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第14話

窓から朝日が差し込み、外では小鳥の鳴き声が聞こえている。

私は、その光に身じろぎをするとゆっくり目を開けた。


「ふわぁ……っ……。よく寝た……」


私は体を起こすと、大きな欠伸をしてぐっと背伸びをした。

隣のベッドでは、ヒサメが寝言を言いながら熟睡している。だらしなく緩んだ口からは涎が垂れており、舌がぺろぺろと動いている。頭の二つの耳はぴくぴく動いており、どうやらおいしいご飯を食べている夢を見ているようだ。

それを見て、私はふぅとため息をついた。


「ヒサメみたいにお気楽極楽でいられればいいんだけど」


そう呟くと、私はヒサメの事が羨ましくなった。剣の道一筋ではあるものの、純真無垢で人懐こく食べ物に目がない年頃の少女。私はステータス画面を開いて時刻を確認すると、今の時刻は午前八時十二分であった。そろそろ朝食の時間である。部屋を見渡すと、すでにフェルは起きたようであった。


「ヒサメ、そろそろ起きて。もう朝」

「ん……。んー……?何でござるか……」

「起きて朝ごはん」


私はベッドから降りると、ヒサメの体を揺らす。すると、彼女は目をこすりながらむくりと起き上がった。

そして、大欠伸をしてぐぐっと体を伸ばすと頭を掻きながらふわっとした口調で口を開いた。


「おはようでござる、トーカ殿ぉ」

「うん、おはようヒサメ。ご飯行こう」

「そうでござるな。拙者、お腹が空いたでござるよ」

「私もお腹空いた。昨夜あれだけ食べたのに」

「拙者もでござるよ。まあ、よく食べてよく寝てよく動くのは、健康の秘訣でござるからな」

「ん。じゃあご飯を食べて今日も一生懸命動こう」

「でござるな」


そう言うと、私たちは顔を見合わせて笑う。そして、二人一緒に宿の食堂へと向かった。


私達が食堂に入ると、宿屋の女将さんが私たちに声をかけてきた。


「おはよう、お嬢ちゃんたち!よく眠れたかい?」

「女将殿、おはようでござる。よく眠れたでござるよ」

「ん」

「そうかい、それはよかったよ。さぁさ、椅子に座っておくれ。今朝食の用意をするからね」


女将さんはそう言うと、厨房へ入っていった。私とヒサメは椅子に座ると、同時に欠伸をした。


「トーカ殿、今日はどうするでござる?」

「ん……。まだ決めてない」

「実を言うと、拙者もでござるよ。今日はフェル殿の行商の日のためでござるし、拙者たちの仕事は行きと帰りの護衛でござるからなぁ……」

「ん」

「おお、お嬢ちゃんたち!武器と防具の手入れが終わったぞ!!」


頬杖を突きながら話していると、宿屋のドアが開いてこの村の職人さんたちが入ってきた。

数人の職人さんたちの手には、私たちの武器と防具が抱えられている。


「ありがと」

「おお、かたじけないでござる!」

「では、ここに置いておくからな。そうだ、この大型の武器と短剣の持ち主はどちらのお嬢ちゃんかね?」

「ん」


傍らのテーブルに、私たちの武器と防具を置きながら村の職人さんたちの中でも、最も年かさと思われる、長い髭を生やした老年の男性が私達に声をかけてきた。


「おお、お嬢ちゃんのか。いや、わしも初めてこのような業物を見たのでな。かなりの高級素材を使っているようなので驚いたのじゃよ。簡単な手入れですぐに輝きを取り戻しおったのも、この素材に込められた力のおかげじゃな」

「なんと!そのようなものでござったか。だが、あの斬れ味は武具だけの能力ではあるまい」

ヒサメがそう呟いたのを聞きながら、私は後を続けた。

「この武器も防具も、私が里から出た後自分で作った物。武器も防具も、素材はエンペラードラゴンとミラージュウルフ、エンシェントトレント、世界樹の花、アダマンタイト、オリハルコン、ムーンスピリットストーン、ムーンシルクを使っている。素材をすべて集めるのに苦労した」

「なんと……!そのすべてが伝説に残るような素材じゃよ……。それを自分で全て集めて、自分で加工したと言うのか?」

「ん」


ふと顔を上げてヒサメを見ると、私と老年の職人さんの会話を聞いていた彼女は絶句していた。


「何とも、この年になって、このような武器と防具に触る機会があって、それを作った神の手を持つ職人と会えるとは思わなんだが……。それがこんなお嬢ちゃんだとはのぉ……」

