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揚げ物語  作者: そらが
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09.17世紀フランス──揚げないカツレツとじゃが芋抜きのコロッケ

 フランスにおいて16世紀前半の料理はヴィアンディエの印刷物、そして一つの小冊子によって構成されている。その小冊子を増補した16世紀中葉のフランスの料理書「全ての料理のための偉大なる料理書」には、フリェッテ、フリトー、フリット、フリテュール、そしてベニェが見られるが、どれも魚料理か揚げ菓子である。

 例えばレ・メグレ・フリトーは「ほうれん草、レタス、パセリ、マジョラムなどのハーブを用意。これをアオイの葉と共にとても細かくして両手で強く圧搾する。ハーブとアオイの1/4の重量の小麦粉と卵黄6個、スパイス少々とシナモン、砂糖1オンス、塩をスプーンで混ぜる。フライパンに2,3ポンドのバターを溶かし、弱火で揚げてフリッターを作る。出来たら砂糖を上に乗せて完成」

 またカルペのベニェは「鯉の頭を取って冷える前に出汁を作る。卵を小麦粉、サフラン、塩と共に泡立ててから、鯉の頭を混ぜ物に浸す。バターでそれらを揚げて、フリッターにする。砂糖を振り掛けて完成」

 その他にもジャスペ・ド・レという、直訳するとミルクの碧玉という格好いい名前の揚げ菓子がある。

 これは「ミルクと卵白を用意してパセリ一掴み、ホワイトパウダー(生姜粉)少々、塩を加えて混ぜて煮る。それからもっと混ぜて圧搾し、物置に一日寝かせる。その後、薄切りにスライスしてバターで揚げて、温かいうちに砂糖を乗せて食べる」という。

 こうしたフリッターは中世の頃から温かいうちに食べているわけだが、よく確認すると「温かい」というよりも「とても熱いうちに」食べるもののようだ。


 そのほか大抵のフランス料理史では、16世紀においてベロンの鳥類図鑑やノストラダムスのジャム論、オリビエ・ド・セールの農業論に目を向けるが省く。

 17世紀前後には、ランスロ・ド・カストーが「料理序曲」を書いた。

 ここには「ベニェとフリテュールのための良いパテの作り方」があり、「1パイントのクリームを用意して、鍋でバター少々と共に煮る。次に小麦粉を用意してペーストを作り、木製スプーンで混ぜながら火の上で煮る。それから卵4つを割り、スプーンで混ぜてペイストリーに加える。また別の卵4つを割って、ペーストがポリッジのように柔らかくなるまで混ぜる。ペイストリーが柔らかくなるのに必要なだけの卵を使う。それから塩抜きバターを火にかけて少し温かくなったら、ペーストをこぶ位の大きさの銀のスプーンで掬って、18-20回程度、網杓子でひっくり返し、棒状になるまで揚げる。掬い取ったときに千切れてばらばらになったら、それはまだ揚がっていないから、戻してもう一度揚げる」

 ただ他には「白い小麦粉と卵とワイン少々、砂糖と胡椒少々でパテを作り、子牛の性器をパテでずぶぬれにする。それからこれをバターで揚げて完成」というものがある程度である。



 17世紀の中頃、フランシス・ピエール・ラ・ヴァレンヌは「偉大なる料理人」を残した。

 ベシャメル・ソースの紹介者の一人として名高い彼の料理書の中の料理はこれまでになかったものばかりであるが、揚げ物には骨髄フリッターや種々の魚に小麦粉をかけてフライにしたもののようにどこかで見たようなものも多い。

 中世以来のリソルがその代表であり「ヤマウズラの腿肉または他の肉を、とても小さく細切れにして味付けしてからとても薄いペーストのシートを作り、リソルをドレスアップする。脂身かラードで揚げて完成」とある。

 魚の日のレシピにリソルはない。


 リソルについてはラ・ヴァレンヌが後に書いた「フランスのパティシェ職人」という著作にも記載されていて「牛肉、または羊肉、または豚肉、或いは子牛肉を焼くか煮るかした後で細切れにして塩とスパイスで味付けする。それから細切れ肉を混ぜ込んだ半ば薄くて白いペーストを作る。リソルを仕上げたら、ラードの中で、ペーストの片面が固形の黄色になったときに裏返して、弱火で揚げる。両側を揚げたら網杓子で取り出して乾かす。煮るときや焼くときに完璧に調理しないのがコツである」とある。

