、冒険者ギルドに預かってもらっておいた方が得策だろう。そう考えた私は冒険者ギルドの資金預け払いサービスを利用することにしたのである。ヒサメも、あまりの大金を持ち歩きたくなかったのだろう。私と同じく、資金預け払いサービスを利用することにしたようだった。
「わかりました。では、少々お待ちください」
そう言いながら、ティアナさんは手元にある道具に冒険者ギルドカードを差し込んで、いくつか操作する。二枚の冒険者ギルドカードに同じような操作をすると、彼女はそれを、カウンターの上に置いた。
「では、こちらがお二人の新しい冒険者ギルドカードになります。トーカちゃんは白金級に昇格するための依頼達成回数を満たしてはおりませんでしたが、元白金級冒険者を討伐する腕と、元金級冒険者数名を被害なく一撃で仕留める腕、ジャイアント・ビーの駆除をたった二名で行ってしまうその知略などを鑑みまして、プラナス・聖王都イスミリア・王都メルクルスにあります、冒険者ギルドのギルドマスターによる協議をした結果、特例措置として白金級への昇格となりました。各地の冒険者ギルドにも、この話は伝わっております。ヒサメさんは、今回の依頼と盗賊団壊滅、ジャイアント・ビーの駆除で白金級への依頼達成回数を満たしましたので、白金級への昇格となりました。おめでとうございます!」
「ん」
「これで、拙者も白金級冒険者でござるか。だが、まだまだ修行半ばの身。油断と慢心はしないでござるよ」
「はい。是非とも、そうしてくださいね!本当に、今回は私達女性職員は心配したんですから!」
ティアナさんはそう言うと、私達に新しい冒険者ギルドカードを手渡した。
私達は、それぞれのカードを確認するとカードケースにしまう。
「ところでティアナ殿。女性職員の方々が拙者達の身を案じたというのは、如何な理由からでござるか?普通ならば、そのようなことはないでござろう?」
「ん。ティアナさん、どうして?」
私達が疑問に思っていたことを聞くと、ティアナさんは口を開いた。
「トーカちゃんもヒサメさんも、今では冒険者ギルドにその名が轟く存在なんですよ?自分たちのやったことの重大さがわかっていないんですか?」
「さっぱり」
「皆目見当もつかないでござる」
二者二様の答えを返す私達に、ティアナさんは大きなため息をついて話始めた。
「あのですね、たった二人で、指名手配と討伐依頼の出ている元白金級冒険者と、元金級冒険者数名からなる盗賊団を壊滅させて、そのうえ金級冒険者数名からなるパーティーが、その素材をあまり手にすることなく終わるジャイアント・ビーの駆除を、素材や蜜をすべて回収して終わらせたことがどんなにすごいことか解っていないんですか?これだけでも、二つ名に値する偉業なんですよ?」
「そうなの」
「ああ……。確かに、そうでござるなぁ。ジャイアント・ビーの駆除方法も、拙者も目から鱗でござった」
「それに、それを行ったのが見目も麗しいうら若き女性冒険者ということで、貴女達は今では冒険者ギルドの有名人なんですよ?トーカちゃんは”氷の戦姫”に加えて”闇夜の殲滅者””月光華”と言う二つ名がつきましたし、ヒサメさんも”氷雫の殲滅者””凍刃”という二つ名がついたんですから。今では冒険者ギルドプラナス支部に咲き誇る二輪の華ですよ。同じ女性である私達が心配するのも当然の事です!」
「ほほう……。拙者にもついに二つ名がついたでござるか。なかなか様になるではござらんか」
「私は増えた。ティアナさん、この二つ名って誰が決めてるの?」
「基本的には、それぞれの冒険者ギルドにいるギルドマスターですね。後は、他の冒険者が言い始めたものが定着したというのもありますが」
「私達の二つ名は?」
「今回は、プラナス・聖王都イスミリア・王都メルクルスにあります冒険者ギルドのギルドマスターの合議で決定されたと聞いています。ギルドマスターはほくほく顔でした」
その言葉を聞いて、あの腹黒優男の考えていることが何となくわかった私は、ふぅと一つため息をついた。
「そういうわけで、こんな無茶無謀はこれっきりにしてくださいね!油断と慢心は禁止です!」
「それはわかった」
「委細承知しているでござる。あの頭目、獣化薬がなければ倒すのに相当苦労したでござろうからな。それは自分自身がよく理解しているでござるよ」
「本当に、本当ですよ!特に、トーカちゃんは今までの数々の伝説があるんですからね!」
「それを言われると何も言い返せない。これからは少し自重する」
「是非とも、そうしてくださいね!」
頬を膨らませて言うティアナさんに、私は耳をぺたんと倒して答えた。
そのあとも、ティアナさんのお小言が小一時間続いた。