「武器や防具、道具の構想ならいっぱいある。必要だったら声をかけてほしい」

「うむ。それじゃあ、その時はお願いするよ。お嬢ちゃん」

「ん」


そう言うと、職人さんたちは宿屋を出ていった。それを見送った私は、ヒサメを見る。

彼女は、しばらくすると再起動したのか私にぐっと顔を近づけてきた。


「トーカ殿!!あの話は誠でござるか!?」

「ん」

「トーカ殿の話した素材を集めるだけでも、神鉄級の冒険者でないと無理でござるよ!しかも、それを全て集めて加工したというのはとんでもないことでござる!!」

「そう?私の里の仲間はみんなしていた」

「あぁ……。拙者、トーカ殿やトーカ殿の里の者と敵対しなくて本当に良かったでござるよぉ……。拙者、自らの修行不足を痛感しているでござる……」

そう言うと、テーブルにべったりと突っ伏すヒサメ。私は、そんな彼女の頭をぽんぽんと撫でた。

「これから修行すればいい。ヒサメはきっと強くなれる」

「そうでござるかぁ……」

「ん。自信もって」


私が言うと、ヒサメはがばっと頭を上げた。


「うむ!そうでござるな!帰ったら、頑張って依頼をこなすでござる!」

「その意気。がんばれ、ヒサメ」

「そうと決まったら、まずは朝食でござる!今日は拙者、何もなければこの村の中で修業に励むでござるよ」

「私にも手伝えることがあったら言って」

「その時はお願いするでござるよ!」


立ち上がってやる気を漲らせるヒサメに、私は若いっていいなと思いつつそう言った。


朝食を食べた私たち二人は、一度部屋に戻り身だしなみを整えて武器と防具を身に着けると、宿屋の食堂に戻ってきた。

宿屋の食堂では、戻ってきたフェルが村長さんや駐屯所の警備兵と話していた。


「フェル、おはよう」

「おはようでござるよ、フェル殿」

「あ、おはようございます。トーカさん、ヒサメさん。昨夜はよくお休みになられたようですね」

「ん」

「おかげでぐっすりでござるよ」

「フェル、今何を話してたの?」

「トーカさん、ヒサメさん。実は……」

フェルがそう言いかけると、村長さんと警備兵が深く頭を下げて口を開いた。

「トーカさん、ヒサメさん!お願いがあるのですが……」

「何?」

「うむ。拙者たちでよければ話を聞くでござるよ」

「実は、昨夜ジャイアント・ビーの駆除をしていただいたので、今日花園での採蜜とプリコの樹の洞の掃除を、村人総出で行おうとしていたのですが、警護の人手が足りなくてどうしようかと話していたんです。そこで、冒険者様方のお手をお借りしたいなと思いまして……」

「我々が駆除できなかったジャイアント・ビーを、いとも簡単に駆除してしまうほどの腕を持つ冒険者様方のお手を貸していただけるのならば、非常にありがたいのですが」


村長さんと、駐屯所の警備兵が言うと、その話を聞いた私たちは顔を見合わせると頷いて答えた。


「フェルがいいと言うならば、私達も協力する」

「で、ござるよ」


私達が言うと、村長さんと警備兵はフェルの顔をじっと見る。その表情は、藁をも縋るようなものであった。その表情に、フェルは困ったような表情で口を開いた。


「昨夜のジャイアント・ビー駆除の報酬も、トーカさんとヒサメさんに村長さんたちは支払っておりませんしねぇ。今回の依頼には、きちんと報酬を支払っていただく分には私は構いませんが。相場は金級の依頼で、確か一日あたり六千フラウだったはずです。危険手当なども含めて、金額は前後しますけれど」

「報酬ですか……。わが村は、この通り開拓村ですので……」

「別に、報酬は現金でなくても構わないんですよ。換金した際に、その金額になればいいんです。この村には特産品があるじゃありませんか。しかも、相場で一本当たり一万フラウはする高級品が」


フェルが指を立てて笑いながらそういうと、村長さんははっとしたような表情をした。

それを見たフェルは、にっこりと笑う。

このあたりは、フェルはさすが行商人だなと、私は二人のやり取りを見ていてそう思った。


「トーカさん、ヒサメさん。昨夜のジャイアント・ビー駆除と合わせて、わが村の蜂蜜二本で引き受けていただくことはできませんでしょうか。これならば、プラナスで換金しても二万フラウになります。どうか、お願いします!」