 また同書の中で、ベニエの作り方が詳しく書かれており「1リットルの小麦粉、その日に作られた3つのクリームチーズ、3つの溶き卵、そして卵くらいの大きさの牛肉の骨髄を摩り下ろすかみじん切りにしたものを混ぜ合わせる。1セプティアまたは必要なだけの量の白ワインと一欠片の塩、一オンスの粉砂糖を加え、ペースト状にする。薄切りにしたリンゴか細かい欠片にしたシトロンを加えても良い。準備が出来たら、脂身かバター、またはサラダ油を十分に温め、ペーストを十分に混ぜてからスプーンで掬って油の中に注ぐ。ベニエが揚がったらすぐに調理用の鍋から取り出し、乾かしてから皿に乗せ、望むだけの砂糖を振り掛ける。そしてローズウォーターかオレンジジュースを少々加えて湿らせる。一点、もし定型または詰め物のベニエを作りたいなら、ペーストの柔らかさを減らす。もっと少なくすると「ぺ・ダネ(ロバのおなら)」を作るためのペーストになる。そして普通のベニエを作る代わりに、ペーストを小さなへーゼルナッツよりも大き目に小さく切り分けて、脂身かバターか油で茶色くなるまで揚げる」という。


 とはいえ全く変化を与えなかったわけではなく「マッシュルームを綺麗な水の中に入れて、それから乾かす。それから酢と塩、胡椒、玉葱と共に酢漬けにしておく。食卓に出すときには、卵の黄身で作った水っぽいペーストにつけてから揚げる」きのこのフリッター。

 また「羊肉を新鮮な水に漬けて白くなったら水分を抜き取り、とても薄くスライスする。これにバターかラードで調理用の鍋で火を通し、色々と調味料をつけてマッシュルームや牛脚汁と共に煮る。別の方法として、先ほどのようにスライスして酢と塩に漬ける。食卓に出すときには、乾燥させた後、フリッターの中に入れて火を通して揚げる。取り出してからレモンジュースかオレンジジュースを振りかけて完成する」マトンのフリッターのように、予め漬けておいて、食事前に揚げるものが登場する。


 そのほか「偉大なる料理人」の中にはカツレツの語源たるコートレットがある。

 その最初のレシピ「マトンのコートレットで作るラグー」は「リブロースを薄切りにして、叩いてから小麦粉をつけ、さらに調理用の鍋で火を通す。それから良いブイヨンとケッパーを加えて、味付けをして完成」という。

 コートレットという言葉はリブロースを示すが、こうした肉の部位の区分けは15世紀以降、解剖学が発展した結果だろう。17世紀の料理書の中には「オフィシエ・ド・ブッシュのための完全な学校」のように、稚拙だが動物の解体図を記すものも出てくる。


 その後、ニコラス・ボンヌフォンは田舎料理として去勢鶏のリソルを書き、ジャン・ド・ピュイは幾つかの昔ながらのフリトゥーレやコートレットのマリネのレシピを書いたが、特に画期的というものではないので省く。



 17世紀末、即ちルイ14世の治世の頃、オルレアン公に仕えた料理人フランシス・マシアロの著作「王様とブルジョワの料理人」には、初めてクロケットが登場する。多分コロッケの語源だろう。

 マシアロは「クロケットとは、卵くらいかまたは胡桃くらいの大きさの、繊細で華麗な固形の混ぜ物である。あるものは最初のコースで主菜アントレとして出すか、少なくとも主菜を囲う前菜オードブルとして出し、そのほかは装飾のために用いられる。作り方は、まず去勢鶏、若鶏、そしてヤマウズラの胸肉を用意する。それから肉を細切れにして、ベーコン、牛の乳房、いくつかの白いシビレ、トリュフとマッシュルーム、骨髄、ミルクにつけたパン粉、あらゆるハーブ、クリームチーズ少々、必要なだけのミルククリームを用意する。そして全て細切れにして味付けした後、4,5個の黄身を足す。そして1,2個の卵白と詰め物でクロケットを丸く形作る。これを溶き卵で包み、パン粉で同じように包む。余ったものを皿に置いてから、澄んだラードで揚げて、温かいうちに食卓に出す」と書いている。


 パン粉は、中世の頃にはソースにとろみをつけたり茶色くする為に良く用いられていた。カムリーヌ・ソースはその主要な例で、レシピノートによって少しずつ異なるが、パン粉(ドイツなら黒パン)、生姜、ワイン(白か赤)、オリーブオイル、そして香辛料(クミン、サフラン、シナモンなど)を混ぜて作る。砂糖やビネガーを入れることもあるが、胡椒は入れない。

 近世初期には 揚げ物のペーストの中に混ぜ込むほかに、焼くときや煮るときにも塗すようになるが、揚げ物を覆うものとして現れるのは大体この頃からになる。

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