それに、耳をぺたんと倒してすまなそうな表情でただただ黙って聞いている私とヒサメ。
私達が解放されたのは、街が夕闇に覆われた頃であった。
冒険者ギルドを出た私達は、そこでそれぞれが宿泊している宿屋に戻るために別れたはずだったのだが……。
「なぜ付いてくるの?ヒサメ」
「ん?ああ、トーカ殿の定宿の場所を、確認しておきたいと思ったのでござるよ。別に他意はないでござる」
「そう」
私はそう言うと、しっぽを左右に振りながら歩くヒサメを放っておいて小鳥の宿木に急ぐ。
私の胸中では、ミリィの機嫌をどうとるかのシミュレーションと脳内会議が開かれていた。
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか小鳥の宿木の前まで来ていた。私は、そっと扉を開けて中を伺う。
どうやら、ミリィはいないようである。受け付けカウンターには、マリィさんが座っていた。
私は、ミリィ以上に手ごわそうな相手に深くため息を吐くと、意を決して中に入った。
「ただいま、マリィさん」
「トーカちゃん、無事に帰って来たんだね!話は兄様から聞いて、私達びっくりしてたんだよ!”闇色の魔女”といえば、私やあの人が冒険者をしていた時に、残酷で苛烈な性格で有名だったんだよ。その末路も聞いたけど、本当に無茶をする子だね」
「ごめんなさい」
素直に謝った私を、マリィさんが近づいてきてしっかりと抱きしめた。
「もう、あんなことはしちゃいけないよ。命あっての物種なんだからね?」
「ん」
「あの人も、ミリィもすごく心配してたんだ。特にミリィがね……。冒険者ギルドから話を聞いて、すぐに兄様のところに走って行ったくらいだからね。あの子にとって、トーカちゃんは友達なんだから……。とにかく、早く安心させてあげな」
「ん。ミリィはどこ?」
「ここにいるわよ」
私がマリィさんに聞くと、私の背後からミリィの声がした。
私が振り向くと、腰に手を当てて頬を膨らませたミリィが立っていた。
「おや、ミリィ。手伝いはもういいのかい?」
「お父さんが、こっちはいいからトーカを迎えてやってくれって」
「そうかい。じゃあ、私が手伝いに行こうかね。じゃあ、積もる話もあるだろうからゆっくりしな。ああ、先に部屋の鍵を渡しておくよ」
そう言うと、私に部屋の鍵を渡したマリィさんは厨房に歩いて行った。
あとに残された、私とミリィ。そしてヒサメ。
ミリィはカウンターの中から、封がしっかりとされた紙袋とフェルが見せてくれたカタログと広告と同じものを持ってきた。
そして、憮然とした表情のミリィに促されると、私達は私の部屋へ入っていったのであった。
私の部屋に入ると、ミリィはテーブルに紙袋と広告、カタログを置くと私達に向き直った。
「おかえり、トーカ」
「ただいま、ミリィ」
言い終えると、ミリィは私の事をしっかりと抱きしめた。そして、今まで溜まっていた欝憤を晴らすかのように私の胸を両手で叩きながら大声で叫び始めた。
「トーカのばかばかばかあっ!あんなに無理して無茶して、もし何かあったらどうするの!?トーカも女の子なんだよ?私は、いつもいつも年頃の女の子だっていう意識が、トーカにないと思ってたけど、こんなことまでして取り返しのつかないことになったら、どうするのよ!いい加減、年頃の女の子だっていう意識持ちなさいよ、ばかあっ!」
「ごめん、ミリィ」
「本当に、すまなかったと思ってる?」
「ん」
「本当の本当に?」
「ん。もちろん」
「じゃあ、私の妹になってくれる?」
「それは無理」
私がそう言うと、ミリィは舌をぺろりと出して私から離れた。
「残念。このタイミングだったらもちろんとか言ってくれると思ったのになぁ」
「甘い。蜂蜜くらい甘い。ということでお土産。ミリィ食べて」
私はアイテムボックスから、村長さんからもらった一リトのガラス瓶に入ったプリコの蜂蜜を取り出してミリィに渡した。それを受け取ったミリィが驚きの表情から満面の笑顔を浮かべる。
「これ、蜂蜜じゃない!こんな高級品貰っていいの?」
「ん。迷惑をかけたお詫び」
「そう?じゃあ、ありがたくいただくわね!あ、そうだ。トーカに冒険者ギルドから、この紙袋を預かっていたの。中身を確認してほしいって言ってたわよ」
「ん」
私が紙袋の封を切って中身を確認すると、そこには数枚の大判写真とミリィの持ってきた広告にカタログと同じものが入っていた。どうやら、明後日の商業ギルド主催新作発表会に関係するものであるらしかった。
「そうだ。トーカ、このお写真はどういうことかなぁ……」
「ん?」
「これ。この広告とカタログに載っている写真のこと。これって、どう見てもトーカだよね?」