「どうするでござる?トーカ殿。拙者としては異論はないでござるが」

「その相場なら、問題ない。昨夜の御馳走もあるし、これ以上我儘は言えない」

「で、ござるな。村長殿、我々二人でよければ助太刀するでござるよ」

「ん」


私達が村長さんの申し出を引き受けると、村長さんと警備兵は満面の笑みを浮かべて、私たちの手をとるとぎゅっと握った。


「そうですか!よろしくお願いします!!」

「ん」

「了解したでござる」

「それでは、早速花園にお願いいたします。もう、村人たちやほかの警備兵たちは作業を開始しておりますので」


村長さんの言葉に、私たちは頷いて花園へ向かった。


花園に着くと、そこでは村人たちが総出でジャイアント・ビーの巣となっていた大木――プリコの樹の掃除や、花園に点在している蜜蜂の巣箱から蜜の溜まった巣板を切り出す作業をしていた。

その周囲では、駐屯所の警備兵が数名警備にあたっている。

それを見て、私はぼそっと呟いた。


「この村の警備体制には人員的な不備がある。自警団を作ればいいのに」

「そうでござるなぁ。この村には蜂蜜という高級特産品があるのでござる。それを狙って不埒な者どもが現れんとも限らんでござる。道場を建てて、そこで修練した村人と駐屯所の警備兵が一丸となって護った方が、後々いいでござるよ」

「ん。私の里も山奥だったから、基本的に里の警護は自警団が担っていた。私の父様と母様も自警団員だったから、よくわかる」

「メルキュール王国の外縁部にある村々でも、そうであったでござるな。必ず一つは道場や修練所があって、そこで村人たちが修練に励んでいたでござる。拙者も、師匠について行ったことがあるでござるよ」

