嵐の夜
ガキもといこれからは猿子と呼び名に変える。
猿子は私の横に着いた。
藁を手繰り寄せ中に入ると私の脇の下に体を入れた。
「おっ••••••い」
離そうとする私の手が猿子の小さな手に触れた。
しまった、寝ているから加減もない、掴まれれば指の一本や二本。
気づかれぬようそ〜っと。
「ん」
猿子は肌から離れようとするこそばゆい指の感触を感じ取ったのか私の指を握ってきた。
何だ?
この掴んでいるのかいないのかわからない弱々しい手。
「ん〜ん」
な、この鳴き声。
一体何が起ころうとしてるんだ。
暗い中何も見えん。
もう片方で確かめるか。
何だこのつまみはおへそか?
「ん、ん〜!」
急に暴れだしたぞ。
どういうことだ。
私がそのつまみから手を離すと人差し指と中指に小さな風が吹いた。
鼻か、ということはここは顔。
ん、手の甲に何か水、いやここは顔だから。
泣いているのか?
この手の弱々しさは震えているからか。
そういえばこいつの親らしき奴がこの家にいない。
お前も1人なのか?
こんな所で10歳もいかない子供が1人で生活するのか。
いや思い返してみれば私が城外に飛び出した時、あの水田の上、泥に這いつくばる子達がいた。
見て見ぬ振りどころか見もしなかった。
こうして思い返すまで。
「ん! ん! ん!」
外が騒がしいな。
何騒いでるかわからんがこういう時は寝るのが一番だな、うん。
「ん!」
「猿子! 痛いでしょ!」
何だよ寝てたんじゃないのかよ。
あ〜お腹蹴りやがって。
こんな夜中に外に出るって何の騒ぎよ。
猛獣か?
あ〜こんな場所で猛獣なんてひとたまりも、いやこいつらのほうが強いか。
ならそんな強いこいつらが騒ぐ事って?
気になるな。
私も外へ出るか。
私が戸の草の布をかいくぐり外に出ると
一瞬辺りは光に包まれた。
••••••
轟音!
一瞬の光を追うようにけたたましい音が島全体に響いた。
嵐か、地面がぬかるんでる。
でかい雨粒だ、米ぐらいあるか。
そしてこの皆の慌てよう。
ここに居てはまずいということか。
皆同じ方へ歩いてるな。
というかこいつらざっと見積もって数百人程度か。
他に集落はあるのか。
いや、今そんなこと考えてる暇ではない。
早く避難しなくては。
あ、猿子がいない。
••••••別に探さなくてもいいか。
普通の人間じゃないからな。
崖の上をこのぎゅうぎゅうの行列、別れることもなく一列に見えるが一箇所しか避難できる場所がないのか?
それに松明が先頭の1人だけ、
列を離れれば終わり、だな。
ああこの崖、何も見えん。
夜だから当たり前か。
高さもわからないからな。
落ちたらひとたまりもない。
「ん!」
危ねえな。
「おい、押すなよ」
「ガコン!」
という音ともに私は地面の僅かな歪みの崩れに足を滑らせた。
「おい! 誰か気づいてくれ。足が浮いてるんだ」
怖い、この人の塊からはみ出したら落ちる。
押すなよ絶対に押すなよ誰も!
「ん!」
おい!
私は塊の外にはじき出され、崖に落下した。
「ん!」
もうだめだ、死ぬ死ぬと思ったが今度こそ。
「ん!」
何か聞こえるな、怖くて目、開けたくないんだけどな。
••••••
猿子、お前。
猿子は空中で私の腕を掴み背に回った。
猿子、まさか助けようっていうのかこの私を。
地面は数秒もたない内に訪れた。
それほど高くなかったか。
「ありがとな、猿子」
私は起き上がり、猿子の方を向くと
猿子は崖を背に起き上がった。
高さはないとはいえ大人を背にして怪我もないか。
だが流石に顔色は良くないみたいだな。
崖の下が洞窟で助かった。
「行くぞ、猿子」
「ん••••••」
猿子は足を踏み出すと子鹿のように片足が曲がり、そのまま倒れた。
猿子は何度も足を立たせようとするががくんと片方の足が曲がって起き上がらない。
私1人でこの夜をやり過ごすのか。
あ〜いや自分のことより助けてくれた猿子だ。
取り敢えず、あの洞窟まで運ばないと。
続く。