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人間ではある。  作者: ふしお
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何回死にかけるんだ。

波立ち静かな海。

天気も晴れ。

なのに私の心は荒れている。


 一ヶ月前、王位継承争いで兄上と対立した中、民草の女と私は行為に及んだ。

麻呂顔の私が好かれるなんてあるわけなかったな。

女は間者だった。

血統を絶たせようとしたのかと不信感を抱かれた。

配下数人を残して味方は兄方に寝返った。

そんなこんなで捕まって、

死刑にならなかったが小舟の上で縛られた。

白装束で今に至る。


 どこを見渡しても陸地は見えない。

しょうもないなぁ。

権力で物を言わせ、好き勝手出来たあの頃に王位なんぞ争わなければ。

どうこう思っても仕方ない。

このまま飢え死ぬか。

と思ったが前方からとてつもない嵐が見える。

波の高さが私のいる所よりはるか高くまで上昇。

飢え死ぬも溺れ死ぬも苦しいな。

嫌だなぁ、死ぬなら一瞬がいいな。

あぁ飲み込まれてる飲み込まれてる。

塩っぱくて目も開けれない。

息ができないな。

身動き取れない、ん?

人差し指から血が出でいる。

なんだろうか


••••••


そうか縄で縛られる時に擦れて切れたんだな。

あぁ、血が糸のように海に溶け込んでいく。

奥からサメみたいのが。

この苦しみを一瞬で無くすにはいいな。

はいパクリ。


死んだのかな? 意識があるのに何も見えない。


!?


今、口内にぬめぬめしょっぱく生臭い何かが侵入した。

気持ちわるい。

口からそれを吐き出すと途端に視界が戻った。

昆布? 昆布が何故口に。

潮の匂い、海岸か。

私は空を見た。

眩しい光が私の目に飛び込む。

青空の光に目を凝らしていると

目の前に藁の布をまとった少女が現れた。

小麦色の肌、ボサホザの短髪、私の国

とは文化がかなり違う。


「ここはどこなのだ?」


「ん! ん! ん!」


 何なのだこの子供、馬鹿にしておるのか?


「私を舐めるなよガキ!」


首を傾げおって喋れないふりもいい加減にしろよ。

よーし落ちてたこの木の棒で懲らしめてやる。


「ん!」


 こいつ、さっきまでの腑抜けた目がまるで虎のように。


「ん! んん! ん!」


威嚇をしているのか?

虎の目になろうと所詮子供、やってやる。

と、腕を振り上げて見たものの力が入らず。

私は砂塵を巻き上げて倒れてしまった。

縛られて漂流して力が入る訳がない。


「ん? ん? ん! ん!」


ちょんちょんと木の棒で私の体を突くこのガキは本当に人間なのか?

本当に言葉が理解できないのか。

ふっ、飽きて去ったか。

少し生き延びたがここらが潮時か、清々しい空気を吸いながら果てるのも悪くないぃ!?

頭を持ち上げられた。

誰だ? あのガキか?


「おい、この容器と液体は何だ?」


木の実? 中をくり抜き、そこにわけの分からぬ液体。


「ん!」


私は頭を液体の中に突っ込まれた。

牛乳のような、油のような

変な味だ。

と、味を確かめる余裕を持たせてくれない。

私が空気を吸うため容器から顔を出すたび頭を押さえつけ容器に突っ込む。

この死に方は最悪だ。

こんな死に方だけは嫌だ!

そうだ、この液を飲み干せば。


••••••


よし、息が出来る。

頭も押さえなくなったな。

誰だ一体こんなことする奴は


「やっぱりお前かさっきのガキ」


ん?私が飲まされた、いや殺されかけた木の実の液を飲んでいる。

そしてガキのにやけ面。

助けてくれたのか?


「ん! ん!」


あー!

もういい、イラつくのも飽きた。

何回死にかければ気がすむんだ。

気分転換にこいつの真似でもしてみるか。


「ん! ん!」


どうだ何か返してみろ。


「ん? ん?」


何で通じねんだよ。

まぁいいや。

気がつけば夕暮れか。

どうやらここは島なのか?

どうする?

今森に入るのは危険だ。

このまま海岸で寝るのもやだなあ。


「ん!ん!」


お、ガキ、案内してくれんのか?

案外いい奴だな。


「へぇ、ちゃんと通る道は整備されてるんやな」


て、何で道路があるのに木の上移動しなきゃいけないんだぁ。

しかも木の上に蛇とか蜘蛛もいっぱい居るし。


「ん!ん!」


「はいはい、ん、ん、」


「ん!」


ガキは人差し指を突き立てた。

指先を見ろと言うこと何だろうか?


「はいはい見ますよ」


......。

言葉を失った。

そこは人間が住むとは程遠い、木の枝や葉などを積み重ねただけの

人間サイズの鳥の巣に葉で天井を作ったような家が幾つもあった。

進化が止まっている。

人間としての進化が。

私はこんな所でこの先生きていくのか。

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