「あとで、村長さんに話してみる」

「それがいいでござるな。拙者も一緒に話すでござるよ」


私達は、花園を見回りながらそう話していた。

花園には色とりどりの花が咲き乱れており、点在しているプリコの樹にも薄桃色の花がついている。どうやら、蜜蜂たちはその花の蜜を集めているようであった。

青く澄み渡った空には雲一つなく、のどかな風景が広がっている。その中を、村人たちはそれぞれの仕事をするために動き回っていた。


「のどかでござるなぁ……」


そう言いながら、ヒサメは欠伸をした。


「ん。今日は何もないといい」

「そうでござるな。さすがに昨日は濃密すぎたでござる」

「ん」


私達は、そう話しながら花園の巡回をしていた。

その時、ヒサメが急に立ち止まった。


「ヒサメ、どうしたの?」

「森の方から、何かが近づいてくる音がするでござるよ。トーカ殿、警戒するでござる」


真剣な表情で言いながら、ヒサメは立ち止まって耳を動かし周囲の音を探る。

私はマップを開いて敵性行動をとる生物の有無を確認しながら、周囲の気配を探っていた。

すると、マップに赤い光点が三つ表示されるのと同時に、私の首筋にちりちりとした嫌な感覚が走る。


「敵!みんな逃げて!」

「来るでござる!警備兵殿たちは、村人殿達の避難をお願いするでござるよ!」


私とヒサメが同時に叫んだ次の瞬間、私の目の前に漆黒のつなぎ服を着た男が急に出現し、私の首筋を手にした短刀で斬りつけてきた。


「!」


私は、それを後ろに飛びのき、紙一重でかわすと、忍刀を抜刀して周囲の気配を探りながら、敵の攻撃に備えた。


「トーカ殿!」

「私は大丈夫!ヒサメ、十分注意!後二体来る!」


私がそう叫ぶと、私たちの目前の森から、全身鎧に身を包んで巨大なポールアックスを持った痩身の男と、ローブを着た男が歩いてきた。

そこに、私に攻撃を仕掛けてきた男が合流すると痩身の男が大声で怒鳴った。


「我らはアックジュー盗賊団だ!この花畑は我らが占拠する!」

「アックジュー盗賊団……こやつら、昨日拙者達を襲った奴等の仲間でござるな」

「ん。こいつらはおそらく幹部。頭目はまだ出てきてない」


武器を構えて、警戒しながら男たちに対峙する私とヒサメ。


「くくっ。ドゥーイシュ、奴ら冒険者を雇ったようだぜ?」

「獣人のお嬢ちゃん二人に俺たちがやられるものかよ。俺たちはアックジュー盗賊団だぜ?」

下卑た笑みを浮かべて私達を見る盗賊の男たち。それを睨みつけながら、私たちは警戒態勢を取り続ける。

「この花畑は村人達の物でござるよ!お主等に明け渡すわけにはいかないでござる!」

「盗賊に落ちた者達に人権はない。ここで死んでもらう」


カタナを構えて凛とした表情で叫ぶヒサメと、忍刀を構えたまま冷淡な表情を浮かべて淡々と告げる私。そんな私達を見て、盗賊の男たちは嘲笑した。


「ほほぅ。俺達を倒すっていうのか?」

「いい……実にいいよ、君たちぃ……。なるべく傷つけないようにして捕らえて、吾輩の実験台にしてあげるよぉ……」

「待てや、ケイオット。あの猫獣人のお嬢ちゃんは俺がもらうぜ。あの冷淡な表情、ゾクゾクするねぇ。是非ともあのお嬢ちゃんの泣き顔を見てみたいものさ」

「しょうがないなぁ、アモーコ……。じゃあ、吾輩はあの狼獣人で我慢するよぉ」


下卑た笑みを一層強くして、私達を見る盗賊たち。

その表情は、すでに自分たちの勝利を確信しているかのようだった。

それを見た瞬間、私の中の何かがプチンと切れる音がした。

私は、その場から一瞬のうちに詰め寄り、漆黒のつなぎを着た男の首を忍刀で刈り取る。そして、その勢いで漆黒のつなぎを着た男の背後にいた鎧の男の、全身鎧の隙間から忍刀を突き刺して飛びのく。


「アモーコ!ドゥーイシュ!」

「させぬでござるよ!」


懐から赤い色の薬品の入ったビンを取り出して、全身鎧の男に投げつけようとしたローブの男に、ヒサメが接近しながら男を袈裟懸けに斬り払う。血しぶきをあげながら、その場にくずおれるローブの男。


「くそっ!くそおぉぉぉっ!お前ら、よくもアモーコとケイオットをやってくれたな!」

「私達を甘く見た結果。恨むなら、自分たちの行いを恨んで」

「そうでござる。拙者達はお主等の物になるほど、安くはないでござるよ」


そう怒鳴って血反吐を吐き、ふらつきながらも立ち上がる鎧の男。

その男に、私は接近しながら忍刀を納刀して手裏剣を抜刀し、上空高く飛びあがる。


「!」

「忍法……飯綱落とし」


私はそう呟いて、回転しながら鎧の男めがけて落下した。

鎧の男が斧を構えて防御態勢をとるが、私は構わずに手裏剣で斧ごと男を一刀両断する。

着地した私は、手裏剣を構えたままその場から後方に飛び去る。

私が後方に着地したと同時に、男の体が頭から左右に分かれていった。

血しぶきをあげ、臓物をまき散らせながら二つに分かれて地面に倒れる男。

それを見た私たちは、ゆっくりとローブの男に近づいていった。

手裏剣で、男の両手両足の腱を切り裂いた私は、男の股間を踏みながら口を開いた。


「さて、残っているのはお前だけ。どのみち、もうお前は助からないし助けるつもりもない」

「ははっ……は……。吾輩が……こんな所で……」

「けれど私の言うことに答えたら、少なくとも命だけは助けてあげる。けど、もう両手両足はもう使い物にならない。たとえ、ヒールポーションを使っても完全に欠損した内部組織までは回復しない」


