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第11話

トーカちゃん、昨日に引き続いて家具職人になる

次の日。

早めに起きて装備を整えた私は、朝食を摂るとその足で街の南に広がる草原に向かった。

そして、草原で飛空艇を召還すると、昨日と同じようにヒルドに光学魔導ステルスバリアを張った状態で着陸態勢を取るよう指示すると、倉庫からエボニー材と銅のインゴット、ジャイアント・ビーの蜜蝋、エルダー・トレントの蔓を取り出して工房に向かった。


工房に入ると、そのまま木工作業台の上にエボニー材を取り出してそれを三.五メル四方のサイズの板になるように切っていく。板を切り終えたら、その端に組み継ぎをするための加工を、鑿を使って行っていく。端を加工し終わったら、その表面に鉋とやすりをかけてつるつるにしていく。

六枚のうち五枚の板にすべて同じ工程を行ったら、加工した板を組み合わせて釘を打ち、箱を作っていく。《木工スキル:神匠》のおかげで、細かな調整をしなくても立派なエボニーの箱が出来上がった。それを作り終えたら、冷蔵庫を置く台の作成に入る。こちらも丈夫さを考えて、厚めに切ったエボニー材の板で組み継ぎを使って作る。大きさはやや大きめの三.八メル四方にした。


次は、中に入れる銅製の箱である。こちらを作成するために、私は炉に火を入れて、金属が加工できるほどに十分熱くなったら、銅のインゴットを熱して打ち、板を作っていく。やや厚めに五枚の外枠となる板と、中のすのこになる2枚の板を作り、すのこになる部品の板を加工して、すのこを作る。五枚の板と二枚のすのこが出来上がったら、まずは五枚の板を工房備え付けの溶接器具を使って溶接していく。すべて溶接し終えると、銅製の箱と二枚のすのこが出来上がっていた。

銅製の箱とすのこが十分冷えるまでの間に、アイテムボックスから昨日の残りのミスリルインゴットを取り出して炉で熱し、調理場で使うことを考えてやや厚めに取っ手と蝶番、フックを二個ずつ作る。

ミスリル製の部品を作り終えたら、銅製の箱とすのこがしっかりと一体化するように溶接していく。溶接し終えると、二枚のすのこが取り付けられた銅製の箱が完成した。


銅製の箱を冷やしている間に、私はアイテムボックスの中のジャイアント・ビーの蜜蝋を溶かして、エボニーの箱と板、台にしっかりと塗りこめていく。エボニーでできた部品すべてに蜜蝋を塗りこめたら、一度冷やしておいた部品の様子を確認して十分冷えたことを確認したら、まずはミスリル製の部品を箱と板に取り付けていく。外装の箱が完成したら、今度は内側に厚めにワイルドボアの毛皮をまんべんなく張り付けていく。やや内部の箱より小さめのスペースができたら、一度銅製の箱の様子を確認した。

十分に冷えたことを確認した私は、銅製の箱の上下を確認しながら、ワイルドボアの毛皮が張られたエボニーの箱の中に設置する。ぴったりと銅製の箱がおさまったことを確認した私は、それの上下を確認しながら台の上に乗せ、下から釘とねじを使ってしっかりと固定する。

台と本体がしっかりと固定されていることを確認したら、私は一番上のすのこの上に冷蔵用の魔導具を、頑丈かつしなやかなエルダー・トレントの蔓を使って動かないようにしっかりと固定した。冷却用の魔導具を固定し終えた私は、冷蔵用の魔導具を作動させる。魔導具を作動させると青い宝玉が光り、冷気が流れ出した。


「ん。これで完成」


私はそう呟くと、完成した作品に対し、鑑定眼を発動させてじっと見つめる。


エール用冷蔵庫(完成品・廉価版)

ユニーク

小鳥の宿木の主人、ベッカーに依頼されてトーカ・モチヅキが作成したエール用の冷蔵庫。

試作品より外装・内装の素材は劣っているが、内部の魔導具の出力が上がっているため、試作品以上の容量を冷却することが可能。容量は大樽二個を想定しているが、中樽一個と小樽二個、全部小樽ならば四個収納できる。

トーカ・モチヅキの魂を込めた仕事により、想定された以上の保冷能力を誇る。


「うん、いい仕事をした」


私は、鑑定眼の結果を見て満足げに笑った。これならば、きっとベッカーさんも納得してくれるはず。魂を持つ職人ならば、この仕事もきちんと理解してくれると私は思った。完成したエール用冷蔵庫をアイテムボックスにしまった私は工房を後にした。