「ん」
「あら?否定しないんだ」
「してもいずればれるからしない。現に、一昨日同じやり取りをしたばかり」
私がヒサメを指さしながらそう言うと、ミリィはようやく部屋にいるヒサメの事に気が付いたようであった。
「この人はどなた?」
「ようやく気付いてくれてよかったでござるよ。拙者、サムライのヒサメと申す。齢は十六でござる。トーカ殿とは護衛依頼でともに過ごした仲でござるよ。よろしくでござる、ミリィ殿」
「あ、はい。私、小鳥の宿木の娘のミリィです。よろしくお願いします」
「トーカ殿とは、護衛依頼の最中、本当にお世話になったでござる!いやあ、楽しかったでござるよ」
にこにことした表情を浮かべて、しっぽをぶんぶん左右に振りながら話すヒサメ。
そんな彼女を見て、ミリィは私に聞いてきた。
「どういう関係なの?」
「私の友達」
「そ。なら、私の友達も同然ね。よろしくね、ヒサメ!」
「こちらこそよろしくでござるよ!」
そう言ってお互いに握手をするミリィとヒサメ。それを見て、私は内心ほっと息をついたのであった。
「あ、そうだ。話の途中だったっけ。トーカ、これってどういうことなの?」
「リオルイ服飾店の指名依頼でこうなった」
「薄くお化粧をして戻って来た日に、これの撮影をしてたのね」
「ん。恥ずかしいから、できれば秘密にしておきたかった」
「もったいないでござる!実にもったいない!」
「そうよ!こんなに可愛いのに、なんでもっとお洒落しないのよ!お化粧しろとは言わないわ。ううん、トーカはお化粧しなくても可愛いの。でもね、髪形を変えたり可愛い服を着たりするだけでも随分変わってくるのよ?トーカの持っている服って、普通のディアンドルとシャツに短いズボンだけじゃない」
「うむ。トーカ殿ほどの逸材を拙者、見たことがないでござる。あの服を着たトーカ殿の写真をフェル殿から見せられた時、拙者の心から熱い何かが溢れそうになったでござるよ!」
「……」
そして、ミリィとヒサメは封が切られた紙袋の中身に目ざとく目をつけた。
「これも、きっとそうね!見せてもらうわよ」
「あっ、だめ!中、見ちゃだめ!あっ……」
ミリィから慌てて中身を死守しようとした私だが、私の背後にすっと回ったヒサメに手をとられて、あえなく紙袋の中身が、白日の下にさらされることになってしまったのである。
袋の中身、それは私がリオルイ服飾店で、ゴスロリドレスを着てリオさんの指示通りにポーズをとって撮影した、大判の写真であった。
広告とカタログにも使われている、椅子に座り、猫のぬいぐるみを抱いて優しい笑みを浮かべたものから、カーテシー、優雅にくるりと回ったポーズ、立って体の前で両手を揃えて組み、優しい笑みを浮かべたものなど、リオさんの指示通りに写真を撮ったそのすべてが、一式袋の中に入っていたのである。
それを見たミリィとヒサメがうっとりした表情になった。
「ああ……。可愛い、可愛すぎるわ、トーカ……」
「可憐でござるなぁ。いや、実に可憐でござる」
そう言いながら、ミリィとヒサメは大判の写真を同じ枚数だけ分けてその手に持った。
「あっ」
「うふふっ、これは私が大切に保管しておくわね」
「トーカ殿、この似姿は拙者が後生大事に持っておくでござるから安心めされい。何、悪いようにはしないでござる」
そう言って、私のゴスロリドレスの写真を確保したミリィとヒサメ。それを見た私は床に頽れた。
私の頭の中で、魔法の杖を持った豚さんが『もうどうにでもな~れ』と言いながら杖を振る絵が思い出された。私はただただ力なく笑うしかなかったのである。
「ああ、明後日の新作発表会が楽しみだわ!うちのも楽しみだけど、私はそれよりもトーカの方が楽しみなの!」
「明後日の新作発表会とやらは、拙者も参加できるのであろうか……」
「大丈夫よ、ヒサメ!見るだけなら、一般参加もできるわ。明後日の昼十から商業ギルドの商工館で始まるから、忘れずに来て」
「うむ。承知したでござるよ。トーカ殿の雄姿、この目でしかと見届けるでござる」
「そうだ!明日、トーカの服選びに行かない?ヒサメも一緒にどう?」
「拙者も、トーカ殿にリオルイ服飾店の店主殿を紹介してもらう約束をしていたのでござるよ」
「だったら、リオルイ服飾店で決まりね。あそこなら、トーカのサイズはしっかりと把握しているからね」
「ほほう、なるほど。ではそれで決まりでござるな、ミリィ殿」
光を失った瞳で床に頽れる私をよそに、きゃいきゃいと話すミリィとヒサメの間で私の明日の予定が勝手に埋まっていく。
その光景に、私はただただ力なく笑うしかなかったのであった。