そう言いながら、私は男の股間を踏みにじりつつ、冷たい瞳で殺気を駄々漏れにしつつ後を続ける。


「アジトはどこ?」

「吾輩が、答え……ぐあぁっ!」


口答えをした男の股間をぐっと踏みつけると、男は蛙の潰れたような汚い叫び声をあげる。

私はそれに構わずに、冷たい瞳で見下ろしながら口を開いた。


「アジトはどこ?」

「こ……ぐあっ!」

「アジトはどこ?」

「この……森の中の……砦跡……ぐああああああっ!!」

「そう。それが聞ければいい」


男が観念したようにアジトの場所を話すと、私は思い切り男の股間を踏み潰した。

その痛みに、男が白目を剥き口から泡を吹いて気絶すると、私はアイテムボックスからヒールポーションⅢを一本取り出して、男の傷に振りかけた。

すると、見る見るうちに男の傷が塞がっていく。完全に塞がったところで、私は背後でガタガタ震えるヒサメを見た。


「ヒサメ?」

「あうう……。トーカ殿怖ろしいでござるよぉ……」

「そう?男の尋問にはこれが一番。ヒサメも覚えておくといい」

「できれば、したくないでござるぅ……」

「それはヒサメ次第だから、私は無理に勧めない。それはそうと、警備兵を呼んできて。私はこいつを見張っている」

「わかったでござる!今すぐ呼んでくるでござるよ!」

そう言うと、ヒサメは村まで駆けて行った。

私はそれを見送ると、男のローブの中をまさぐってその中に入っている薬品類を回収した。

私がすべての薬品を回収してしばらくすると、捕縛用の縄と遺体回収用の担架とシーツを持った警備兵数人と一緒にヒサメが戻ってきた。


「呼んできたでござるよ!」

「ん。こいつはまだ目を覚まさないから、早く縛って。薬品類は一応取り上げておいた」


私は、警備兵の一人に回収した薬品類を渡しつつ言った。


「ありがとうございます!ご協力、感謝いたします」

「そうだ。森の中に砦跡ってある?」

「はい。森の中に、確かに砦跡が一か所あります。昔、この地方を荒らし回っていた盗賊団の基地跡です。ですが、その盗賊団はもう何十年も前に討伐されて、今は誰も使っていないはずですが……」

「こいつら……アックジュー盗賊団と言ってたけど、そのアジトになってる」

「何ですと?それが本当ならば、プラナスの本部に大至急討伐隊を編成してもらうよう、要請しないといけません!」


警備兵が表情を強張らせて言うと、私は首を振りながら後を続けた。


「私が今から行って壊滅させてくる。幹部と思われる盗賊達はすでに七人倒した。あとは残っていてもそれほど多くはないはず。北の街道沿いに出る盗賊の噂は、私が約十日前にプラナスに来た時には聞かなかったから、おそらくはどこかから流れてきたか、それとも最近結成されたばかりだと思う」

「それはいくらなんでも危険すぎるでござるよ!ここは、警備隊に任せた方がいいでござる!」

「ここで完全に壊滅させておいた方が、北の街道を通る旅人や行商人、そして村の人達の安全が保障される。多分、今行かないと逃がしてしまうことになる」


慌てたように私を引き留めるヒサメに、私はかぶりを振って答えた。

すると、彼女は何かを決心したのか真剣な表情で口を開いた。


「それならば、拙者もついていくでござるよ。トーカ殿一人には任せてはおけないでござる」

「ヒサメ、ここからは危険。村で待っていて」

「トーカ殿を一人で行かせる方が危険でござるよ!トーカ殿はもっと自分を大切にするでござる!」


真剣な表情で私に詰め寄って言うヒサメ。その真剣な表情に、私は根負けして諦めたようにため息をつくと、口を開いた。


「ヒサメ、覚悟はいい?」

「剣一筋で生きると決めた時から、いつでも死ぬ覚悟はできているでござる。改めて聞かれるようなことではないでござるよ」

「そう。ならいい」


やや諦めたような表情になった私は、アイテムボックスから透明な液体の入った小さなボトルを一本取り出した。そのボトルの中の液体は、光を反射して満月のような山吹色の光を放っている。


「これは獣化薬でござるな……。師匠から聞いたことがあるでござる」

「そう。私たち獣人を、太古の姿に戻す薬。獣化すると身体能力は大きく上昇するけど、体に大きな負担がかかる。私が作ったこの薬で獣化できるのは三分だけ。その後は三日経たないと使えない。これを渡しておく。危ないと思ったら迷わず使って」