飛空艇を送還して、プラナスの街に戻った頃には、すっかり夕暮れとなっていた。

仕事を終えて家路を急ぐ街の人々や、狩りを終えてきたのか、満足そうな表情を浮かべている冒険者たちを横目で見ながら、私は、まっすぐに小鳥の宿木に戻る。

小鳥の宿木に戻った私を、マリィさんとミリィが出迎えてくれた。


「トーカちゃん、お帰り」

「おかえり、トーカ」

「ただいま。マリィさん、ミリィ。ベッカーさんに頼まれていたものが出来上がった」

「そうなの?トーカすごいね」

「それほどでもない」

私がそう言うと、マリィさんがすまなそうな表情を浮かべて言った。

「トーカちゃん、うちの旦那の依頼を受けてくれてありがとうね」

「気にしないで。私もここでおいしいお酒が飲めるなら、それが一番だから」

「トーカ、お父さん昨日飲んだエールの事を忘れないうちにって、レシピの開発と試作を朝からしているんだよ?あんなに真剣なお父さんを見たの初めて」

「料理人は職人だから。私の里でもそうだった。だから、私も魂を込めて作ってきた。ベッカーさんの期待に添えられるような仕事はできたはず」


私がそう言うと、マリィさんとミリィが厨房に案内してくれた。

厨房では、ベッカーさんが真剣な表情でメモを取りながら料理の試作をしていた。額には大粒の汗が浮かび、周囲の気配に気が付かないほどに集中しているようだった。


「あなた。トーカちゃんが帰って来たよ」

「うん?あ、ああ。マリィとミリィか。どうした?」


マリィさんがそう声をかけると、ベッカーさんは顔を上げてこちらを見る。どうやら、私達が厨房にいることに初めて気が付いたようであった。


「ベッカーさん、エール用の冷蔵庫ができた。試運転で正常に動作していたから大丈夫だと思う。今設置するから、場所はどこ」

「ああ。ではその隅に置いてくれないか。マリィとミリィが、朝からエールの大樽をどかしてくれてね」

「じゃあ、そこに置く。エールの樽も、この大きさなら二個入るからあらかじめ入れておく」

「すまないが、頼むよ。俺は少し休憩してから、夕食の準備をする」

「わかった。無理しないで」


私は、アイテムボックスからエール用の冷蔵庫を出して指定された位置に設置した。そして、ふたを開けると冷気が流れ出してきた。どうやら正常に作動しているようである。それを確認した私は、エールの大樽を二個中に収納すると、ふたを閉めて二か所のフックを開かないようにしっかりと固定した。


「これで、大体二時間ほど待てば冷えると思う。保冷能力は高いけど、閉めたら必ずこのフックは固定して。冷気が外に出ると保冷機能も冷却機能も落ちる」


私がそう説明すると、三人は黙って頷いた。

その説明を聞いたマリィさんとミリィが、思い思いの感想を口にする。


「しかし、これを一人で、しかも一日で作ったっていうのかい?私はトーカちゃんの能力に驚かされるばかりだよ」

「本当にきれい……。私、こんな道具見たことないわ。まるでお貴族様のお屋敷にあるような家具みたい」

「里では物心つく頃にはいろいろ教わる。手仕事も一人で生きていくための手段だから、これも厳しく修行した」

「トーカちゃんは冒険者をやめても、十分食べていけるね。今のうちから、手に仕事を持っているのはいいことさ。いずれ、冒険者を引退するときが来るんだからね」

「そうだぞ。俺達みたいに結婚して引退する冒険者は多い。さすがに、家族を危険にさらすわけにはいかないからね。他にもけがで引退した奴らもいる。俺たちの知り合いにもいたしな」

「一応、これでも木工と鍛冶と裁縫、製薬と料理は里のおじじ様やおばば様から免許皆伝をもらった。細工と魔導具はダメだったけど」

「それだけできれば大したものさ。トーカちゃんは立派だね。可愛くて能力もある」

「本当、トーカってすごいよね。私も料理がんばらなくちゃ!」

「そうだな。いずれ、この宿を任せるのは今のところミリィしかいないからな」

「あ、でも私の弟か妹が産まれたらそういうわけでもないのか。お父さんとお母さんに頑張ってもらって、私はお嫁さんでもいいかなぁ」

「それでも、女の子なんだから裁縫と料理はできないとだめさ。私もこの宿屋を始めた時は苦労したからね」

「はぁい。頑張ります!」

「さて、トーカの報酬の事なんだが……昨夜マリィと話してね。まず、トーカがこの宿に泊まっている間の宿代と食事代は無料にすることにした。それだけでも、この冷蔵庫が生み出す利益は計り知れないからね。あとは、この冷蔵庫とエールを冷やして飲むといったことに関する、特許の申請とそれにかかる費用。これは商業ギルドに所属している者ではないとできないから、名義はトーカで、代理申請は俺がしておく。特許の使用料に関しては、トーカと小鳥の宿木以外が使う場合にかかることでいいかな?」