そう言うと、私は獣化薬をヒサメに渡した。

それを受け取り、ポケットにしまうと、ヒサメは真剣な表情で頷く。

「わかったでござる。トーカ殿、ここからは死地なのでござるな」

「ん。今なら村に戻れる」

「何を言うでござるか。拙者はとうに覚悟はできているでござるよ」

「そ。ならいい。じゃあ、行こう」

「了解でござる!」


私達は真剣な表情で頷くと、警備兵達の方を見た。

警備兵達も、真剣な表情で黙って頷いた。それを見た私たちは、森へと駆けて行った。


私はマップを表示させて、砦跡に向かって森の中を駆けていく。

そのあとを、ヒサメがぴったりとついてきた。後ろをちらりと見ると、彼女は息を切らせた様子もなく走り続けている。

私はそれを確認すると、目の前をじっと見据えながら森の中を進んでいく。

しばらく森の中を走ると、私たちの目の前に朽ち果てた砦の跡が見えてきた。

速度を落として砦に近づくと、私は気配を殺して足音を立てないように砦に近づいた。それを見たヒサメも、同じようにして砦に近づいていく。

慎重に近づいた私たちは、崩れ落ちた石積の塀から砦の敷地に侵入した。

なるべく素早い動きで、移動を最小限にして砦の建物に近づくと、私は砦の構造を確認する。

砦は地上三階建てになっていたが、最上階は崩れ落ちて形がほとんど残っていなかった。私は、中に侵入して地下への入り口があれば、地上階の探索を終えた後にそちらの探索をしようと考えた。

ヒサメにジェスチャーで方針を示すと、彼女は頷いた。

それを確認した私は、崩れ落ちた砦の外壁から、砦の中に侵入した。


砦の中に侵入すると、私はマップを確認しながら周囲を警戒しつつ慎重に歩を進めていく。

私達は、先頭が私、後ろがヒサメという隊列で砦の中を探索しはじめた。

砦の一階は、盗賊の休憩所や台所、手下の寝室などであったが、マップ上ではその中には反応がなかった。慎重に部屋の入り口から顔をのぞかせて中を探っていくが、中はもぬけの殻であった。

しばらく中を探索すると、玄関ホールと思われる場所に出た。

そこには、上に行く階段と下に行く階段があった。どうやら、この砦には地下階があるようである。

私達は、慎重に足音を立てずに二階へと階段を進んでいく。

二階は、まだ形を保っておりいくつかの部屋に分かれていた。私たちは、気配を殺して足音を消しながら部屋を確認していく。

どうやら、二階の部屋は幹部と思われる男たちの部屋になっているようだった。

私達は、部屋の物色は後回しにして、次々に部屋を確認していく。

最後の部屋まで確認し終えた私たちは、顔を見合わせて口を開いた。


「ここまで虱潰しに確認したけど、誰もいない」

「となると、地下でござるな。身を隠すにはもってこいでござる」

「じゃあ、地下の探索」

「うむ」


私達は、気配を殺して足音を立てずにその場から立ち去った。


一旦玄関ホールに移動した私たちは、階段を下りて地下を目指す。

地下一階に降りると、地下への階段はここで途切れていた。

周囲を警戒しながら、私たちは石を積んで作られた壁の通路を進んでいく。

しばらくまっすぐ進むと、通路が右と左の二手に分かれていた。

私がマップを確認すると、右の大きな部屋に赤い光点が表示されていた。

私は迷わず、右へ行く通路を選らんで進む。

すると、正面に大きな扉が見えてきた。


「ヒサメ、この中に頭目がいる」

「何でわかるでござるか?」

「勘」

「なるほど」


小声でひそひそ話す私達。獣化薬のボトルを取り出して懐に忍ばせると、武器の存在をしっかり確認した。

私たちは頷いて大きな扉を蹴破り、ほぼ同時に部屋の中に飛び込む。

部屋の中、私たちの目の前にある二段高くなった場所に、一人の女が立っていた。

黒を基調とした、けばけばしい装飾が施されたローブをまとった、金髪に紫色が混じった髪の女は、目を細めて妖艶に笑いながら口を開いた。


「ふぅん。どうやらあいつらは倒されたってことなんだねぇ……。お嬢ちゃんたちが討伐部隊かい?こんなお嬢ちゃん二人なんて、この”闇色の魔女”アイジュムもずいぶん舐められたもんだよ」

「お主が盗賊団の頭目でござるな!おとなしく縄につくでござる!」

「あははっ!お嬢ちゃんみたいなひよっこ冒険者に、このあたしがやられるものかい!!」


嘲り笑いながら、アイジュムと名乗った女は、手にした長い杖を振るう。

すると、杖についた赤い宝玉が光り、そこから発生した大きな火の玉が私たちめがけて高速で飛んできた。


「くうっ!アーティファクトでござるか!」

「むぅ」


私達は、次々に飛んでくる大きな火の玉を回避することに専念していた。

私は、火の玉を回避しながら目の前の女に鑑定眼を使う。


アイジュム

ウィザード

レベル:76

HP:☆3(29784/29784)

MP:☆5(53912/53912)


私は、鑑定眼で表示された数値を見て舌打ちをした。私はともかく、ヒサメにとっては格上の、しかも魔導具と思われる杖から、絶え間なく降り注ぐ火の玉で接近ができないという、明らかに分の悪い相手であった。

それを野生の勘で感じたのか、ヒサメも真剣な表情で私に話しかけてきた。


「トーカ殿!これでは接近できないでござるよ!」

「仕方ない。獣化薬を使う」

「心得たでござる!」


私達は一度距離を取って、あらかじめ懐に入れておいた獣化薬のボトルを取り出すと、キャップを指で弾き飛ばしてその中身を一気に飲み干した。

すると、私たちの体が一度大きく痙攣し、身に着けていた武器と防具が光の粒子となって、空中に飛び散る。一糸纏わぬ姿となった私達は、体の中で暴れる力に耐えられずに、大きな叫び声をあげた。


「「うあああああああああああああ!」」


私達が大きく吠えると、次の瞬間、体の変化が始まった。

全身の筋肉とそれを支える骨格、それら全てを覆う皮膚が急速に膨れ上がる。そして、私の全身が黒い剛毛で、ヒサメの全身が銀色の剛毛で覆われた。

私の頭部は黒猫を思わせるものに変化し、ヒサメの頭部が銀色の狼を思わせるものに変化する。

両手の爪はいつもの数倍まで鋭く伸び、両脚はそれぞれの獣を思わせる姿に変化していた。

動きの止まった私たちめがけて、頭上から巨大な炎の球が降り注ぐ。

それを見たアイジュムと名乗った女はにやりと勝利を確信したような笑みを浮かべたが、次の瞬間驚愕の表情に変わった。

降り注ぐ炎の雨を素手で弾き飛ばし、完全に獣化が完了した私たちが立ち上がる。

その姿は、獣人が本来持っていた野生の姿――それぞれの素となった獣の特徴を持つ、二足歩行の獣と化していたのである。


この世界の獣人の祖先は、古代人が産みだした古代人と獣の融合個体であると言われている。

この事実は、現在語られる創世神話の中でも語られている。

古代人が、世界に満ちる力を有効利用しようとして作り出した存在がエルフとドワーフ、ハーフランナーであり、いまだ世界に点在する過酷な自然環境を生活しやすい形に変えるための労働力として作り出したのが、獣人なのである。

そのため、プラナスの隣にあるティリウス聖王国のように、創世神話を歪んだ形で過大解釈して人間種族至上主義を掲げる国家も少なくなかった。

そんな獣人であるが、現在は野生の姿を捨て去り獣耳と獣のしっぽ、または背中に鳥の一対の翼を生やした人間の姿をしている。これは、崩壊後の世界を再生させるために、この世界の創造神が獣人の姿を変えたとも、創造神の祝福だとも言われている。

それ以来、獣人は現在の姿を取るようになったと言われている。

しかし、獣人は完全に野生を捨て去ったわけではなく、自分の体の内に眠る野生の因子を活性化させて非常に高い身体能力を誇る太古の姿を取り戻す手段も、合わせて創造神より授けられたと言われている。