「それでいい。私も、マリィさんやミリィ、ベッカーさんの役に立ててうれしい」

「トーカちゃん……」

「トーカ……」


私の言葉に、感極まったマリィさんとミリィが、ひしっと私の事を抱きしめてくる。

たわわなマリィさんの胸のふくらみと、母親譲りの、これまたたわわなミリィの胸のふくらみに圧迫された私は、思わず買えるの潰れたような声を上げた。


「むぎゅ……」

「トーカちゃん、いい子だよあんたは!」

「トーカ!もういっそのこと私の家族になって!」

「マリィさんもミリィも苦しい……」

「あ、ごめんよ」

「トーカ、ごめん」

「ぶっすうぅぅぅ……。マリィさんもミリィも、私を子供扱いしないで」

「トーカは私と同い年だけど、何だかそんな感じがしないんだよね」

「ミリィと同い年なら、私にとっては子供も同然だよ」

「むうぅぅぅ……」


私がぶすっとした表情で文句を言うと、二人は思い思いの事を言った。そんな彼女たちを見て、私は頬を膨らませて抗議の態度をとった。


「もう、トーカったら。そんな顔したら、ますます妹になってほしくなっちゃうじゃない」

「あははっ。そんな顔をしているうちはまだまだ子供さ」

「うー……。マリィさんもミリィもひどい」

私がそう言うと、二人はくすくすと笑った。

「さあ、お風呂に入っておいで。これを作ったんだ、早く着替えた方がいいよ」

「ん。わかった」


マリィさんがそう言うと、私はその言葉に頷いて厨房を後にした。


お風呂に入って、夕食を食べた私は部屋のベッドの上で横になっていた。

さすがに、特許の関係がある以上冷えたエールはまだ出せないようで夕食にはなかったが、ベッカーさんの試作料理であるワイルドボアのスパイシー炒めは、数種のハーブと唐辛子を混ぜたものがピリリと辛く、冷えたエールかご飯がほしくなるほどの一品であった。これからアンケートを取って、もう少し改良するとのことであった。私は、痺れるような辛さが少しほしいと答えた。

香辛料としては、代表的なものとして胡椒と唐辛子があげられるが、やはりこの世界でも胡椒は貴重なもので、西方大陸の南部から運ばれてくるためプラナス周辺では王侯貴族か有名商会を取り仕切っている大富豪の口にしか入らないとのことであった。唐辛子はプラナス周辺でも栽培されており、特に西の山岳地帯周辺の村で大規模に生産しているため安価に入手できるとのことであった。

そのため、この周辺ではハーブと唐辛子が主な香辛料なのであるが、私はここにショウガや山椒の痺れるような、ピリリとした辛さがほしいと思ったのである。


私は、ふと思い立って窓のところに立つ。

夜九時を回り、窓からは、夜の闇が広がっておりところどころに街の明かりがともっているような状態であった。

窓に映る私は、神様からの贈り物であるベビードールとハイレグ紐パンツだけの格好をしていた。

ふくらみかけの胸と少しくびれ始めた腰、そこから伸びる程よく肉がつきつつも丸みを帯びた臀部と引き締まったおそらく長いと思われる脚。

ベビードールの胸の部分からは、薄い桃色のぽっちが二つ透けて見えていた。

鏡に映る私に向って、私は蠱惑的な笑みと自分で思った表情をする。

窓に映る私は幼い体つきと顔つきのせいか、蠱惑的というよりもどこか年齢相応な小悪魔的な笑みを浮かべていた。

この世界に少女の体で転生してから九日経つが、精神は肉体に引かれていくとの言葉通り私の中の男としての心が薄くなっていき、徐々に年頃の少女の心になっていくのを感じていた。昨日、リオさんに薄く化粧をされて写真のモデルをした時も、女装をしている姿を写真に撮られるという男としての恥ずかしさよりも、少女として綺麗な姿で可愛い服を着て、写真に撮られるということへの誇らしさが勝っていたような気がしたのである。

この世界で女としての生活をしていくうちに、男だったという事実や男としての物の考え方もきっと薄れていくのだろう。そう思うと、私は少し寂しいような気がした。

一つため息をついた私は、そのままの格好でベッドにもぐりこむ。明日は神聖歴一五二〇年五の月二十五日。明日で私がこの世界に来て十日が経とうとしていた。

リオさんとルイさん姉妹から依頼された、商業ギルドの新商品発表会まであと五日である。さすがに遠出はできないので、この街の近所でできる依頼を受けに行こうとベッドの中で私は思った。

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