その手段が獣化薬と呼ばれる、獣人だけに伝わる薬なのである。

だが、現在の獣人の体にかかる負荷は限りなく強く、安全に獣化していられる時間は約三分。一度獣化すると、その後約三日は使えないという代物であった。

そのため、獣化薬は獣人の中では切り札とも呼べるものであった。


完全に獣化した私たちは、床を大きく蹴るとアイジュムめがけてまっすぐに突っ込んでいく。

慌てたように、杖から炎の雨を降らせるアイジュムだが、通常の状態であれば脅威となるものも、身体能力が大きく向上した今の私達には全く関係ないものであった。

太く発達した腕で炎の雨を振り払い、アイジュムに肉薄すると私は腕を大きく振り、杖を持つ右手を掴んで引きちぎった。

肉の裂けるぶちぶちという音と、ばきばきと骨が砕ける音がする。

右腕を引きちぎられたアイジュムは、声にならない叫び声をあげる。そんなアイジュムの胸を、ヒサメの拳が貫いていた。

一撃で心臓を破壊されて、大量の血反吐を吐くアイジュム。

ヒサメが腕を引き抜くと、アイジュムは床にゆっくりと倒れていった。

一度大きく後ろに飛びのくと、私たちは息を整える。

しばらくすると、私たちの体が元の大きさに戻りながら全身の剛毛が抜け落ちていく。

体が完全に元の姿に戻ると、光の粒子となっていた武器と防具が元の姿を取り戻し、私達の体に装着された。

床にへたり込み、荒い息をつく私とヒサメ。


「これはっ……体の負担が……生半可な物では……ないでござる……」

「んっ……久しぶりに使ったけど……反動がっ……」


荒く息をつきながらも、ゆっくりと息を整えていく私達。その瞳は、床に崩れ落ちたアイジュムの亡骸と私が千切り飛ばした腕に注がれていた。

アヒル座りで息を整えながら、私とヒサメは顔を見合わせてにこりと笑う。


「やったでござるよ、トーカ殿……」

「ん……。ヒサメのおかげ」

「拙者だけではござらんよ。トーカ殿の協力があったからこそでござる……」


そう言うと、私たちは声をあげて笑った。

過程がどうであれ、少なくとも盗賊団を壊滅させたことには違いはなかったのである。

しばらくそのままで息を整えていた私たちは、ようやく落ち着くとアイジュムの亡骸に近づいて行った。

近くで見たアイジュムの表情は、絶望と驚愕に大きく目を見開いたままで固まっている。

私は憐れみを含んだ表情でそれを見下ろすと、その場にしゃがみ込んで、見開かれていたままの瞳を手で閉じ、胸の前で十字を切る。そして、遺体をアイテムボックスに収納した。


「トーカ殿、これもお願いするでござる」


そう言って、ヒサメが杖を持ったまま千切られた右腕を持ってきた。

私は頷くと、それもアイテムボックスに収納する。


「さて、ヒサメ。左の部屋も確認する」

「そうでござるな。一応確認しておくでござるか」


そう言うと、私たちは部屋を後にした。


部屋を出た私たちは、分かれ道まで来ると今度は左の部屋へ歩いていく。

しばらく歩くと、左の大きな部屋の前まで来た。

私達は、扉を隅々まで確認して危険がないことを確かめると、扉を開いて中に入った。


「これは……」

「何でござる?」


部屋の中には、琥珀色の液体の詰まったガラス瓶や二段構造になっている木箱、完全に頭まで覆うような白い全身つなぎが置いてある棚が所狭しと並んでいた。

私は琥珀色の液体の詰まったガラス瓶を手に取ると、それに鑑定眼を使う。


カシア蜂蜜

レア

カシアの花から採れた蜂蜜。高級食材として使われるほか、最上級ヒールポーションの材料にもなる。


「カシア蜂蜜?」

「なんと!この入れ物に詰まった液体全てが蜂蜜だというのでござるか!?」

「それだけじゃない」


私はそう言うと、部屋の隅に積まれている樽を指さす。

それをヒサメが見ると、私は後を続けた。


「たぶん、あれは蜂蜜酒だと思う」

「蜂蜜酒の樽がこんなに……。拙者、奴らが開拓村周辺に出没した理由がわかったでござるよ」

「ん。たぶん、奴らの狙いは花園。だから、開拓村の人や警備兵、そこに行き来する旅人や行商人が邪魔だった」

「だから北の街道に出没するようになったのでござるな。なんとも、阿呆らしい理由でござるよ」

「阿呆とは言い切れない。花園を独占してそこで採蜜を行えば、限られた期間とはいえ大量に蜂蜜が採れる。蜂蜜が高価な国で売れば、蜂蜜一本でもプラナス周辺の何倍、何十倍の金額で売れる。頭目の女はウィザードだったから、おそらく転移魔法も使えるはず。移動に時間と金をかけることなく巨万の富が得られる。そこが狙い」

「だからと言って、このような真似が許されるわけがないでござるよ。誰にも迷惑をかけないでやるのならともかく、多くの無辜の民に迷惑をかけているわけでござるからな」

「ん。天誅」


吐き捨てるように言うと、私は片っ端から証拠となる品々と革袋に納められた金貨をアイテムボックスに納めていく。革袋の中を見たヒサメは、その金色の輝きに絶句していた。

ヒサメも協力して証拠品と盗賊団の資金をすべてアイテムボックスに納めると、私たちは地下から地上の玄関ホールに出て、玄関を開けて外に出る。

そのまま、砦を振り返らずに森の中を開拓村に向けて走り出した。

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